月影と愛されし君 magi

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あの女装事件から、結構経った。


然程気にしてないからいい、それはな
けれど、それからの彼…シンからの目が痛い
ええ、俺こんななりですけど何か?俺もうお前の前では女装はしてやらん…何度あの日喰われそうになったことか…あぁ、恐ろしい。怖い


「で?なに?」

「あ、いや……なんでもない」



ほらね?なにさ、言いたいことがあるなら言え、馬鹿殿。
んーと、あれ?これ誰かも言ってなかったっけ?


ま、いいか。

目の前に居るシンドバッドは何度も、そのやり取りをしている。
何?と聞いても目を合わせてくれない上に、何でもないと、何かを言いかけてそういう。



「そうだルシリス、君に聴きたかったことがあった。俺たちと会う前の冒険譚を聞かせてはくれないか?生まれてからのことでもいい」



急に言い出したシンドバッド。
まあでも、良い機会かもしれない。
自分の過去を振り返る為にも

たまには、故郷…あの国を思い出しても良いかもしれない
そう思えば、ふかふかの長椅子の肘置きに頭を載せ仰向けになれば一つ一つ思い出すことにした




「あー、じゃあ俺の生まれてから国を出るまでを話すか……」











 ― ◆ ―





レルドザール、かの帝国は緑多く人も、物も沢山あった。


綺麗な海の見える、それはそれは大きな国であった。俺が覚えてるのはその程度の事。



「おぉ、これは…お前に似た可愛い子が生まれたものだ…姫か?」
「ふふふ、王よ…あなた、この子は男の子よ?」

「なんと…女子のようだ…しかし、可愛らしいものだな子とは…」

「親馬鹿ねこの子の名前は―――…ルシリス…なんてどうかしら?」



おお、いい名前だ、どれ私にも抱かせてみろ。と
王と呼ばれた男は妻である王妃から我が子、この国をこれから担うであろう第一皇子を抱き上げた
妻に言われたように、この男は相当な親馬鹿なようで自分にも、妻にも特に妻に似たその我子を大層大事に抱き上げ微笑みその顔を見た

親馬鹿である前に、妻馬鹿なのかもしれない。


後、その二人は一人の息子に大いに愛を注いで、時に厳しくも優しく育てた。


子供は彼一人、増えることはなかった。



それでも、国民も王に妃は満足していたようで

王は威厳有るも、若くそして美しい出で立ち
妃は美しく優しい事で有名であった。
この国は、王に側室が居ない事で有名で政略結婚なんて姫を送ってくる国は多かれど全部それは跳ね除けた。
しかし、約束はきっちりと守るこの王だからこそ人質という名の姫も何もなしに貿易をして居る


そして、この国には絶対的な力もあった。






「おかあさまー」

「ふふ、ルシリスどうしたのです?」

「みてみて!かえる!」
「あら、可愛いわね…綺麗な緑色…」



小さな男の子は、服を汚しながら綺麗な白いドレスを何時も身に纏い綺麗な金色の髪をしたこの国の王妃、この男の子の母親に抱きついた。
微笑みも天使、いや女神の様な神秘的な雰囲気を纏う王妃。

子供は手の中にいる小さな緑色綺麗なアマガエルを、母に見せ自分が捕まえたのだと微笑み話した。母親はそんな我が子の頭を撫でて、同じ背になるようしゃがみカエルを指で撫でてやった。

男の子は、嬉しそうに満足気に笑った



「…はあ、はあ……皇子、早いですよ…!!」

「ふふ、あららリュート…貴方草だらけじゃない、いつもこの子の面倒見てくれてありがとう。助かるわ」

「!? こ、こここれは、王妃様っ勿体無きお言葉!!」
「あら、やめてくださる?私は、ルティスよ?貴方らしくないわねぇ、もう」

「っ、ルティス様…申し訳ございません」

「ははは!リュートおこられてやんのー」



後ろから追い駆けて来たのは、この国の柱が一人四天王の北を守護する、リュートと呼ばれる男

真っ先に見つけたのはルシリス、四天王には弟分のように扱われる。この国はあまり上下関係は気にしないが、それであるからこそ
部下達は王、王妃は特別な存在であるため

リュートは咄嗟に片膝をつき、右手を左胸に当てて深く頭を下げた



「もう、顔あげなさい…あなたは四天王でしょう?」
「しかし……」

「これは命令よ。リュート顔を上げなさい」



そう言われれば、渋々顔を上げ立ち上がる。

漆黒の髪を、ルティスは撫でて頬を撫で微笑んだ



「ずるいっ、おかあさま…おれも……」

「えぇ、ルシリス」

「えへへ……あ、おとうさま!」



「ははは、今日も盛大に服を汚したなぁールシリス」
「えへへ、かえるもつかまえたんだよ!」

「おや、アマガエルですねそれは。可愛らしいですねルシリス様」

「流石我が子だ!」
「おとうさま、ひげいたい〜」



ルシリスは少し離れた場所に現れた王を見て、駆けていった
二人の王族の様な人物を見送ったあと、駆けてきた我子を抱き締めた王、ルレシエディース。
長いため、ルシ王と呼ばれていた。

この時、あの二人の人物を殺していれば――…。


その後ろにいる三人が、東、南、西を守護する残りの四天王達。
声をかけてきたのは、ローブの女。

東、深い青色の髪に透き通る琥珀色をした瞳を持つ、敬語癖のあるアクイル
南、真っ赤な髪はどこかの国にいる誰かを思い起こさせる。金色の瞳を持つ、静かでクールなエルド
西、真っ白い髪に真っ赤な瞳を持つアルビノと言われる種の女で何時も黒いローブを纏っている、四天王唯一の女セリシア



この国随一の手練達で、王の持つ金属器の眷属達である。



母は美しき魔女、ルティス
父は四つの金属器を操る特異点。


そして、王の眷属の四天王たちに囲まれ平和に暮らしていた。


しかし、そんなのも長々と続きはしなかった





最強を誇っていた四天王達も、人間。
一度に大量の人間や魔法使いが掛かってくれば話は別で、体力戦

街は、城下は火の海城にもその炎は迫り次々に使用人を殺していった






「………そろそろ、腹を決めねばなりませんね。」

「諦めるなルティス、まだ終わったわけでは―――」

「いいえ、此処までくれば時間の問題です…リュート、アクイル、エルド、セリシア…あの子達は……もう…」



この頃、何もわからない俺は一人訳も分からず母親に抱きついていた

母親はそんな俺を抱きしめて、窓の外城下を眺めてその綺麗なアメジスト色の瞳から大粒の宝石のような雫を溢し
四天王の名を呼んでいた。


それは、きっともうこの世にはいないのであろう



「覚悟は出来ている、俺が死ねば金属器達はまた迷宮へ戻ると言っていた…一つを除いてはな……ルシリス、これは大事にするんだぞ?お前の役にたってくれる……」
「ブレスレッド?これって、お父様の大事なジンの金属器…じゃないの?」

「あぁ、こいつはお前を次の王と認めている…他のやつらは皆お前が攻略しに来るまで待っているそうだ」

「貴方なら、強くて優しい王になるでしょうね…私には分かりますよ…………私からは、このイヤリング」
「お母様の大事なイヤリング…?何で?」



なんで、そう聞いた俺はこの時何と無く悟った。泣きながら俺を抱き締める母親、母ごと抱き締めてくれる父親

そうか、もう会えないのか。なんて小さいながら思ったが泣かなかった。
強くあれと、散々色々な人物に叩き込むよう教えられてきた
この時俺が、七つの頃だったか




その時大きな爆音と、獣の咆哮、母親の叫びと父親の怒号、手を伸ばしても何もかもが動きがゆっくりで届く寸前で母親に抱き締められ知らない呪文を聞いた
けれども、それを俺はもう覚えていない。


そのあとの記憶はない。

覚えているのはこの腕にある腕輪の中に宿った、女のジン…ゴモリーと小さいながら話した記憶






 
 

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