ふわふわり

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「今日はワノ国の料理にでもするか」





スモーカーとの取引の後、また海の上を飛んで飛んで、たどり着いたのはこの島だった

ここはとても変わった気候をしていて、太陽が顔を出している間は夏島のように暑く、けれど夜になれば冬島の真冬並みに寒くなる

まるで砂漠みたいだが、この島の日較差にも耐えることができるように進化してきた植物たちが生い茂っている所もあり全く緑がないわけではない

私はそんな希少な森の近くのロッジを借りた

ここにはどんな植物があるんだろうか

今日までは街などを歩いてこの島全体のことを調べていた

まあこんな島だから人口も少なく、来るのも貿易船くらい

静かでよさそうだ


パチパチと燃える暖炉の前のソファに沈み込み、沈みかけている太陽を横目に見ながら今日の夕飯をなににしようか考える

ここで、前にイゾウに報酬でもらったワノ国の料理本を思い出した

そこに寒いときには最適な"ナベ"という料理があった気がする

昼間に買った野菜や魚があるしちょうどいい

そんなこんなで冒頭に戻る

そうと決めればすぐに立ち上がり、料理本と睨み合いながら用意を始める

でもそれは鍋に具材を入れ、味付けをするだけという思っていたよりも簡単なものですぐに用意は終わってしまう

たしかイゾウはこの中身を食べ終わった後のスープで作る"ゾウスイ"というものも美味しいと言っていた気がする

もし不味かったりなんかしたら今度どうしてやろうか

ぐつぐつという音を背中に聞きながら、私はまたソファに沈み込む

あとはできあがるのを待つだけ

それまでこの前実験した薬の報告書でも作るか、なんて考えていると戸口のドアを荒々しく叩く音がした


ソファに立てかけていた愛刀を手に取り音を立てることなく戸口の方に向かう

戸口を真正面にして立って刀を構えながら、鼻だけ昔もらった能力で犬に変える

嗅覚だけでいえば、熊や象の方がいいらしいが、見知った人間の匂いか嗅ぐだけならこれだけで十分

けれど鼻をそれに変えた瞬間、警戒心はすこし意味の違うものになる

もう一度戸口が大きい音を立て、ため息を吐きながら私は戸口を開けた

そこにはやはり見知ったピンク

鼻を元に戻してそいつを見上げると、最後見た時と同じようににやにやとした表情

外から入ってくる冷たい風に思わず身震いした





「久しぶりだなァ、リーダ」

「私ここに来て何日しか経ってないんだけど」

「フッフッフッ、そりゃァ企業秘密さ」

「ストーカー?」

「それも悪くねェかもな」

「…とりあえず入るか帰るかどっちかにてよ、寒い」

「じゃあ邪魔するぜ。…いい匂いだな、飯まだなのか?実は俺もなんだ。フッフッフッ」

「やっぱり帰って」





ドフィは少し窮屈そうに戸口を潜り、さっきまで私の陣地だったソファに座り込む



ドフィは私の最初の客だった

私が能力に気付かされ故郷を去り、最初に着いた島での話

その当時の私は好きでもないくせに、酒場に入り浸って毎日酒を浴びるほど飲んでいた

そんな私の目の前に現れたのがこいつ

私のグラスに入った黄金色の液体を飲み干し、楽しそうに私に話しかけてきた





『フッフッフッ、コイツがなァ』

『…お兄さん、私はそんなに気が長い方じゃないんだけど』

『お前医者なんだろ?俺を診ろよ』

『なんで私が医者だって?』

『酒の匂いにまぎれて薬やら独特の匂いがしやがる。これでも鼻はきくほうなんだ』

『…見たところお兄さんはまったくもって健康そうじゃない』

『ならこれで怪我人だ』

『は?』





次の瞬間そいつは近くにあった酒瓶を自分の頭に振りかざした

瓶が割れ、中身が床に飛び散る音がする

私の他にいた客やマスターはシンと静まりこちらに視線を寄こす

目の前には頭から酒が滴り、それと一緒に赤が流れていた

目の前の出来事を理解するのに数秒かかったのは、きっと酒のせいだけじゃない

改めて、お兄さんを見ればサングラスにピンクの毛皮を羽織った大男

それはそれは楽しそうににやにやと口角をあげている


これがドフィとの出逢い

その後私はそいつを酒場の外に連れ出し、治療した

その最中そいつは私に、身震いするほどねっとりとした視線をよこしていたことは今でも忘れられない

その時の報酬にそいつは私にピアスをくれた

不覚にもその時の私はそのピアスをいたく気に入り、今でも付けている

治療し終われば、そいつは独特な笑い方と共に消えていった

そんな頭が狂ったようなことをした奴のこともいつのまにか完全に記憶から抹消されていたのに、その数ヶ月後そいつはまた普通に私の前に現れる

2度目の出逢いで私はそいつの名前を知り、ドフィも私の名前を知った



昔のことを考えながら鍋をテーブルに持っていく

ドフィはすでに椅子に座り、いつもと同じようににまにま

鍋を置いて、私も椅子に座って手を合わせる

ワノ国には似合わないかもしれないが、フォークで皿に少しよそって口に運ぶ

うん、上出来だ





「相変わらずお前の料理はうまいな」

「ドフィが私を褒めるなんて珍しい」

「お前が黙って俺に飯を食わしてるのも珍しいと思うぜェ?」

「私が無傷で帰すのは無理だってこの前知ったから」

「フッフッフッ、そうか。そういやお前、俺がほかにやったピアスは付けねェのか?」

「これが気に入ってるの」

「それを見るとお前を初めて見つけた時を思い出すぜ」

「ドフィが頭おかしいことした時だね。私もさっき思い出してたよ」

「お前の医者としての腕を見たかったんだよ、単純にな」

「何度聞いても答えてくれないけど、なんで私に声をかけたの?」

「フッフッフッ、そりゃァお前が知らなくていい」

「言うと思ったよ」





それから、あまり会話することなくナベを食べ進めた

鍋の中のほとんどの具材を食べ終わって、ゾウスイたるものを作るためにまた鍋をキッチンに持っていく

また料理本を睨みつけながら作っていくと、後ろから私を呼ぶ声を聞こえた






「なに、ドフィ?」

「オレのファミリーにお前とそう年の変わらねェ奴がいるんだ」

「へぇ、この年で。将来有望だね」

「フッフッフッ、だが心ん中じゃきっと俺を信頼なんてしてねェ、そんな奴だ」

「ドフィがそんな奴をまだファミリーに置いてるなんて珍しい」

「俺は気に入ってるんだ」

「ドフィの片思いか」

「そいつも手の届くところにいねェ女を想ってる、似た者同士だ」

「女々しい男は嫌いだよ」

「あァ、知ってるぜ。そいつはその女のことを想いすぎてわざと突き放した。自分に依存させたかったらしい。だがその女はそんな弱い女じゃなかった、その男の元から去ってそいつの計画は狂いに狂ったわけだ。何年も前の話だが、今でもそいつはその女のことを探してんだろうな、それこそ血眼になって」

「ふーん、興味ないなあ」

「フッフッフッフッ、それも言うと思ったぜ」

「さっきの逆だね」

「けどな、その女も心のどこかに絶対そいつがいるんだ」

「その女をドフィは知ってるの?」

「……いや?ただの俺の勘だ」

「ドフィの勘は当たるから怖いね」

「あァ、俺もそう思う。それでな、その男は女が故郷から去ったことを知って絶望に打ちひしがれた。女のために選んだプレゼントは意味をなさなくなったわけだ。傑作だったぜ、そン時の顔は!」

「鬼がいる」

「いつもはほとんど表情を表に出さねェアイツが、こうもなっちまうほど惚れさせた女。俺はただ興味を持ったんだ。…リーダ、鍋ふいてんぞ」

「え?あ、ほんとだ。ドフィが途中で話しかけてくるからだ」

「人のせいにすんのはよくねェな」

「うるさい」





コンロの火を止めてまた鍋をテーブルに持っていく

鍋をテーブルに置いた瞬間、急に腰を抱かれてドフィの膝に跨るように倒れ込んだ

思わず眉間にシワを寄せれば、また独特な笑い方をしたドフィ

太くてゴツゴツとした手で私の耳につけてあるピアスに触れた

しゃらんと小さな音を立てた金属のそれ

相変わらずサングラスの向こうの瞳は何を映しているのか分からない





「フッフッフッ、やっぱりそれは妬ましいくらいお前に似合っていやがる」

「なにに妬んでるの」

「こっちの話だァ」

「やっぱりドフィは頭がおかしい」

「リーダ、今お前は誰に触れてる?」

「ドフィに決まってるじゃない」

「誰を見てる?」

「ドフィだって」

「…フッフッフッ、やっぱりお前は最高だよ」





























教えてやらないよ

(テメェも浮かばれねェな、ロー)




























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