月影と愛されし君 magi

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その日、バルバッドには大ニュースという名の噂が流れて王宮の前に国民達が沢山一気に押し寄せる

したからは沢山の国民たちの声
それはあまりに大きくて、耳を塞ぎたくなる。
頭に直接響くようなその声たち

しかし、目の前にいる男…この国の国王は黙って鎮座している




「…………ハァッ……この噂流したのシンドバッドおじさんとルシリスでしな、このウワサ流したのは。僕は「霧の団」の捕獲を頼んだだけでし。この騒ぎどうしてくれるんでし。」

「兄弟同士で話をつけてくれ。俺は、内政干渉はしない主義だ」

「……俺も知らない」


「もう散々ちょっかい出しといて何言ってるでし!!」


玉座の肘置きに肘をつき、偉そうにそう言うアブマド
あれが王様だとか、俺は認めない。
あぁいう人間がいるから、国はダメになるんだ。
下から睨み上げれば、密かにビクッとなるアブマドを見てにやりと笑みを浮かべる



「言いたいことが沢山あるんだろ?」
「……………」

「は、話聞いてやろうよ…アブマド兄さん…ア、アリババは…ちゃんと考えて話せるやつだよ…ぼ、僕はそれを知ってるから…」

「…………」

「…………アブマド兄さん…」




アリババの右斜め後ろに控え、話を聞く。

そうすれば、アリババはぽつりぽつりと自分の中で整理したであろう話を話し始める。
それを静かに聞く此処にいる全員、例外もいるが



「知ってると思うけど……宝物庫の事件は俺のせいだ……父上がなくなったのも…俺が原因も同然だ…あの時…自分は消えない罪を犯したと思ってる」

「でも…なぜ…「霧の団」が宝物庫を襲ったのか……?なぜ今、王宮にみんなが押し寄せてるのかを……考えてくれ!あんたの国民の気持ちを!」



自分の過去の過ちを、彼は悔いている。
そんなことは、話を聞けば全部わかる…だが目の前にいるあれにはきっと届いていないんだろう。

目を細め腕を組みながら、話を聞く


アリババが大きな声でそう、あれの心に届くよう話す



「今の政治で貧しい人たちが、死ぬほど苦しんでることを!スラムで育った俺にはわかる………だから、今日ここに来た。」

「……………」

「この国の、国王たるあんたの力で、国民の生活を、これからは全力で守ると約束してくれ!そうすれば、俺は「霧の団」を解散する!」




そうアリババが話終えれば、アブマドはその短い手で長い杖を振る。
その瞬間警備兵たちが槍でアリババの前を遮る


「!?」
「言いたいことはそれだけか。」

「待てよ!!約束は…」


「無礼ぞ。」

「えっ?」



「下賊の者が、王族に語り掛けるのは無礼であるぞ。余は、第二十三代バルバッド国・国王アブマド・サルージャ。下賊と語らう口を持たぬ。スラムの拾い子を、弟などと思うたことはない。そちの首、シンドリア国王殿とレルドザール国王殿の庇護なくば、とうに飛んでいることを忘れるな。」

「……………!」



その言葉に息が詰まるアリババ



「ハァ…ッ下がれ。余は気分が悪い…王宮の外にウジが沢山湧いていて……」




「ふざけるな!!!!」




王宮に大きなアリババの叫びのような言葉が響く


あまりの大きさに其処に居た殆どの人間が、耳を塞ぎ動きを止める




「自分の国民をそんな風にぬかすお前に!!王の資格なんてない!!!絶対にない!!!!」



そして、王宮の人間達もその話を聞き冷や汗を流した

はは、見所あるな彼は。
言えてる、それにそこまではっきり言えるんだ…この国で国王が務まると…俺は思う。


俺もいろんな人間に、アブマドに国王なんて言われたけど…あの国はもうない。それなのに一々それを持ち出すあいつの気がしれない
ま、彼なりの俺が気に入ってるって表現の仕方なのも知っているが何も言わない。

国民をウジ扱いするのに、俺は国王ってどんな贔屓だよ




「おや、これはなんの騒ぎですか?アブマド王よ
?」
「おう、戻ったのか「銀行屋」!」


「バルバッドは相変わらず蒸しますね。参ってしまいますよ…おや?先客が?」


「そちらは、来訪中のシンドリア国王殿とレルドザール王国の元国王殿だ、挨拶せい銀行屋。」
「ハイ。」



銀行屋と呼ばれた男は、服の襟元をパタパタとさせながら目の前へとやってきた。
アブマドと親しげに話しているが

コイツを俺は知っている、コレには会った事はないが何度かそれには会っている


すると、男は顔の前の布を取り




「初めまして!シンドリア、レルドザール国王様!私、「銀行屋」のマルッキオと申します!現在、仕事でバルバッドの財政の顧問を請け負っております。どうぞお見知りおきを!」

「初めまして、シンドリア国王シンドバッドです。よろしく!」
「えぇ、えぇ、こちらこそ!!伝説に聞く、攻略王シンドバッド様にお目にかかれて光栄です!!」

「いや、そんな大げさですよ!」



と、言いつつも、満更でもなさそうなシンドバッド
溜め息をつけば、軽く相手と目が合う


嫌味な奴だ、俺の国が等にないのはどこの人間も知っているしそれに寧ろ忘れられているようなものだ



「…?あなたに…どこかでお会いしたことが?」
「いいえ、私とあなたは初対面ですよ!」

「…そうですか…」

「それから――」
「今は亡き、レルドザール王国皇子ルシリスだ。知っているだろう、俺の国はもうない…その名で呼ぶな」


「お、おい…ルシリス……」



アブマド、銀行屋、両方にそう言う。睨むように

俺はあの人間を許すわけには行かないし、あちら側へ行くわけにも行かない。
だから、あの人間の手をとるのは本当に嫌だ。





その時、後ろから聞き覚えのある声――――。





「あっ!?」




振り返ること無く、目を閉じため息を一つ零す




「あ!「バカ殿」じゃん!お前なんでここにいんだよ〜〜!?ルシリス…!?」

「知り合いでしか?ジュダル殿」
「まぁな!」


「こいつってさ〜何時も俺の邪魔しに現れるんだよねー。ルシリスは俺の大好きなやつ。なールシリスっ」
「………」

「…久し振りだな、ジュダル」



シンドバッドの肩に肘を置いて話すジュダル、シンドバッドはそれを無視しながら考え事をしている。
ジュダルが何故此処にいるのかと――。


俺はそれを知っているが、教えない。

教えたらつまらないし、俺が止める



「あぁ、紹介するでしシンドバッドおじさん。ルシリス。こちらは、煌帝国の「神官」であるジュダル殿でし。」

「そ、俺今煌帝国で「神官」の仕事やってんの!今日だってそのお勤めで来てるんだぜ?」




楽しそうに話すジュダル、銀行屋とも話をしている…。そんな様子にルシリスをは目を細め溜め息をつく



「ハァ…悪いけどおじさんたち…もう帰って欲しいでし。変なウワサで騒ぎを起こしたのはもういいでし。僕は忙しいんでし」

「話終わってねぇだろ」
「あぁ、その通りだ」

「なんのことでしか?あぁ…シンドリアとの貿易再開のことでしか?悪いけど実はその約束は守れないでし。」

「どういうことだ?」

「なぜなら、バルバッドの貿易の権限はすべて…煌帝国に渡すことにしたからでし!」

「……………!?」
「煌帝国が貿易を許可しない国とは貿易できないんでし。黙ってて悪かったでし」





杖を付きながら、そういうアブマドに
流石の彼、シンドバッドも言葉が出ないといったふう

俺もそれにはため息も出ない


此処までコイツが何も考えらんねぇ奴だなんて、今日改めて分かった。まあ…その背後にいる銀行屋が話を上手い事纏めているんだろうが。
本当どうしたものか……。





 

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