月影と愛されし君 magi

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しかし、アブマドには危機感がない。
自分の生活があれば、国王として裕福な生活ができていれば

それだけで満足なのだから



「アブマド…煌帝国の支配国になるつもりか?」
「支配されるわけじゃないでし。これも「銀行屋」が提案した、バルバッドの財政回復のための政策なんでし。」

「そうなんです!!国と国との平和的な経済の橋渡し!それが私たち「銀行屋」の仕事!そうだ!あなたも国王様なのでしたら、どうです?私たちにすべてを任せてみませんか?」
「近寄るなクズ」


甘い言葉を持ち出しそう言う銀行屋と呼ばれる男
俺もシンドバッドもそんなもの通じないが、一歩前に出れば男を見下しそう言う。

その瞳には光もなにも映らない

シンドバッドは見えないよう、軽くルシリスを引く


それに黙っている筈がない人間が一人




「ちょっと待てよ。俺の話は終わってねーぞ!国王として約束しろよ。苦しんでいる人達を絶対に守ると…今、ここで約束しろよ!!」


「…………ファ…おじさんそれを早くつまみ出すでし。スラムのゴミの言葉など、僕にはわからないでし。」
「やめろ!アリババ君、一旦引くんだ!!」

「アブマド!!!話を聞けよ!!!俺たちとお前になんの違いもねぇ!!話を聞けよ!!!!畜生―――――ッ!!」





アブマドに向かって声をかけるも、本人は鼻を掘じりながら何も聞いちゃいない。
流石にそれには頭にきたのか、ルシリスは口を開く



「警備兵、離せ。」
「っ、な、し、しかし!」

「良いから離せ、そいつは俺が連れて帰る」

「なっ!!あんたは、あんたは!!」
「分かってる。お前がどうしたいのかも、分かる…けど時期っていうものがある。俺も許さない――…全てを」



警備兵に言えば、驚き王からの命令がない…と躊躇する。
食ってかかってこようとするアリババに、そして


此処にいる全員に聞こえるよう、大きな声で話す。



「俺はこちら側につく。精々後悔しねぇようにな」




騒ぐアリババを肩に担ぎ上げれば、シンドバッドに目配せをしてそのまま王宮を出た














 ― ◆ ―



そうすれば、急に大人しくなる肩の上。
自分の力不足を、何一つ聞いてくれなかったアブマドに対してのやるせなさからだろう、しかし彼はやったほうだ…この年にしては。
王という人間に、あそこまではっきりと自分の意見を話せるのだから。

少なくとも、俺は彼の気持ちが痛い程分かった。


って、さっきからそれしか言ってない…な俺は…あの場で銀行屋を殺すことも何も出来たが巻き込むのはよくない、それに
俺はもう少し考えることをしないと



「……あんた、凄い人間だったんだな…」

「ん?」
「王族の人間だったのかよ…」


「王族?なんの事だ?俺はお前と同じだよ――…同じ人間。それ以外に何がある?それを言いだしたのは、お前だろ?」



後ろから聞こえた弱々しい声に返事をする。

確かに俺は、ほかの人間からすれば王族かもしれない…だが、それももうとうに忘れたような遠き日の事
第一俺は覚えちゃいないし、あの国の皇子、その地位のままだ。
だから、国王なんかじゃない。




「そうそう、自己紹介。俺ルシリス…よろしくな」

「………アリババ…です…」
「アリババ君、よろしく。さて、アジトに着いた」

「俺は、向こうでジャーファルたちと話をしてくる。ルシリスは―――…」
「灯厘連れてそっち行く」



そう言えば、アリババを下ろしてそして抱き締めた



「……君は君の思った通りに動けば良い、足掻けばいいそうすれば…道は見えるから」
「っ………」

「それじゃあ…」


その時塔の中から一匹の大きな虎が飛び出してくる
それに驚くアリババ君だが

灯厘はそっちに目もくれずに、ルシリスに飛びつき擦り寄る。ルシリスもルシリスで灯厘を受け止めれば撫で回す
シンドバッドはそんな様子に、やれやれといった表情で



「アリババ君、あれはルシリスのペットだから大丈夫だ。」
「ペットじゃない」
「あぁ、そうだったな。悪かった…親友?というべきか」

「そう、何ですか…それにしても…でかいですね…」


先ほどの事が、余程堪えたのか黙ってそのまま部屋へと戻っていった。
そんな後ろ姿を、灯厘を撫でながら見つめれば抱き締め目を閉じ


その後、シンドバッドと一緒にジャーファルたちの元へと戻った



「シン!ルシリス!」
「あぁ…」
「……その様子だと、交渉は決裂…ですか」

「そうだな、あいつは何も聞いちゃいなかったよ」

「流石、我欲しかない豚だったよ」

「ちょっ、ルシリス!?」



ルシリスは腕を組みながら、壁に寄りかかり二人の話を聞けばそう零す。その一言に苦笑するジャーファル

あれはどうしたものか…この国は立て直せないのか…いや、大丈夫だ、出来る。大丈夫だ
俺は絶対立ち直らさせる。




「それはそうと、今日の事は霧の団、それから国民に伝えるべきだな」

「あぁ、言わなきゃ話は進まないな…これからが大事だし」
「それより、お前。ジュダルと知り合いか?」
「知り合い?うーん、まぁ知り合いか。お気に入り?だな」

「―――…お気に入り?」


「そうそう、シンドリアとはあまりよろしくない関係だっていうのはわかってる。けど、俺はアル・サーメンは敵だがあれはお気に入りだ」




そう言えば、急に空気が鋭くなる。

特に、ジャーファルの。そんな事はわかっているが



「けど、かなり気に入られてたな」
「だからなんだ?お前には関係ないだろう?」


そう、関係ない。はっきりと目を見てそう言えば
彼の目に、悲しげな色が灯ったのを俺は知らない。敢えて、知らないふりをしただけかもしれない――。



「ジャーファル、マスルール。三人を呼んで来てくれるか?霧の団の団員たちに話をしよう」





シンドバッドの言葉を聞いたジャーファルとマスルールは、三人を呼びに出て行った。
そして、シンも俺もあそこへと向かう





 

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