月影と愛されし君 magi
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誰にも知らせる事無く、部屋に置き手紙
ベタなその場のさり方。
置き手紙に、それから世話になった分以上の金を置いて大太刀を肩に掛けて刀も腰に挿したことを確認してから窓に足をかけ
綺麗な白い色をした布を大きく広げて飛び乗る
シンドリア、結界スレスレの上空に上がってくれば上から下を見下ろす。
「………今日で、さよなら」
呟く様に、誰かに言う様に言えば
肩に掛けた大太刀を抜いて、結界を一部分だけ切り抜き外へと出る。
穴を塞ぐと、もう一枚外側に結界を貼る
「これは、俺からの二個目のお礼さ……それじゃあ」
魔法の絨毯に立っていたが、腰を下ろし甲を返して目的地へと目指す。
何回も行っているそこは、眠っていても着くぐらい場所は覚えている為ずっと海上を飛んでいるのが飽きれば横になり軽く眠り始める。
まだ夜明け前で、薄暗いため目を閉じれば直ぐに眠りに入る
次、目を覚ませば大分寝ていたようで、目を開ければ陽は既に上がっていて朝、そう清々しいと言われる朝のそれで目を擦り下を覗けばそこはもう海上ではなく
一つの大陸の上で、土やら草木やらが見える。
身体を起こせば、大欠伸に大きくひと伸びすれば辺りを見回し
覚醒した頭で、今どの辺を飛んでいるのかと確認をする
「………禁城そろそろ……」
禁城、此処が今回の目的地
久々のこの辺の匂いと、深呼吸をすると
視線とそれから気配
目を細めれば、絨毯をしまい込んで浮遊魔法で禁城を目指す
「やあ、また会ったな――――…黒の君」
禁城の門前、こちらを見て立っているのは
最後に此処に訪れた時に会った、此処の神官と呼ばれる何から何まで黒い彼
「お前……!」
「はは、久し振りだな。あれからかなり経ったのに良く俺の事覚えてたな」
「ッ、当たり前だろ。お前の事どれだけ探したと思ってんだよ!」
「? 俺の事何か探してたのか?」
「当たり前だ!!あのバカ殿と紅炎に並ぶ強さだぜ?俺が見逃すわけねぇだろ」
「そうか。俺あの二人には勝てないと思うけどな」
少々興奮気味に、俺に近付いてくる彼
実際分からないが多分俺よりも、年下だろうか…にしても俺とあまり身長が変わらない。俺のが少し大きい、程度だろうか
俺も其処まで大きい方じゃないが、ちょっと傷つく
シャルも俺より全然でかいし、シンでさえ俺よりでかいしそれに体格も良い
俺はあれは目指さないけども。
今までのことも、思い出しつつ彼と話す。
それにしても、本当に頭の先から足の先まで纏うもの全てが黒い。ルフもだ…これは前に聞いたことがあって、調べた事
――――…堕転
ルフが黒く染まる、染まった者を堕転した者と呼ぶ
「それより、紅炎居るか?俺此処に居ようと思うんだけど」
「!? 本当か!?此処に居るのか!?」
「その為に、シンドリア出て来たんだしな。まあー紅炎と皇帝の許可が下りなきゃ居られねえけどな」
「そんなん俺が言う。お前が此処にいるならな!」
「はは、それはそれは神官殿はお心強い」
「なんで敬語なんだよ…」
「悪い悪い、それで…連れて行ってくれるのか?俺一人でもいいが――」
「俺が連れてく」
なんてからかう様に言ってやれば、むすっとする彼、ジュダル
くすくすと笑えば、相手を見て頭を撫でる。
そうすれば、その綺麗な紅い瞳を丸くさせて撫でていたルシリスの手を取り足早に目的地まで進む
その後を着いて歩くルシリス。
一応、煌帝国では色んな人にルシリスの事は知られているらしく評判も良い為に声をかけようとする者もいるが
なんせ、手を引いているのがジュダルの為誰も話しかけては来ないで姿を見送るばかり
歩くのが早かったためか、直ぐに紅炎のもとに着きノックもなしに堂々と入るジュダル
あー、やっちまったな…。
なんて頭を抱える暇もなしに大きな椅子に座る紅炎の目の前に出される。目が合えば苦笑を零す
「………なんだ、猫を拾ってきたのかジュダル…」
「猫?まあ、確かにコイツは猫かも知んねぇけどよ。それより、コイツ此処に居たいんだとよ、どうする?」
「拒否する理由もないだろう。ルシリス、久しぶりだなお前に会うのは」
「あぁ、そうだな」
「だが、野良猫なお前が此処に居たいだなんて…どんな風の吹き回しだ?」
猫猫って、皆してなんだよ!あれだろ、遠回しに小さいって…言いたいんだろっ、なんで虎じゃないんだよ。
目の前にいる紅炎と目を合わせ、ジュダルの手を優しく外せば少し彼に近付く
そう言い切るなり、腕を引かれ紅炎の足に向かい合わせに座る事になり目を見開けば急いで下りようと藻掻くも意味無しと言わんばかりに身体が動かない
否、掴まれてて動かない。
振り返るも、ジュダルは既に何処へやら……助けてくれると思ったんだが、あの黒猫め
「は、離してくれないか?紅炎」
「この数ヶ月間、一度も顔見せずに何処で餌貰ってたんだ?」
「っ、だから…その猫のネタから離れろよ。何処もなにもずっとシンドリアに居たが?」
「…………シンドリア、か…」
「あの国は楽しかった」
どうにか、逃げようにも逃げられず苦笑すれば優しく頬を撫でられる感触、暖かい頬に目を細めれば相手に結局委ねる。
そんなとこが、猫だと言われるが
それでも、頬と喉を撫でられるのが本当に好きで
それを、紅炎が一番知ってる訳でこうして撫でてくるのもこいつの策の内なのも分かっている。
紅の兄弟も俺は好きだから許しているが…。
シンドリアの話になれば、温かかったし、過ごし易い気候だ…と言いながら微笑めば俄かに目の前にいる彼の眉間に皺が寄るのが分かる
微笑んだまま、冷や汗を流す。彼を怒らせたらまずい、非常にマズイ…。
「此処は、好かぬか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどな?ほら、猫って寒いとこ苦手だろう?」
こんなトコで、猫話を持ち出すのは非常に嫌だが仕方なし。
これも、俺が此処から逃げる為の最善の策!