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□間接キス
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間接キス
「暑いのにゃー」
初夏のとある日に、ロケット団の三人は太陽の下で資金集めのためのアルバイトをしていた。
日雇い工事現場でのバイトは今日で最終日。
「よし、俺たちもそろそろ、昼休憩に入るか」
「賛成なのにゃー。って、ムサシはどこへ行ったのにゃ?」
「そう言えばそうだな。おーい、ムサシー」
「うるさいわね、ここにいるわよ」
大きな声で呼びかけてみる、と、後ろから返事が聞こえた。
「うお、びっくりした。どこへ行ってた…って、ズルいなぁ!ムサシ!」
ムサシの手にはジュースが握られていた。冷えているのであろう、缶の側面を水滴が伝っている。
「どうしたんだよそれ」
「さっきリーダーがくれたのよ」
「にゃー達の分は?」
「さあ、あたしの分だけしかもらわなかったわね」
今行けば、間に合うんじゃない?他にも何本かあったから。
言いながら、ムサシはジュースを一口飲んだ。ニャースは急いでリーダーの元へと走る。
コジロウも後を追おうとすると、ムサシに呼び止められた。
「コジロウ、これいる?」
それはムサシの持っていた飲みかけのジュース。
「飲みかけだろ?新しいやつがいいよ」
「半分も減ってないわよ。これ飲んだら、新しいのもらいにいけばいいでしょ」
ムサシの持ってるものは、普通のサイコソーダだった。
「いらないのか?それ」
「いま、ダイエット中なのよ」
そういうことなら、とジュースを受け取った。ムサシはさっさと昼飯を食べに作業員専用の仮設小屋へと行ってしまう。
残されたコジロウはというと、渡されたジュース缶を、穴が空きそうなほど凝視していた。
ふと頭に浮かんだ言葉。間接キス。
プルプルと頭を振って、よこしまな考えを追い払おうとする。けれど、一度意識してしまえばもう止まらない。
「ムサシは何とも思わないのかな」
って、あるわけないか。思春期の子どもじゃあるまいし。
意を決して口を付ける。
味なんて分からないけど、喉を通る冷たい感覚がやけにハッキリ感じる。
熱くなった頬を、太陽のせいにしようと思ってやめた。