月影と愛されし君 magi

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それからも、シンドリアは何もする事がないくらいに暇で、平和で


それは良い事なのだけれども、俺にとったら少し物足りない。
陽のあたる中庭の木下、ぼーっと寝転がって木漏れ日を眺めて居ると気配とその瞬間に金属音飛び退くと一回転して四本足で着地

猫の様なそれだと、シャルルカンは言った。



「身軽だな本当、まだ俺と殺りあってないだろ?どうだ?居なくなる前に一つ手合わせ頼むぜ」

「誘い方他になかったのか……ってのは良いか。行こうか」




望んでいた、非日常。


剣術大好きな彼と剣術で勝負できる、そう言えばこの長いようで短い間に彼と剣交えた事無かったんだよな
基本何時もシンの見張り、それからジャーファルの執務の手伝いしたりピスティに誘われてシンドリア巡り(と言う名の荷物持ち)してドラコーンとヒナホホと酒飲んで意識ぶっ飛んで
あの時は何したかまったくもって覚えてないけど、そんなこともしたりして
スパルトスとほのぼのしてみて、シャルルカンとはドラコーンたちと酒飲んだ時に一緒だったっけな
それ以外だと、二人で会うことなんて殆どなかった気がする。

ヤムライハとは、あの時以外に魔法の話もして…あの時の彼女はなんだかとても輝いてた気がする。楽しそうでなにより、可愛いんだからモテるだろうにな


そんなことを振り返りながらシャルルカンの後ろ姿を眺め、着いて歩く。
あの白い髪と、色黒な褐色の肌。
これが彼の特徴で、確かあの国の人間は皆こんな感じの人ばっかりだった気がする。あまり長居はしなかった、暑くて耐えられなかった。

にしても…彼は、鎖アクセサリーにしてるけどさ…物凄く、あれ引っ張りたくなるんだよなダメだろうか本人に聞いてみよう



「着いたぞ…って、なにしてんだよ!」

「あ、ごめんよそれ…物凄く気になるんだよな…引っ張らせ」
「嫌に決まってんだろっ…!!」

「じゃあ、俺がシャルに勝ったら良いんだな?良し、さっさと始めるか」

「だァ――!!じゃあ、俺が勝ったら何か一つ命令聞いてもらうぞ」
「そんな事でいいのか?」
「なら、こっちから行かせてもらうぜっ!」




あ、どっちでやろうか…彼剣軽そうだしな、ハンデ?いやそんな事したら怒られそうだし
やるなら、マルコシアスの剣が良いか。

直ぐに決めるなり、重たい大太刀の方は投げて遠くにやる。そうすれば、鞘から抜いてシャルルカンの一太刀を軽く躱して瞬時に相手に一太刀浴びせる
しかし、それも簡単に躱され同時に飛び退けば互いに何時飛びかかろうかと機会を伺った。




「へぇ、強いなシャル」




久々に、骨がある人と殺れて気が高ぶる
俺がそう言えば、何故か顔を歪める彼
俺何かしたかな?良いか。


俺が地面を蹴れば、彼の懐に直接飛び込む。それを予想していなかったのか一瞬で目の前にやってきた俺に驚き目を見開いて慌てて刀を振るうがそれを弾き飛び退く
飛び退いて着地する瞬間に彼はこちらへと飛んできて、鍔迫り合いになる
しかし、両者も一向に引く事無く刀が擦れ合いギチギチと音を立てて

あぁ、この感じ…。


足に力を入れれば、相手が押される。当然俺が押している訳で、力を込め腕を震えば弾き飛ばされるのは彼で
はは、スイッチ入ったかもしれない。
なんて言葉は頭の端に追いやって、今は目の前の事だけに集中する




「―――…眷属器、何時でも使っていいからな…身の危険、感じる前に」





そうもう一度切り込めば、彼にそう言う










 ― シャルルカン ―




急に、目の前に居たソイツの目つきから何から今までこの数ヶ月間一緒にいたソイツとは思えない程のそれに驚いた
それはもう自分よりも年上で、幾度と無く実戦を積んできた彼だからのものだろうが

今、目の前に居る俺はまるで蛇に睨まれた蛙のそれのようであの紅い瞳と視線が合うと身体が言う事を聞かなくなる
動かないと、動かないとそう頭で分かっていても動けない
こんな時に考え事なんて、柄でもないがそうでもしないとあの赤に吸い込まれそうで、なんてしているうちに相手は自分の懐にいて


「ッく……」
「君らしくないよ」


らしくない、そう今の俺はらしくないだろう。



鍔迫り合いになれば、俺よりも小さいルシリスのその細めの腕の何処から来るのか分からない力で押される
押し返そうにも押し返せなくて、もどかしくて力を込めるも一瞬で押し返される、それ以上に向こうのが押してくる

その瞬間、相手の刀に押されて自分の身体が後ろへと吹き飛ばされ体勢を立て直せば




「―――…眷属器、何時でも使っていいからな…身の危険、感じる前に」




そう言って切り込んで来たルシリス
眷属器を発動させて良いとは、相当嘗められたものだ…幾ら俺の歳上といえど、金属器使いだろうと刀だけで負けるわけには行かない
何時もの様、刀をずらして躱せばそれには相手も目を丸くしたようで、このままとこちらから切り込んでゆけば一度相手の頬を掠る

相手の頬に出来た一線の赤い線


そちらへと目を向けるが自分の頬等見えるわけがないが、彼は頬から流れた自分の血を手の甲で拭い舐める
その行動があまりにも――。

目を奪われていると気付いた時には相手は自分の背後、振り返れば相手はいやらしい迄に口を三日月に歪め刀を振り上げる
しかし、それを振り返りざまに弾けば飛び退く
けれども相手はそんな事もなんのその


その目付きは獰猛な猛獣そのもので、獲物を狙う、いや確実に仕留めようとする獣の視線



「はははッ…そんなもんじゃないだろ?」

「ッ……当たり前、だろ―――」




卑怯、いや違う。
相手は金属器使い、俺は眷属器使い




「眷属器 流閃剣!」





間合い的には、かなり離れているが…こっちには時間がない一瞬で―――。


しかし前を見るもルシリスは構えるどころか、少し俯いていて表情は読めない、これは勝負であってそんな事は今は構っていられない床を蹴れば刀を振りかざす―――…




ガンッ ゴツン


到底剣を交えたとは思えない音が、此処銀蝎塔の中に響き渡る






「いっ!!」

「―――!!」
「なっ!?」



パチパチパチ

「見事な剣さばきだったな、二人共」




一瞬何が起こったのか、理解に困ったが漸く、理解が出来た。
上にいるのはルシリスで…どうやって倒されたのかは分からないが、考えるに足を引っ掛けられて俺が倒れて首の真横に剣が突き刺さっているから
あぁ、俺の負けか…。

しかし、ルシリスの目が可笑しいのは下にいる俺が良く分かっているまるで此処に自我が無い様なそれで
剣を俺の顔の真横から抜き取れば、両手で握り振り上げるその姿
逃げられないこの状況に

拍手の音が一つ


その瞬間に、ルシリスの目に光が戻る。我に返ったようにこの状況に驚き目を見開いた本人は猫の如く後ろへと飛び退いてくれて起き上がる




「……俺……ま、た…」

「落ち着くんだ、ルシリス」
「…………ごめん、な…わりぃ…怪我、ないか?」
「あ、あぁ…大丈夫だ。それより、頬の怪我――」


伸ばした手は、パシッと払われる



「…っ、悪い…一人にさせて欲しい……」



漸く周りを見渡せば、そんなに長く斬り合いをしていたのだろうか…八人将やらほかの食客達もたくさん集まっている
それでもルシリスは震えていた。
剣を拾いその食客たちが開けた道を通って

外に出るとそのまま走り去っていった



「どうしたんだ?」

「………俺ちょっと見てきます…」
「あ、おい――…」



王のそんな声よりも、それよりもルシリスが心配で

後を追いかけた






 
 

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