手を伸ばせ!!

□私の脳は、女子のために。
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私がドリブル練習用のコーンを設置する間に、リコちゃんは新入生をチェックしていた。
この後はアップしてから、いつもこなしている基礎練習を軽くこなす。うちのバスケ部の練習は相当きついので、とりあえず今日は様子見らしい。
……まあ、初日からとばして、新入生が逃げてしまっては困るし、当たり前だ。

『…………』

私は新入生に夢中になっているリコちゃんの後姿を、じっと見つめる。
彼女の目は少し特殊で、身体を見ればその人の身体能力が数値で見えるのだ。

なんでも、お父さんがスポーツトレーナーをしているらしく、その仕事を見ているうちについた特技なのだとか。
つまり、リアルスカウターだ。
彼女もつくづく、普通ではない。

私の中学時代……選手だったころのマネージャーもなかなか非凡な人物ではあったのだが、リコちゃんとはまた違った性質の才能の持ち主だった。
だから、リコちゃんのこういった仕事っぷりは、なかなか新鮮なのだ。
まあ、リコちゃんの仕事はあくまでも「監督」。あの子の仕事は「マネージャー」だったわけだから、違って当たり前かもしれないけれど。

「キミ、ちょっと瞬発力弱いね。反復横とび、20秒50回ぐらいでしょ?バスケやるならもうちょい欲しいな」
「キミは体カタイ。フロ上がりに柔軟して!」
「キミは……」

そんな風に、次々と新入生たちの弱点を指摘していく。
スピーディーなその手際?に、感嘆の声が自然と漏れてしまう。いやはや、本当にこれは素晴らしい、唯一無二の能力だと思う。
……なんとなく、私がこう言うと白々しく聞こえる気がするが。

と、脳内で一人突っ込みをしていると、リコちゃんが、ある新入生の前で止まった。
ずいぶんと背の高い男の子だ。190cmはあるだろう。
真っ赤な髪、鋭い目つき。何より、その鍛えられた身体に目がいく。
リコちゃんもそれは同じようで、背中から漂う空気が、ぼんやりとしている気がした。

『彼が例の、虎みたいな新入生……かな?』

なるほど。言い得て妙だ。
確かに、あの赤い髪は虎の毛並みを、大柄でしなやかな肉体は野生動物のそれを思わせる。
リコちゃんは恐らく、彼の身体に見とれているのだろう。

「(………なっ、何コレ!?すべての数値がズバ抜けてる……。こんなの高一男子の数値じゃない!!)」
「(しかものびしろが視えないなんて……うっわ、生で初めて見る)」
「(…………天賦の才能!!)」

遠目からでも分かる。
彼がとんでもない潜在能力を秘めた選手だというのが。




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