さて、眼下で繰り広げられてる闘いももう終盤
大きな槍を振るうカタクリ
相手方の船長をその槍で突き刺して、この闘いは終わった
半分に折られた船は、渦巻きを作りながら沈んでいく
さて、挨拶していくか、逃げるが勝ちか
苦手、なんだよなあ
次の瞬間、鋭い目をしたカタクリと目が合う
あ、やっちゃった
またたく間に下から伸びてきた餅に身体を巻き取られて、船に叩きつけられる。……と思ったのに、そこは誰かの腕の中
ああ、顔を上げたくない
「久しぶりだな、リーダ。もっと早くに声をかけくれていたら、すぐに殲滅を終わらせていたんだが、」
「久しぶり、カタクリ。たまたま偶然通りかかっただけだから気にしないでいいよ」
「寂しいこと言うじゃねェか。とうとう俺との結婚を考えてくれたのか？」
「たまたま偶然通りかかっただけって言ったよね、今？」
「ママもリーダなら喜ぶだろう。この前ウエディングケーキの話をした」
「勝手に話を進めないでほしいな？それもなんでする前提なの」
「リーダは生クリームとチョコ、どちらが好きだ？」
「私はチーズケーキが好き」
「俺が好き？…言ってくれるじゃねェか」
「この次男坊どうにかしてくれないかな。え？耳に餅詰まってる？ていうか、ビックマムが許さないでしょう、私との結婚なんて」
「ママは大賛成だぞ。待ち疲れて、ママが迎えにいくべきじゃないかなんて話もした」
「お願いだからそれだけは何としてでも止めてほしいかな」
話を聞かないのは絶対ビックマム譲りだ
如何せん、最高戦力と呼ばれるだけあって簡単に抜け出せないから余計にタチが悪い
思わず舌打ちをこぼしそうになる
餅を使われたのはさすがに初めてだ
その前に、年齢差を考えてほしい
ただのロリコンくらい年が離れてるからな
これでいいのか最高戦力
ビックマム、アンタの息子がやっちゃいけない犯罪に手を染めてるぞ
あ、コイツ元々海賊だった
それもあれが母親なら背中押すに決まってる
迎えに来るなんてもってのほかだ
身体に餅を巻き付けられて抱えられたまま、昔入った船内、それもカタクリの部屋まで連れていかれる
助けてー
助けを求めて来る途中の船内を見渡しても、どれも歓喜やら歓迎やらそんな表情でいっぱい
ここは正しく敵船だ
部屋の大きなベッドに投げられて、餅をやっと取ってもらえた
思わず逃げ出そうとすれば、動く前に手を押さえつけられる
覆いかぶさってきたカタクリを、足で蹴ろうとしてやれば、その前に足を押さえられた
見聞色の覇気、舐めてた
「冗談もほどほどにしてよ、カタクリ」
「俺は冗談は嫌いだ」
「うん、そんな顔してる」
「…昔お前は俺に、俺の口は個性だと言ったな」
「言ったよ、人それぞれ個性はあるもの」
「今、これを直接見ても同じことが言えるか？」
そう言って、カタクリは口元のマフラーを鬱陶しそうに外した
そういえば直接見るのは初めてだ
そこには昔聞いた通り、耳まで裂けた口と獣を思わせるような鋭い牙
カタクリの目は、これもまた初めて見るけど、ひどく揺れていた
そんなに不安になるなら見せなきゃいいのに
私はやっぱり綺麗事なんて言えないから、思ったことを口にする
「いいね、たくさん食べ物が入りそうだし、肉が噛み切りやすそう」
「、は？」
「え？」
「……そうだな、そうだ、この口のおかげで大きなドーナツが食える」
「まさかのドーナツが好きなの？ここでギャップ判明してもそんな情報私全然得にならないんだけど」
「今度うちのコック達のドーナツを食わせてやる、メリエンダの時間にでも社の中で一緒に食うか」
「だから、私はチーズケーキが好きなんだけど。あ、だめだ、聞いてないんだった」
「……リーダ、」
ずいとカタクリの顔が近づいた
本当に触れるか触れないかくらいの距離
カタクリの目はもう揺れてなんかなくて、すごく、熱の篭った目だった
牙なんかより獣に近いかもしれない
カタクリみたく見聞色の覇気を使わなくても、次にすることなんてすぐに分かった
「このままキスすれば、１００%とは言わないけど、カタクリの能力はコピーできるよ。カタクリの記憶だって覗ける。シャーロット家次男坊、本当にい、っ」
「過去に興味なんてねェ。リーダ、お前に知ってほしいのは俺のこれからだ。俺の能力？お前にならくれてやってもいい。もし俺たち家族の情報を漏らせば、バレた時点で俺がおまえを捕まえる。殺してなんかやらねェ、一生、俺の側にいさせてやる。……リーダ、俺はそれくらい本気だ」
ここでもう一度触れるようなキス
どうしよう、腰にキた
陽炎の気持ち
(どの能力を使ったかなんて忘れたけど、とりあえず逃げた)