月影と愛されし君 magi

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つい先程まで、自分の腕の中にいた者は
起きて気付いた時にはその場にいなくて、代わりに少し離れた場所に一つの桃色
義弟である紅覇

きっと、一緒に寝ていたルシリスにくっついていたのだろうと仮定すれば薄着の紅覇に布団をそっと掛けてやり髪を結んで起きる。
猫の様に気紛れで、先程まで腕の中にいたと思うも気がつけばするりと腕を擦り抜け
別の場所を彷徨く、まるで本当に野良猫の様


懐いているようで、あれは懐いていなかったりする。

傍に誰かいて欲しい時だけ、気がついたら近くに居る。閉じ込めようとも何度も思ったがそれをした所で―――。



あの時、自分は起きていた。
相手がルシリスがどう動くのかが気になって

そうすれば、自分の長い髪を結っていた紐を解いて髪を少し梳いてくれた



「おやすみ…紅明……」



一言そう言えば、相手の頬にキスを一つ
そんな相手が愛おしくて、服を無意識の内に握ってしまえば相手は普通に刀を外し隣に潜り込んで寝る。
寝息を立て始めたのを見計らえば目を開ける。

自分よりも少し小さい彼は、金色の髪をして今は閉じているが綺麗な真紅の…自分の髪よりも少し深い綺麗な色の瞳
見ているだけで、ルシリスと言う人間にどんどん引き込まれていく
気がついたら、自分のが依存している。


頬を撫でればこちらに擦り寄ってくる、それがまた愛おしい



「………貴方は、今どんな夢を見ているのでしょうか…」


夢の中でも、自分が近くにいたら良い。なんて女々しい事を思った。
それぐらい彼を好いているのか、と自嘲気味に笑えばその金色の絹の様な髪を撫でる。さらさらとしていて何処か甘い香りがする
こんな香水、知らない。もしあるのなら、ちょっと欲しいかもしれない

幸せそうな寝顔、軽く相手の唇に自身のものを軽く当てれば目を閉じ眠る。



それが、今朝の話。冒頭に戻る

髪を結直し終われば、一言だけでも礼を言おうと部屋を出た。
しかし、思えば何処に居るかは分からない
何時も何処かに出ているか、兄上の部屋に居るか…木の上か、若しくは城下に居る時もある。
そう考えれば、ルシリスを探すのは不可能に近かったりもする


「………何処、でしょうかね…」


侍女に聞くも、姿を見ていないと言う。
やはり、城下にでも降りているのでしょうか…そう考えていれば探し人の部屋の前に着く

此処で待っていれば、何時かは戻ってくるだろうと非番で特にする事も無い為待つ事にした。



その直ぐ後、後ろに気配を感じて振り返れば本人

しかし、様子が変で内心首を傾げる。
視線を下に下げれば、それは分かる




「ルシリス―――…ッそ、その手は!?」



右手の甲から流れ、滴る紅い血



「ちょっと遊びすぎて―――」

「遊び過ぎて、って…何したんですか…来てください」
「っ、大丈夫だこれぐらい」

「駄目です、良いから来てください」
「っ………」


表情からしても、様子がおかしいのは分かることだが、今はそっちよりも手の方が大事。
手首を掴めば痛みに目を細め、抵抗はしてこない
傷口近くは熱くなり熱を持っている、それに微かに震えている
どうしたらこんな事になるのだと、急いで自分の部屋に戻ればまだ寝ている我が義弟紅覇
そんな相手を叩き起す


「紅覇、紅覇起きて下さい」
「んん〜〜〜…なにぃ…明兄……僕まだ眠い…」
「眠いじゃないですよ、良いから起きて下さい、貴方の御つきに怪我の手当出来る者居ましたよね、今此処に呼んで頂けますか」

「えー…何でよぉ…って、あれ?ルシリス!?どうしたのその怪我っ、待ってて今呼んでくるから」

「………あぁ…」


やっと覚醒したのか、ルシリスの手を見て目を見開く紅覇
それを見るなり、急いで部屋を出ていった。

ルシリスをベッドに座らせれば、椅子を取り向かい合うように座る



「どうしたんですか、それは」
「何でも無いって言ってるだろ?遊び過ぎたんだって」

「遊び程度で、そんな怪我した事ないですよね?」

「う……」

「隠すのですか?」


私に言えない事、ですか?
と再度問えば俯いて、左手で右腕を摩りながら話す


「それに、そんな顔してて何もないなんて…無いですよね」

「………玉艶に会った」
「!?」
「けど、これは玉艶にヤられたもんじゃない。それにあいつは俺の事傷付けたりはしないだろ…ちょっと頭に来て壁殴ったら、さ」

「……はぁ、物に当たらないでくださいよルシリス……」


ホッとすれば、今も俯く相手の頬を撫で顔を上げさせれば軽く潤んでいる紅が目に入る
どうしてこうも、彼は人を誘うのが上手いんでしょうか

軽く口付けても、拒まない相手
深くすれば相手を押し倒す、それでも抵抗も何もしない彼


「………」


小さな子供の様に泣く目の前の、自分の想い人

涙を拭えば、優しく口付けて―――


「連れてきたよぉ〜〜〜ッ!?何してんの!明兄!!」
「っ……」
「………目にゴミ入ったから、取ってもらってた。」
「あ、そうそう、それより手だして」

「ん…」


戻ってきた紅覇と従者の女
目を見開けば、身体を起こして自分の身体を押して来る相手に従い身体を離し座る。
嘘だが、それに乗ることにすれば

大人しく引き下がる紅覇

近くに来れば、手の手当を始める


「ルシリスさま、怪我は塞がりましたが…安静にしてくださいまし?」
「あぁ、分かったよ。ごめんな…」
「い、っ、いえ」

「あ〜〜僕の子口説かないでよぉ、ルシリス〜〜っ」
「口説いてない口説いてない。それにしても…寝たのに眠いな………」

「あ、それは魔法の副作用で…」
「では、私が部屋まで送ります。紅覇は先程兄王様が呼んでいましたよ」

「え?炎兄が?!急がなきゃ―――」


そう言えば直ぐに部屋から出て行く紅覇


「嘘、だろあれ。」

「まぁ、けれど朝探していたのでちょうどいいでしょう。立てますか?」
「ん―――…無理」
「ふふ、そうですか」



即答で言うルシリス
それに微笑めば、横抱きに抱き上げる
自分と大差無いはずなのに軽いその身体は、本当にきちんと食を取っているのか心配になる

しかし、彼は人一倍食べる。大食らい
何故其処まで食べて、普段、何時も昼寝ばかりしてる彼が軽いのかが本当に不思議で仕方ない



「…失礼な事考えただろ」
「そんなことは……」
「ニヤけてる…変態だな」

「ルシリスには言われたくありません」



たまには、こんなほのぼのした空気も良いかもしれない






 

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