月影と愛されし君 magi

□55
1ページ/1ページ









何と無く、何と無くだが
面白いことが起こりそうな予感がして、ウズウズしている。

しかし、それが何時起こるか…何が起こるかなどは分からない



「…………」

「楽しそうですね、師匠」

「師匠ってのはシャルだけでよくないか?俺は名前で呼んで欲しい」
「あ、はい。ルシリスさん」


それも、今はアリババ君の稽古中。
シャルが時間が終わったからと酒を飲みに行ってしまったかららしい。
そして、偶々その近くを通りかかった俺が昨日今日と師匠として斬り合いの練習を手伝っている。
俺も暇人だし、それに身体を動かせることはいいこと。鈍ってたらいざと言うとき動けない。

アリババの稽古をつけていると、昔の自分と可愛い白龍を思い出す


自分はアレだけども、白龍の槍には何処か迷いがなく真っ直ぐ。

しかしどうだ、目の前の彼は迷いばかり。



「なあ、アリババ」
「っ、はい…なん、ですか……」


「アリババは力を付けてどうしたい―――?」


「……え?」

「隙有り」




アリババにそう聞けば、一瞬の隙が出来てアリババも防ぐが壁まで吹き飛ばされた





「っぐ……」
「あらら、ごめんなー…手加減はしたつもりだったんだけど…」

「こ、これで手加減って本気出したらどんなんなんですか……」
「俺が本気出したら?んー、そうだなぁ…シンドリア一瞬で吹き飛ばせる」


なんてね、とくすくすと笑えば顔が真っ青になるアリババくん。本当彼も可愛い。からかい甲斐があるってものだ
アリババをからかいつつも、頭を撫でてやれば

ふと、何かが頭をよぎる


考えてみれば、四つ全部開放すれば…まぁ、国の二つや三つ簡単か。でも、そんなことすればまずこの身体が持たないだろう
七つも持ってる彼がそんなことしたら、正しく体は消えるだろう。
けど、世界が消滅しそうだな


前に三つ同時に発動してしまった時のことを思い出し考えを振り払った。





「ルシリスさんは、なんでそこまで強いんですか…?」



ふいにアリババが声をかけてきた



「俺の強さ…?さぁ、俺そんなに強くないよ。あ、シンよりは強いよ」
「え?!あ、あのシンドバッドさんより!?」


「でまかせ言うな、ルシリス」



話の途中で混ざってきたのは、紫の彼で。
振り返れば、クツクツと笑い声をかけ返した


「おや、居たのかい。盗み聞きなんて質が悪い」
「お前なぁ、気付いてただろう」
「元暗殺者嘗めんな。」

「え?ルシリスさんジャーファルさんと同じ何ですか…?」

「残念、彼程俺は綺麗じゃないさ」



元暗殺者というのを聞けば、アリババがジャーファルと同じと言ってきたが本当に俺は彼程綺麗じゃない。
彼以上に色んな罪無き人間殺してきたし、身体も汚い。

今きっと表情には出ていないというのを願い、笑った



「それより、俺そう言えばお前の本気とやらを見ていない。見せてくれんか?」
「は?嫌だね」

「何故だ?」

「今お前が考えてること当ててやろうか?俺を此処においておくため、もし他人に取られた場合を見越して俺の力に軽く封印をかけたい。そうだろう?」



俄かに殺気立つ俺に、アリババが軽く怯えて
それににこにこしながらも答えるシンドバッド、二人に板挟みにされたアリババにはどうする事もできず早く終わってくれと願っている様で

俺の予想は的中していたようで、予想というよりもマルバスの力を借りているのだけれど


「見事だな…けど、そんなことはしない。した所でお前はそれを防ぐすべを持っているんじゃないか?」
「さあ、どうだか」
「見せてくれないのか?」

「…………アリババくん、下がってなよ?」

「え?え?」



状況が飲み込めていないアリババの頭を撫でれば、そのまま軽く押して





「忠誠と業火の精霊よ汝に命ず、我が身に纏え、我が身に宿れ…我が身を大いなる魔神と化せ、マルコシアス!!」




そう唱えた途端に冷気と熱風が同時に吹き荒れ、砂埃を巻き起こせば現れたのは

全身魔装、金色の髪は漆黒に変わり瞳も血の様に真っ赤に染まり妖しく光る。彼を思い起こさせるような容姿に
漆黒の巨大な狼の毛皮を纏い、しかしそれとは正反対の様な純白が相応しい白い翼。
服装も露出が多く



「す、すげぇ……」



アリババが歓喜の声を上げれば

ルシリスの手には、マルコシアスの宿った剣。腕は狼の様に毛で覆われ手首から肘にかけて鉄の装飾がついていて爪も長くそれだけでも武器になりそうで
そんな姿を見ればシンドバッドは、笑いバアルの剣を抜きバアルを纏いにやりと笑い挑発してくるため

腕を下げ腰を下げれば、翼を一度動かし一瞬で相手の足元へ潜り込み下から斬り上げるも軽く躱され向こうから一撃。軽く地面に罅が入る



「本気できたらどうなんだ?七海の覇王さんよ」



今度はこちらから挑発して、向こうが斬りかかってくれば空中に飛び上がり宙返り



「マルバス!!」



マルコシアスの剣を鞘に入れれば一瞬で魔装が解け、背にある巨大な大太刀に手をかければ引き抜き
地面に着地すると同時に、強風が吹き


今度は金色の髪が伸び、腰の当たりまでの長さになり風に靡き輝く。
瞳は真紅のままで、巨大な大太刀を一度振り回せばそのまま一直線に斬りかかった



「っく……」
「ふふ、演技とか要らないぜ…」


鍔迫り合いを続ければ、ルシリスの方が押してシンドバッドが後ろに流され


「ちょっ!!シンにルシリス!!!何してるんですかこんな所でっ」
「何って、そのまんまだろう?」

「っ、」


「っと―――」




シンドリアで一、二の力のある彼らが全身魔装して戦っている。
そんな事をすれば、この国が消えかねないと

音を聞いて駆けつけた、八人将と二人


モルジアナとアリババとアラジンは合流するも、アリババの開いた口はふさがらないよう。モルジアナは表情にこそ出ないものの驚いている。アラジンもルシリスの力を見て驚いている。



「さてと―――」



二つだけ見せておいて、魔装を解いた。



「!?」


「おーわり。疲れた」
「終わりって…はぁ……」



伸びをすれば、シンドバッドも魔装を解き静かに戻った。
八人将たちはそれぞれ、自分の持ち場へと戻っていった




「なんでそこで終わりにしたんだ?」
「疲れたから。」

「それだけじゃないだろ」

「それだけ、しつこい」


軽く睨めばアリババの方へと歩いてゆき



「全身魔装ってのが、こういうことだから覚えておいたほうがいいよ」



そうとだけ言えば、そのままその場を立ち去った









 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ