月影と愛されし君 magi

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あれから、あの場からどれだけ走っただろうか。


一向に走っても、自分の探し人の姿は見えない何処まで走って行ったんだか、と呟けば
少し行った場所に、後輩の赤髪の姿



「おい、マスルール。ルシリス見なかったか?」
「………」


そう聞けば、何時も無表情なそいつは方向を指差した



「分かった!悪いな」


そう言うなり、言われた方を探しに走る
そうすれば、周りは既に暗くなったが月明かりに照らされた後ろ姿は見間違えることのない…探し人のもので
近づこうと一歩踏み出す




「来るな」



「何でだ?俺が負けたんだ、この鎖が気になるんだろ?」
「…………」


そう言われれば、動きを止める。

そのままそう返すも相手は無言で、どうしようもない
暗くなり、此処は城の中で一番海が綺麗に見える場所。こんな所あったのか、と思いつつ目の前の相手を見る


「良いから…来る、な……」
「俺なら怪我してないぜ?ルシリスさんよ…」

「………怖い…」

「怖い?」



「怖いんだよ。俺は戦闘の事になるとそれしか頭になくなる…また、あの時みたいに…あの時みたいに―――」



失くすのが、怖いんだ。

そう背を向けたまま言った相手の肩は震えていて、声も震えている
自分よりも少し背の小さい彼が、さらに小さく見えた。年上とかそんなのどうでも良くて、そのまま大股で歩いて近づけば
ルシリスは近付いてくると思っていなかったのか、振り返って目を見開くそんな相手をそのまま抱き締めた


「………俺はアンタの過去は知らない。けど、あれぐらいで死ぬ程俺は柔じゃねえ」

「動けなかった癖に良く言う…」

「あ、あれはッ」
「それに、俺がもし金属器発動させてたらどうした?」
「それなら、王サマが止めてくれるだろう?怖がることなんて無いだろ?」
「……………」


「だから、心配する事ねぇよ」



振り返った相手の真紅の瞳には、やはり涙が膜を貼っていてそれがあまりにも…そうあまりにも愛おしく見えて不謹慎にも見とれてしまったのも事実
先程までの、あの鋭い獰猛な獣の様な目もあれはあれで物凄く良かった…ような気がする。

後半になるにつれ、言葉数が減れば弱弱しいもののシャルルカンに抱き着き胸に顔を埋めるルシリス。


「あ、のさ……」
「なんだ?」

「俺の、過去……知りたい…か…?」


「俺に話してくれんなら、聞く」

「…そうか、じゃあ話す。俺がなんであぁなるのか…ちゃんと話す、から…そろそろ、離してくれないか?」



俺に話してくれるのか…なんて少し浮かれていればそろそろ離して欲しいと言われ
流石に男に抱き締められててもな、と苦笑し離す。物凄く名残惜しいが

こっちと言われ、海が見えるよう座る相手に促されその隣に座る



「俺、この間話したあの後な?14になるまで…約七年間、下衆な貴族の奴隷やってた事がある」
「アンタが、奴隷?」

「そ、俺が。柄でもないだろ?けど、まぁ昔は弱くてな…俺があぁやって戦闘しか考えらんないのは…14になるまでずっとこんな顔だしな、奴隷……アレの処理の所謂…まあ奴隷として使われてきた…その時…」


まさか、とは思ったがそれは本当のようで
俺よりも遥かに強い、この今横にいる彼にそんな過去があるだなんて初めて知った
それもそうだろう、こんな話あの八人将、王も含めれば9人もいる中では、話せないだろう。

驚いて目を丸くしながらそう言えば、言い様のないやるせなさに苦笑しながら泣きそうな顔でこちらを見て答えてくれた



「俺は、この間会っただろ?ゴモリーの金属器を発動させて…その貴族を殺した。その時の自分に降り掛かった血の感覚は今でも覚えてる。その後、その貴族の家にいる者全て気付いた時には俺が全員殺してた。そこに、たまたまやって来た暗殺集団にスカウトされて、そのまま暗殺者になって何から何まで全部戦いの基礎は教え込まれたが、そこの人達は俺が任務に行ってる間に全員殺されてた。皮肉だよな、組織内での寝返りだよ。そんで俺は行く宛無くふらふらしてた時に、煌に…拾われた」



淡々と語っているが、重いと思うそれ
俺も俺なりに色々あって、今此処に…シンドリアにいるが
ルシリスはそれ以上に、辛い思いをしてきたのだと思う。何時もあんなに誰より笑ってて、野良猫のように気紛れで誰に対しても優しい彼が

けれどそれを聞いても俺は、それも全部含めてルシリスが好きだ

此処数日間、ルシリスが自分の前から居なくなることを考えてみたが、それは考えられなくて、元々あんまり俺らにちょっかいは掛けてこないが
話しかければ、話してくれるし
出掛けようと誘えば、必ず一緒についてきてくれた


まぁ、それは俺以外のやつにもしてんのは俺も他の奴らも知っている事で一々焼きもちなんか妬いてる自分がいるのも分かってる




「…はい、これで…全部……」

「そうか。話してくれてありがとうな、それでも……俺はアンタの事が好きだ」
「そうだな」
「そ、そうだなって…答えは?」

「俺もシャルのことは好きだ。けど、俺はそんなに良い人間じゃない、それに―…この間もいっただろ、俺はもうこの国を出て行く。当分戻らない…もしかしたらこのまま戻らないかもしれない。だからシャルのその言葉は思いはその間に消えるかもしれない」



―――いっときの、気の迷い。と目の前のそいつは言った。

だから…と言えば



「俺は、お前の気持ちには今は答えらんな―――ッ!?」


答えられない?思いが消えるかもしれない?

そんな言葉に頭に血が上れば、相手の服を掴めば引き寄せ口を塞ぐ。勿論俺自身のそれで
片手を後頭部に回せば、舌を入れて相手の口内を散々荒らしてから離す



「んッ…は、ぁッ……」

「………」


口を離せば、相手の顔が良く見えて先程まで泣いていた為かまだ目は潤んでいて呼吸が荒くなり口で呼吸をするその姿にみとれた。



「それで分かったか、俺のこの気持ちはいっときの気の迷いでも、そんなちょっとの事じゃ消えない」

「……じゃあ、賭けをしようか」

「賭け?」
「もし俺が此処に再び来たとして、お前が俺の事思っていたならば、その時…考える。」

「へぇ、面白そうじゃねぇか」



そう言われれば、口の端が上がるのが自分でもわかった
俺の気持ちはそんなもんじゃ、消えたりしねえ

先に立ち上がったのはルシリスで、俺に手を差し出してくれるその手を取れば立ち上がりもう一度抱き締める
それでも、俺の手を払わない、と言う事は…脈があるのだろうか






 

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