月影と愛されし君 magi

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暑い砂漠のど真ん中。

ひたすら歩く影一つ、空を恨めしそうに見上げ舌打ちを一つ
晴れ渡る空と、照り付ける太陽に対してだろうか
その人物は顔の殆どを白い布で覆っている為顔は鼻の頭とそれから下しか見えない。
その白い布は、身体を踝当たりまで覆っている


「あっちぃ〜〜〜〜」



愚痴を零しながら歩く。
その背には大きな大太刀が陽に当てられ輝く

ひたすらに歩けば、一つの大きな街。

その街はチーシャン
この街には第7迷宮アモンがいるらしい
しかし、目的は其処ではない
ふらふらとした足取りで歩いていれば、人と肩が当たりフードも取れる



「っ、ごめんな、大丈夫か?」

「………」
「綺麗だな、その赤髪。それにその目は…きっとそのうち奴隷辞める日が来るよ、それじゃあごめんな?これ一つ買うよ」


直ぐにぶつかった相手を見れば、それは綺麗な何時しか会った彼にそっくりな目元の少女
少女、そんな言葉が似合う可愛い女の子。
こんな子が奴隷だなんて、と思うも
目が合って直ぐに直感でわかったそれを、そのおまま口に出せば女の子が落とした林檎を一つ取り、二倍の金を渡して頭を撫で

フードを被れば林檎を一口齧る



それから、結構遠くまで来た。
先程の場所から離れたが
この街はアモンの迷宮がある為に栄えた街なだけあって結構広い。

半分食べれば、物欲しそうに見ていた子供にあげて歩く、店を覗きながら。
そうすれば、何やら大きなテント

見世物小屋、と書かれたそれ


「へぇ、こんなんやってるんだ……」



結構人が入って行ってるし、人気なのか…と興味本位で近づけば代金を払って中へと入る。
外から見たとおり、移動できるそれだが結構広くて前のひと席開いているのを見れば其処に座った

色んな芸当を披露する人間や、奇妙な生物…などなど


沢山出てくるも、特にその辺のものと変わらない。



《さぁて!!この見世物小屋一番の凶暴な珍しいホワイトタイガー!サーベルタイガーとはまた別物だよ!!金属をも引き裂く強靭な爪を持ち、牛の頭をひと噛みで粉々にする世界に一匹の虎だ!》




そんな一人の男の大きな声と共に出て来たのは、頑丈な客席すれすれの大きな檻の中を彷徨き大きな咆哮を轟かせる一匹の白虎

青い蒼いとても綺麗な、海の様な色の瞳をした
それはそれは綺麗な白虎

その虎は客席に向かって何度も檻すれすれまで、突進する様に吠え回している。
しかし、そんな姿があまりに悲しげに見える
するとこちら側へもやって来た
目が合えばじっとこっちを見てくる白虎
喉を鳴らし低く唸る
それには、見世物小屋にいる人間皆が黙り息を呑む。その瞬間見世物小屋の主人が鞭でその身体を叩き付ける


首には大きく太い鎖、あれだけ機敏に動いていたが足にも大きな足枷

あの鎖がなければ、彼はどれだけ素早く動けるのだろう。それが頭を回る
見るからにあれはまだ子供。







 ― ◆ ―




こっそりと裏へ回れば、尚も鞭で叩かれ唸り声を上げながら見るからに足りない少ない肉を食べる。


「この!この!誰のお陰で飯が食えると思ってんだ!」


あぁ、見るに耐えない。


「あの……」
「!?は、ハイなんでしょう、お嬢様」


イラッとしたのは気のせいだ
そう言い聞かせ、相手には自分の顔は少ししか見えないんだ、と言い聞かせる

そうすれば、女の方の声で問う



「その虎、私に譲っていただけませんか?」

「そ、それは…困りますなぁ幾らお嬢様でもぉ」
「駄目、ですか?お金は――そうですねぇ、この見世物小屋の入場金…60倍でどうです?」
「ろ、60倍!?」


そう言い、金をチラつかせる。


「ッ、で、ではこの鍵を―――」




相手から鍵を取れば檻の鍵を開ける。
その行動に持っていた、渡した金を全部落とした男は地面に這い蹲り金を広い掻き集める

そんなのも無視してルシリスは、檻の中へと入る



「おいで、お前は自由だ――…俺と来るのも良し、此処から逃げるのでも良い。」




頑丈な首輪に足枷、ゆっくりと近付けばゆっくりと立ち上がる大きな虎。大きさは俺と同じくらい。目線が真っ直ぐ合う位置にある
向こうには敵意がない、それは見れば分かることで

足枷を全部外せば、首輪は外したがらない為そのままにして鎖を剣で断ち切る



「ヒッヒィィイイイ!!!」



そこに見世物小屋の人間達が集まり悲鳴を上げ腰を抜かす
その瞬間目の前を風が吹き抜ける






「!駄目だ!止まれ!!!!」






目を見開けば急いで虎に静止をかける為に叫ぶ


惨劇に目をギュと閉じれば、一つの悲鳴
しかし、血の独特の匂いがしない
目を開ければ、すれすれで立ち止まる白虎。



「それを殺しても、何にもならない。俺と一緒に行こう?」



逃げても良いと言ったが、気に入った。けれど最終決定は彼が決める事、両腕を広げれば微笑み虎を見る。
すると、男にひと吠えすればその大きな身体を反転させ目の前に来れば
胸に額を擦り付けてくる。それがあまりにも可愛くて抱き締めれば猫の様に喉を鳴らす



「灯厘(とうり)……お前の名前灯厘、なんてどうだ?!」

《グルルルル…》



そう言えば、一層擦り寄ってきて頬を舐められフードが脱げる
微笑み撫で回せば、首輪は外さなくていいのか?と、再度聞く。しかし灯厘は何も言う事無く只々こちらを見るだけで


分かった、と諦めれば顔を再度舐められる。



少し長めに切った鎖を持てば、歩き出す。



良い買い物をした、そう呟けば隣を歩く灯厘を撫でた―――。






 

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