月影と愛されし君 magi

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あの後、部屋まで着いてこようとするからさっさと部屋に戻って鍵をかけて眠った。
のも束の間、何処から入ってきたんだか
気配一つ、いや気配というより…呼吸音だ。
俺は人よりも嗅覚聴覚視覚は優れているのは、分かっている
だからこそ、暗殺も得意だったし、と布団の中に入っているが…そう気配があって寝れるものではない


上半身を起こせば、音のする方を向いて声をかける



「隠れてんなら、出てこいよ」

「……バレて、しまいましたか…」
「シャルといた時から気づいてる、盗み聞きなんて趣味悪いな、ジャーファルさんよ」



影から出てきたのは白髪の、緑色のクーフィーヤの似合う彼。
流石、元暗殺者…と言えば苦笑を漏らす


「分かっていて、何も言わなかったのは貴方でしょう?」
「はは、そうだな……でもちゃんと気付いたのは俺が立ち上がった時だ、流石…」
「それは、どうも…ですかね。」

「で?こんな時間に俺の部屋に来て――…夜這い?」



くすくすと笑えば、目の前まで出て来た彼を見上げる
しかし、彼の瞳に光がない
のは、直ぐにわかった


その瞬間、見える景色は天蓋と彼の顔



「シャルルカンの事、好きなんですか?」



なんて、君ら酒でも飲んだの?

相手を見上げ、そういわれると目を細めた。


「…好きな方かな」
「そう、ですか……ならまだ、私にも勝ち目があるのですね…」

「お前、俺の事嫌いじゃなかったっけ?」

「ッ……そ、れは昔の、事でしょう…」



昔の事って、俺には真新しい出来事な気がしなくもない
なんて、組み敷かれている奴が悠長に言える事かどうかなんて分からないが、現に彼に組み敷かれたままで動こうにも、どうにもならない

ため息をついて、顔を逸らせばなんで逸らすのだ、と顔を戻される


なんでも何も…。



「あなたは、私の事が…嫌いですか?」



なんて、捨てられた子犬のような目で見てくる相手に一瞬でも心が揺れただなんて絶対に言葉にしない、心の奥底にしまい込んで



「嫌い、なわけないだろ……」
「そうですか。私とも、賭けをしませんか」

「言っとくけど、俺はyesとは答えないかもしれないしyesと言うかもしれない、それは理解してもらうからな」

「えぇ、聞いていましたので…」
「もしその気持ちが俺に対する同情なら、他のやつにしてやれ…そういうのが一番嫌いだ」
「違います。それははっきり言えます…俺は、本当にあなたが…ルシリスが、―――」


「言わなくて良い」


「ッ、どうしてッ!!」



彼の言葉を遮るよう、口に手をやるもそれは意味なく
逆に、泣きそうな彼に目を見開く



「シャルルカンには…言わせた、のに…何故……」

「あー…そう言う意味じゃ…」
「シャルルカンより、俺の方が…」
「わかったから、悪かった………」



それじゃあ、まるで


ジャーファルが、シャルルカンに嫉妬してるみたいじゃないか。なんて思いながら俺の部屋で大声出されても困る、と抱き締めれば
俺以上の力で抱き締め返してくるジャーファル、肩に顔を埋めている



「諦めない、からな…」

「分かった。」
「……絶対ッ…」

「あぁ……今日はもう夜遅いから、それに最近また寝てないんだろ?寝ろよ?ちゃんと…」



そう言うが、自分の肩からの反応が見られない。
まさかと思い黙れば、聞こえるのは寝息で
思った通りのそれに苦笑を一つ、溢せばベッドに寝かせてやり布団をかける
一緒に寝てもいいが、何せ目が冴えてしまった為に布団から出れば腕輪のゴモリーは何時も一緒だがもう一つ

刀の方のマルコシアスを腰に下げて、そのまま部屋を出る。こんな時間だ、殆ど誰もいない











 ― ◆ ―






「………ふぁ…」



眠いには、眠いらしい。身体が。

欠伸一つ。

そのまま、あの中庭まで来ると一本のお気に入りの木の上に登り横になる。一番落ち着くこの木、昼寝も良く此処でしている
ジャーファルには風邪引かない程度で部屋に戻れと、前に注意されたっけな

ドラコーンとヒナホホには、猫の様だと言われた。

ピスティには何時も相手しろと、下でわーわー騒いでいるのを上で寝ていた為に気付かなかったのを後々本人から聞いた
中庭なのだが、俺が此処で昼寝してると下でマスルールが寝てた事もあった。
色んな食客やら、この城の召使たちも通りかかって何時も俺に話しかけたり声かけてくれたり、いろいろしたっけか


なんて、回想めいたことを考えていれば物音一つ




「………」
「そんなトコで寝て、夜を明かす気か?ルシリス」

「んー…少しの間だけだ……お前こそ、寝ないの?シンドバッド」
「姫が一人でいるのを見かけたのでな…」
「まだそのネタ引き摺ってんの、いい加減忘れろよ」


今日は良く、会いたくないメンツに良く会う


下に視線をやると、見えるのはシンドバッドの姿。
溜息をつくと、少し体を起こした。



「それもそうだが、降りては来ないか?俺はお前と話がしたい」



……はぁ、なんでこう彼は普段はバカ正直なのかな。そんな真っ直ぐに話しかけてこないで欲しい俺降りていかなくちゃいけないじゃないか、と渋々地面に降りた。

すると、すぐに近くに来るシンドバッド



「……何だよ」
「初めて会ったときのこと、覚えてるか?」
「あーあ、あのナンパ事件な。よぉーく覚えてるとも」
「っ、ま、そのだなあの時は俺も少しは反省してる」

「大いに反省しろ」


なんて、頬を人差し指で掻きながらそう言うシンドバッド
もっと反省しろよ、と突っ込んだ。
その瞬間に、腕…手首を掴まれる。
驚いて相手を見れば、あまりに今の話の流れでは思えない程、俺が見た事無いぐらいの真剣な表情の目の前の相手

真っ直ぐ過ぎて、真っ向から人を相手にしない俺からしたらその目は…怖いと思うには十分で


震えて目を、顔を逸らす



「ッ……は、なせ…」
「今日、シャルルカンと何話したんだ?…それに、あのお前の行動は普通じゃなかった、異常だった。少なくともあんな顔見たことない」
「……気になるん、なら…シャルルカンに聞けば、良いだろ…そう…何度も、話したくない」

「俺は、お前が欲しい」

「ッ?!はっ?な、にいって――」
「そのまんまの意味だがな…?」
「お、れは男だ…その辺の女に言ってやればいい…七海の女たらしが」

「はは、それもそうだな。けど、男でも構わない…そう思えたのはお前が初めてだ、それに八人将のヤツら…に限らずシンドリアの多くの人がお前のこと好きなのも俺は知ってる」


「なんでそんなこと、今言うんだよ」


そんな俺に行って欲しくないってか、この力が欲しいのかよ。

背後は木で、追い込まれれば相手のが大きい逃げられない片手も封じられてる
空いた手で左頬を撫でてくるが、その手があまりに優しくてまるで壊れ物を触るかの様なそれ。少し手が震えているのは気付かなかった事にした



「それでも、俺は…お前が好きだ。」







 

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