ふわふわり
□11
1ページ/2ページ
マルコの能力でまた自由気ままに飛んでいた
やっぱり私はこちらの方が性に合うらしい
ここは輪のように並んでいる4つの島がすべて橋で繋がっている珍しい島
当たり前だけどこの4つの島は交流があって物流も盛んだ
この島々での特産品はお酒
ウイスキー、ワイン、ラム酒、ビール
それぞれ一つ一つが島の特産品
材料も全てが島で作られている
最初から最後まで、全てがハンドメイド
品質はピカイチ
そんな四つの島をひとつの海賊団が取り仕切っていた
名前はうろ覚え
私がそうなんだから、大して強くないんだろう
はてさて、なんでそんな海賊団がこの島を取り仕切ることができてるんだろうか
噂じゃ、ここのお酒はかの海賊王も嗜んでいたらしいのに
さて、現実逃避はよそう
空にいる私の下で、その海賊団が叩きのめされている
相手は四皇ビックマムのところの将星カタクリ
つい最近また懸賞金が上がったはずだ
まあ勝ち目なんてあるわけない
相手の海賊団の船から黒い煙が上がって、ぶくぶくとなにかが沈んでいく
たしか、最近万国で洋酒を使ったお菓子作りが盛んだって情報にあったからそのためかな
ここもまたビックマムの領地になるのか
お酒を飲みに来るのは、少し経ってからの方が良さそうだ
正直言って、カタクリはビックマム海賊団の中で唯一のお客さんであるけれど、私の中で唯一苦手なお客さんでもある
これならスムージーやクラッカーになってほしかった
たしか、初めて会った時私は船で旅をしていた
その島はビックマムの領地で、ジャムが特産品
そこに遠征帰りのカタクリが偶然水やら食べ物の補給に寄ったらしい
前から、ぜひビックマムの海賊団の中で顧客は欲しいと思っていたけれど、あの将星
最初が次男なんて、さすがにハードルが高すぎだ
ぼうっと、港に近いテラスカフェに座って観察していた
紅茶に入れても、ここのジャムは美味しい
けれど様子がおかしいらしい
船から出てきた船員は皆あたふたとして、街へと走り出していく
それから、白衣を着た医者らしき人たちを何人も船内に慌てて案内していった
頭を捻ってみる
あの、部下や家族に寛大で優しいと有名なカタクリが先頭に立っていないのを見ると、医者が必要なのはカタクリ本人
もう少し観察していると、肩を落とした医者達がのっそりと出ていって、また違う船員が慌てて船から走りでていった
これは大チャンスじゃない?
走り出ていった船員の肩を叩いて話を聞いてみる
初めは警戒していた船員も、囁くように私の通り名を教えてあげれば、途端に顔を輝かせて事情をペラペラと話しだした
どうやら予想通り、カタクリが殲滅で出かけた夏島を出た数日前から高熱で倒れているらしい
船員の中でも何人か高熱がでている人もいるみたいだ
原因不明で船医もお手上げ
そしてやっとたどり着いたこの島で、腕のいい医者を探し回ってる現状
この全員の共通点は、身体のどこかに大きく腫れ上がった発疹があること
船医は、本当に医者なのかな
この街の医者も含めて
症状と共通点から、ひとつの病気しか浮かばない
船員に、すぐ船に案内するように伝えれば、半泣きになりながらお礼を言われた
それはいいから早く案内してほしい
船内は甘ったるい香りがした
甘いものは嫌いじゃないけれど、これはさすがに吐き気がしそう
先にこっちがやられてしまうじゃないか、
広い船内を水を張った盆や食事を持った船員がせかせかと走り回ってる
その最奥の大きな扉の前
カタクリは5メートルを超えるらしいからこんな大きな扉なんだろう
流石に少し緊張した
ちょっと前に初めて話した白ひげの親父さんの時と似てるかもしれない
船員が、なるべく静かに扉を開ける
大きい部屋の中には、やっぱり大きなソファの上でカタクリはいた
ああ、生まれてこの方、たしか一度も背を地面につけたことがないんだっけ
顔は赤く額には大粒の汗、息も浅い
こんなになるなら寝転べよ
ここでカタクリの視線が私に向く
鋭い視線だ
軽く頭を下げておく
『…初めまして、リーダ・ライアニアと申します。少々医学を嗜んでおりまして、街を走り回っておりましたカタクリ様の船員に声をかけさせていただきました』
『カタクリ様!こちらの女性は、この前ママが仰っていた黒い女神であられるそうです!』
『ママが言っていた……?…そうか、それは心強いじゃねェか』
『すみません船員さん、氷水を張った盆とタオル、あとここの船医をお呼びください』
『!はい!!!』
船員が慌てて部屋を飛び出していく
大きく響いたドアが閉まる音に、カタクリは顔を顰めた
その様子なら症状に頭痛もありそうだ
頭を押さえた左の手首に噂の発疹
やっぱり1つしかないじゃないか
一言かけて、カタクリに近づく
『カタクリ様、額を触っても宜しいですか?』
『……あぁ』
『やはり熱は高いですね。お食事はとっておられますか?』
『いや、食欲はねェ』
『その分だと水分もあまりとっておられませんね。カタクリ様、高熱がでておられて話すのも億劫かもしれませんが、お聞きください。私はこの船内で蔓延している高熱を治すことができます』
『!できるのか』
『はい。…つい最近、夏島におられたと聞きました。その際に蚊に刺されたのだと思います、この発疹がその跡です。蚊はいろいろな病気の媒介となりますし、この地域の蚊はその方面で有名です。潜伏期間は数日。現在症状が出ていないものは大丈夫でしょうし、人から人にうつることもありません。この中和剤を打てばものの数時間で熱も下がります』
『たしかに、あそこの島は虫の類が多かった。……それで、黒い女神、お前は報酬に何を望むんだ。お前の噂は万国まで届いている』
『さすがカタクリ様、お話が早くて助かります。もし腕が気に入れば、私の顧客に、またはほかの兄弟様にご紹介していただきたいのです』
『そんなことか。いいだろう、治せ』
『はい、では契約成立、腕を出していただいても?』
ポーチから注射を出して、アンプルから中和剤を吸い上げる
駆血帯を巻いて血管を浮き上がらせてから、アルコールで消毒して注射した
傷口を押さえて駆血帯を外し、絆創膏を貼ろうとしている時、部屋の扉がまた大きな音をあげて開く
そこにはさっきの船員とよぼよぼの白衣を着たおじいさん
『これで数時間後には熱は下がっております。船員さん、ありがとうございます。船医さんはこの中和剤を症状がでている者達に、その盆とタオルは私にお願いします』
『カタクリ様、よろしいですか……?』
『あぁ、いい、打ってやれ』
『さてカタクリ様、お食事をとられるか、点滴を打つか、どちらがよろしいですか?肌と唇の様子から、栄養を早急にとるべきです』
『……食欲が湧いてから食べる』
『それでは一向に治るものも治りません。全快にするまでが医者の仕事です』
『………飯を食べる』
『では船員さん、消化のよい食事の準備もお願いします。言った通り、ほかの人たちにも何らかの形で栄養と水分を摂取させてくださいね』
上ずった返事をして、船医と船員が部屋から出ていった
船員から受け取った盆にタオルを浸して絞る
それをカタクリに渡せば、明らかに頭の上にクエスチョンマークが浮かばせていた
可愛くないからな
『汗をかいておられたようなので、このタオルで身体をお拭き下さい。私は部屋の外でお待ちしております』
『いや、いい。そこにいろ』
『え……、あ、はい』
出ていく気満々だったのに
目の前には、何故かタオルで身体を拭いていくカタクリ
時折、私に温くなったタオルを手渡してくるから、それを氷水でゆすいでまた渡す作業
そんなに時間は経っていないはずなのに、どうしてこんなに長く感じるのか
沈黙が重い
私の仕事は終わったよね?
これでカタクリは私の顧客に入るだろうか
ぜひほかの兄弟もぜひ顧客に入ってほしい
報酬が楽しみだ
ああでもお菓子ばっかりは困る
『俺には秘密がある』
『?急にどうしたんですか?』
『熱で判断が鈍っているらしい。……俺の口は醜く裂けていて、まるで獣のような牙もある。大体の者はそれを見れば恐れ戦いて逃げていく』
『人それぞれ個性でしょうに』
『個性?』
『私には裂けた口も牙もございませんが、それがあっての個性でしょう。人それぞれ、それがコンプレックスとなるか自慢となるか、それはその人次第です。それを嫌なら隠し通せばいいし、無理にさらけ出さなくてもいいと思います。綺麗事は嫌いです、それを受け入れてくれる人だけ周りにいればいい、拒否する人は消せばいいだけの話です。…まぁ、持論ですが』
『受け入れてくれる人だけ、か』
『カタクリ様に大それた説教じみた話をしてしまいましたね。ぜひ今後ともご贔屓にお願いします』
『待てリーダ』
『?はい』
『嫁に、こないか』
『…………は?』
熱ではないなにかで顔を赤くさせたカタクリ
思わず素が出た
これが数年前の話
さて、本当に現実逃避はよそう
カタクリ曰く、私の容姿はもちろん性格も医者としての腕も気に入ったとかで求婚の嵐
最近ビックマムからの結婚しろコールがすごかったらしい
本当に洒落にならないからやめてくれ
ほかの兄弟にも紹介してほしいと言ったのに、ただの独占欲が発揮して、ほかの兄弟の仕事も全て仲介にカタクリが入る始末
その途中で私が素になるのも致し方ない
それで更に求婚の嵐が酷くなるって分かってたならしなかったけどな
選択、間違えたかな……
この前にスムージーに『リーダ義姉さん!…あ、間違えた、リーダ!』って呼ばれたのを忘れない
クラッカーのあの哀れむような目も忘れないからな