Seven Deadly Sins

□22夜
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刻々と、残酷に進む時。

嫌な予感が、当たらなければいい。
家族に何もなければいい。


―――願いは無情に消える。



あの日から随分と経った日、遠征先へと慌てて転びかけながら目の前に走って来た煌帝国軍の伝令の兵士。



「どうした、落ち着け」
「でっ…伝令!!です!!こ、皇帝陛下がっ…!!!」



『…お亡くなりになりました!!!』


慌てて呼吸もままならない兵士を、落ち着くよう銀嶺が声を掛けると呼吸を整え、そう言った。

その言葉に、その場に居る全員が驚き騒いだ。



「静かにしろ。それは本当?虚偽の可能性は?」
「ほ、本当でございます!!そして、急ぎご帰還を!!とのことです!!」

「…………そう…」



もう、そんな時か…。

このままいけば、何もなければ…紅炎が皇帝の座に着く筈だ。

…何もなければ…な。

煩い、と立ち上がり黙らせ最後まで聞くとそのまま椅子に崩れるように座り大きなため息ひとつ。
俯いたまま下がれと、手を振ると深呼吸を一つ。



「急ぎ帰還の用意を!!帰還は私と少数で良い!後の者は此処を頼む」

「はっ!!!」
「御意!!」


立ち上がるとそう言い渡し、自らも直ぐに出られる用意を始めた。

しかし、それでも此処から半月はかかる。
早々に用意を済ませすぐに発った。








 ― ◆ ―




馬に跨り、急ぐ事半月。



「紅藜様のご帰還だー!!!」
「門を開けろー!!!」


煌帝国北部国境に、太陽が沈み始めた頃響いた声。
門が開くと列をなし入って来る紅藜と曉蓮部隊。


「紅藜、お疲れ様です。紅覇が後もう少し到着に時間が掛かります。休んでください」
「…分かった、兄王様は?」
「もう着いていますよ、挨拶先に行きましょうか?」
「……そうね」


到着後、直ぐに出迎えてくれたのは紅明だった。
いつもいつも助かる。

案内されその部屋へと行くと、先に3人居たようで



「兄王様、紅藜が戻りました」
「紅藜か、良く帰った」
「ええ、ただいま戻りました。紅玉に白瑛に白龍、久しぶり」
「お、おお…姉様!」
「紅藜殿、お久しぶりです。だいぶ長いこと会ってませんでしたね…お変わりないですか?」

「ふふ、特に何もないよ。白瑛の方は?」

「同じく、変わりないです」


歩いて中へと入ると、普段着の4人。
集まった兄弟達を見て微笑み挨拶をした。
少し、硬いその場の空気を少し解れた。

白龍と目が合ったが、その後直ぐに目を逸らされた。



「……向こうへ行くのは明日?」
「ああ、そうだな紅覇が戻ったようだがもう遅いからな」
「分かった、それなら今日はもう休ませてもらうよ…疲れた。」

「それでは、私たちもこれで――」



何時行くのかと聞いて、明日だとわかると甲を返し歩き出した。

それに続くように皆散り散りに部屋へと帰って行った。


「紅藜殿、話があります」


のだが、その前に後ろから呼び止められた


「……白龍?」

「はい、俺です。銀嶺殿達は…外してもらえますか、二人で話がしたいです。」
「………そうですか、分かりました。先に部屋に戻っています。鈴、秀行きますよ」
「………」
「はぁーい」


白龍から銀嶺達に言うと、銀嶺は白龍を睨んだが直ぐに二人を連れその場を後にした。
白龍の後ろに着いていくと、月が高く上がった下立ち止まった。


「………紅藜殿、お久しぶりです」
「久しぶり、白龍。少し背が伸びたね。腕、どうしたの?」
「伸びましたか?嬉しいです。腕は、シンドリアの方で色々ありまして…」
「そうか、でも元気そうで何より。」


前と変わらぬ笑顔で、二人で話をした。
ふと、見ると腕が片方義手になっていたのを見て、白龍を見ると少し恥ずかしそうにそちらの腕を触りながら答えた。


「紅藜殿」

「ん?」
「…………紅藜殿は、俺と――」


「ああ!!ここに居たぁ〜〜〜!もう、何で部屋に居ないの〜〜」



ふと、真剣な表情で何かを言いかけた白龍だったが、それを遮る様に紅藜を探しに来た紅覇によって掻き消された。



「あれぇ、白龍じゃ〜ん。何?藜姉となに話してるの?」
「いえ、ただの話ですよ。それでは、おやすみなさい」
「? ええ、おやすみ白龍…」
「ふーん、おやすみぃ〜。あ、ねえ藜姉今日一緒に寝てもいい〜?」



紅覇がやってくると、何事も無かったかのように苦笑しながらその場を離れていった。
それに紅藜は、疑問を浮かべつつにその後ろ姿を見送り紅覇に言われるがまま後ろ髪を引かれつつ部屋へと戻った。

…なんだったんだろう。
白龍があんな顔しているの、見た事がない。
苦しそうでいて、何処か…絶望しているようなあの表情…。なんであんな顔していたんだろう…。


「ねえ、紅覇」
「ん?」
「……紅覇は兄弟が大事?」
「そりゃ〜〜皆大事だよ?何で?」

「何でもない、明日朝早いからもう寝な」

「子供じゃないんだから大丈夫〜〜!」


身の回りに事を済ませ、布団に入ると紅覇にそう聞いた紅藜。
けれど、紅覇からの質問には答える事無く話を切り上げて背中を向け布団を被った。
少し経つと、大人しく眠ったのか寝息だけが聞こえて来た。
相手を起こさぬよう、布団から抜け出すと髪を軽く結わいて外へと出た。

部屋から少し離れた建物の二階の手摺に上ると、その上に腰かけた。


子守歌一つ、口遊んだ。



「――…それ、好きでしたね」

「!?」
「そんな驚かないで下さいよ、ここ私の部屋ですよ」
「お前の部屋がどこなんて聞いてないから、知る訳ないだろ…心臓に悪い、せめて物音くらい立てろ」
「ふふ、いいじゃないですか…それにしても、最近本当に会いませんでしたね」


急に後ろから声を掛けられ、ビクッと身体を震わせた紅藜。
振り返ると、そこに居たのは片割れの弟紅明だった。


「それ、母上が歌ってたものですよね?」
「そう小さい頃よく聞いてた」
「ふふ、懐かしいですね…どれだけ前の事か…」
「かなり昔、だな…変わったしな。色々と」


手摺に肘をついて寄りかかる紅明とその手摺に座り外へと足を投げ出している紅藜。



「紅明、昔は泣き虫だったのに…今じゃ紅炎との会議中に目空けたまま寝てるんだから、笑っちゃうよな」
「失礼な、私だって泣きたくて泣いてたわけじゃないんですよ!それに、雪降って雪遊びした次の日直ぐに高熱出す紅藜に言われたくないですね」
「それこそ、不可抗力じゃないか…ふふふ、久しぶりだなー本当。明とこうやって話せるの」

「本当、イデアに嫁に行ったとかいう話を聞いた時は耳を疑いましたよ」
「あー、あれな…あれは俺も驚いた」


二人で昔話に花が咲いたのだが、紅藜の一言にムッとした紅明が反論すると更にそれに文句を言おうとした紅藜だったが
急に込み上げて来る笑いを堪えきれず、一頻り笑うと紅明の頭を軽く撫でた。

イデアの話が出ると、少し拗ねた様な声の紅明。


「紅明」
「なんです?」
「…紅覇含め、俺とお前と三人で…紅炎を支えような。誰も欠ける事無く……」
「………また、変な夢でも見ました?それとも、何か変な予感でもするんですか?」

「何でもない、けど、紅明に聞いておきたくて…な」

「そんなの、当たり前じゃないですか。何のために今まで頑張って来たのか…」
「そりゃあ、ね。けど、俺は俺の今まで通りのやり方で行く。それに、俺が気にらないことは気に入らないって紅炎に言う。お前らは、今まで通り紅炎について行って欲しい」



だから、約束。と紅明の前に左手の小指を差し出した。



「……約束します。けど、紅藜が何も全部被るつもりなら、それは半分は私のものですからね」
「ああ、そうする。逆を言えば、お前の不利益も半分は俺の不利益だからな」

「ええ、当たり前ですよ」


小指を絡め、互いに目を見て確認する様に言った。






 

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