「え、フロイド先輩!?なんでこんなトコにいるんすか?!」
「そんなの俺の勝手じゃん。俺が他寮にいようと、俺は行きたいとこに行くだけだし」
昼休みに、日向ぼっこをしがてら昼寝がしたくなった
未だに慣れない太陽の光は、俺達が住んでいた海の中とは違ってぽかぽかしてるし、海の中で見るよりもきらきらして見える
足が生えて陸の世界を満喫できるようになってから日向ぼっこってやつを知って、俺のお気に入り
木陰で涼みながらの昼寝も好きだし、そよそよ吹く風は慣れてみれば気持ちいい
水の中とは違うふわふわした感じがある
金魚ちゃんの寮に、そういえばたくさん薔薇ってやつの木があることを前に言ってたのを思い出して、今日はそこに行ってみることにする
鏡の間に行ってる途中に、錬金術の授業終わりのジェイドに会った
ジェイドはラウンジに新調したソファが届くらしくて、それをアズールと確認しに行かなくちゃならないらしい
昼寝してくることを伝えれば、呆れたように笑ってから授業に遅れないよう言われる
そんなの、俺の気分で行くか行かないか決めることなんて分かってるだろうに
それから、なんかよく分かんねーけど、なんか言いたげに目を細めて、なんも無かったみたいに取り繕ってラウンジの方に歩いてったジェイド
最近のジェイドは、なんかを俺に言いたいらしいけど、なんも言わねー
最初の頃は腹たってきたし、ジェイドの考えてることが久しぶりに分かんなかったけど、問い詰める元気もねーし、違うやつらで鬱憤を晴らしながら過ごしてる
そんなこんなで、鏡をくぐって、ハーツラビュルの庭に来た
天気もいいし、近くにあった木陰にごろんと寝転ぶ
若干俺の足が影から出てるけど、俺の大きさじゃしょうがねー
堅苦しい靴を適当に脱ぎ散らかす
たぶんジェイドが見たらまた呆れたように笑うんだろう
汚れてたら、またイソギンチャクちゃん達に磨いてもらおうっと
綺麗に整えられた芝生ってやつは、海の中の海藻のベッドみたいに気持ちいい
深海じゃなくて、綺麗なサンゴがいっぱいあるような温かい浅瀬にいるみたいな
現実と夢の境が緩やかな波の中にいるみたいにゆらゆらして、境界線が分からなくなってく
午後の授業ばいばーい
まあたあのイシダイせんせえに怒られちゃう
浅い眠りの中の夢
海の中じゃわりと珍しい赤色が急に夢の中に現れる
その瞬間に俺の意識は一気にクリアになって、機嫌も一気に急降下
あーーー、寝覚めわっる
体を起こして、意味はねーけどがしがし頭をかいてみる
マジで最悪な気分
せっかくいい気持ちで寝かけてたのに
そしたら、機嫌悪いとこに余計うるせーやつが来て、ここが海で俺が人間の姿じゃなかったら絶対締めてた
サバちゃんとカニちゃん
俺を見つけて、それもたぶん不機嫌な顔してる俺で、めちゃくちゃ驚いてるしやっちまったみたいな顔してる
あー、前もこんなことあったな
たしかアイツらが色変え魔法の練習してた時だったっけ
こそこそ喋ってるけど、聞こえてるから
なにが気まぐれウツボだ
ほんとに絞め殺しちゃいそお
「俺達、明日のなんでもない日のパーティーのために薔薇を赤くしなくちゃダメで、えっとその、また魔法を使わなくちゃならないんですけど」
「使えばいいじゃん」
「いや、だから、ちょっと離れてくれればもーし魔法が違う方に飛んでいっても安心かなーなんて・・・」
「さっきも言ったけど、どこにいようと俺の勝手じゃん。また前みたく魔法飛ばしてきたら、今日は絞めちゃうかもねえ。あの時俺がコツをやさしーく教えてあげたんだから」
「ひい!わ、分かってるな、デュース!!お前の方がノーコンなんだからな!!」
「お前だって人のこと言えないだろ!」
そんなことを言いながら、離れた薔薇の木に向かって魔法を打ちだした
ふうん、前よりは上手くなってるじゃん
まあ、それでも下手だし、赤色以外の色に3回に1回は変わってるけど
ほんと、なんであんな簡単な魔法ができないか意味分かんない
それに、アイツらの赤色はくすんでて、全然綺麗じゃねー
赤色ってのは、もっと、鮮やかで、遠くからでもすぐに分かる、見てるだけで幸せになるような、透き通った海の中で1番に目がいくような、
「・・・あ"ー、ほんっとうっざい」
「!え、急にどうしたんですか!?おい、魔法飛ばしただろ、デュース!」
「してない!!!」
「うるさい。見ててイライラすんだよね。赤色ってのは、こうだし。お前らの赤色は赤色なんかじゃねーし」
「!おおっ!外してないし赤色だし完璧だ!」
「これが当たり前で、お前らが下手すぎるだーけ」
「う"っ・・・、たしかにそうですけど・・・」
「つーか前に教えてもらった時も思ってたんすけど、フロイド先輩の変える赤色って、特に綺麗ですよね!」
「たしかに、リーチ先輩の薔薇だけ俺達が色変えした薔薇と色とか艶めきが違う・・・」
「だろ!綺麗だよな!」
「俺達の頭の中の赤色とか青色とかがそのまま魔法に反映されるって先生が言ってたし、リーチ先輩は赤色が好きなんですか?」
まだ白かった薔薇を1つ俺が赤色に変えてやった
そうすりゃ、2人共声をあげて、俺が色を変えた薔薇を珍しそうに見てる
俺が変えた赤色は、さっき夢に出てきた赤色にそっくり
「は?大っ嫌いだっつーの」
変えたばっかりの薔薇に手を伸ばしてぐしゃりと潰す
トゲが刺さって痛かった
フォークはブラシ
(あんだけ愛おしそうに見てたのに、ほんとフロイド先輩って分かんねーなー)