『由飴ー、電話よー!』
「え、あ、うん、ちょっと待って!」
晩ご飯も食べ終わって、お風呂に浸かってたらお母さんの私を呼ぶ声
電話なんて誰だろう?
私は返事をしながら慌てて湯船から出てタオルで身体を拭いていく
それからすぐ着替えて電話のある方へ走った
あー、髪乾かさないと明日爆発しちゃうんだけどなぁ
そんなことを考えながらお母さんにお礼を言ってから受話器を受け取る
受話器越しに聞こえた声は懐かしい声だった
「もしもし、代わりましたけど、」
『由飴か?』
「!クロ!?」
『そう。久しぶりだな』
「久しぶり!」
黒尾鉄朗
お母さんの従姉妹の子供
うーん、なんていうんだろうね?
私のたしか2つ上で、お兄ちゃんみたいな存在
昔遊びに行ったとき、クロが祭りの射的で取ってくれた黒いペンダントは今でもつけてる
ちなみに2つセットで1つはクロが持ってくれてるんだけど、今でも持ってくれてるかは謎
最近受験勉強とかもあって逢えてなかったっけ
最後に逢ったのは下手したら1年以上前かもしれない
懐かしい親戚の声に、私のテンションは上がっていく
「元気?」
『あぁ、元気。由飴は?』
「もちろん元気だよ!研ちゃんも元気?」
『…元気なんじゃねーの?いまいちわからん。…あと、アイツいまプリンになってるぜ』
「プリン?!」
『なんか、ある日突然金髪に染めてきて、そっからめんどくさいみてーで、髪生えてきてんのに染めてねーからプリンになってんの』
「あ、そういうことか。でも研ちゃんのプリン見てみたいなー!あとで2人の写メ送ってよ!」
『俺のも?』
「うん!2人の顔久しぶりに見たい!」
『……明日できたら撮ってきてやるよ』
「ありがとう!クロは変わらずのあの寝癖?」
『変わらずって言うな』
「だって変わってないじゃん」
『…あぁ、そうだよ』
「でもホント、すごい寝方するよね。1回枕無しで寝てみたら?私でさえ2、3回しかクロの寝癖ないところ見たことないし」
『枕ねーと寝れねーし、1回途中でどっかやってもらったけど布団でいつものしてた』
「…なにその信念的なの」
『俺に聞くな』
「ていうか今日はどうしたの?クロから電話してくれるなんて、」
『高校入学して、お祝いのメールはしたけどちゃんと言えてなかったろ?母さんもしたがってんだけど、昨日近所の人達と調子乗ってカラオケ行ってきたらしくて喉潰して声でねーんだって』
「相変わらず元気だね、おばさん!」
『さっきからリビングから掠れた声でおめでとうって叫んでるから一応報告』
「ありがとうって言っといてくれる?」
『はいよ。…母さん!由飴がありがとうだと!………あ?うっせ!なに言ってんだよ、ひっこめ!』
「おばさん、なんて?」
『あ、いや……なんでもねー、こっちのことだよ』
「そうなの?」
『おぉ。…由飴、高校入学おめでとうな』
「ありがとう!けどまた遊びに行ったとき改めてお祝いしてほしいなー」
『あ?なんでだよ』
「だって、クロの生の声で今の聞きたい。知ってる?電話の声ってすごいたくさんある種類の中から似てる声が選ばれてるだけで今私が聞いてるクロの声はホントの声じゃないんだよ?」
『…なんだよそれ』
「え、そのまんまだよ」
『そっちじゃねーし、アホ』
「そうだけど違うもん!」
『どっちだよ。…由飴が今度こっちに来た時は盛大に祝ってやるから安心しろ』
「今の言葉忘れないでねー?」
『あぁ、分かったって』
「……あ、クロ、1つ聞いてもいい?」
『なんだよ?』
「昔私が遊びに行ったとき、クロが私に射的で取ってくれて私にくれた黒いペンダントのこと覚えてる?」
『あのいかにも子供っぽいやつか?』
「子供っぽいって酷い!私それ毎日付けてるんだからね!」
『……は?』
「だってくれるときクロ言ったでしょ?ずっと付けてろよ、って」
『そ、それであれからずっと付けてんのかよ…?』
「うん。もらったのがたしか小3?だったから、6年くらいお風呂のとき以外付けてるよ、当たり前じゃん」
『っ!!』
「え、クロ、どうしたの?」
『あ、わ、わっ悪ぃ、じゅっ受話器落とした』
「なに急に焦ってるの、クロ」
『なっなんにもねーよ!』
「わかった!テレビとかでちょっとエッチなシーンとか映ったりしたんでしょ!」
『んなわけねーだろ!!』
「冗談だよ!そんな本気にしなくてもいいじゃん!」
『……あー、くっそ!』
受話器を通してクロの声が私の頭のなかに響く
きっと今は受話器片手に寝癖頭を掻きむしってるんだろうなぁ
そんな情景がすぐに頭に浮かんで思わず笑顔になる
また背が高くなってるんだろうな、きっと
クロ繋がりで仲良くなった研ちゃんとも久しぶりに逢いたい
また暇なときにでも遊びに行こう
「そういえば、クロはまだ持ってる?」
『ペンダント?』
「うん!」
『だいぶ前に紐ちぎれた』
「えぇ!?」
『……っだから今はお守りん中入れて持ち歩いてる!なんか悪いかよ!』
「い、いや悪くないけど、まだ持ってくれてるの…?」
『…当たり前だろ、そんとき俺言ったじゃねーか、俺もずっと持ってるからお前も持ってろって。言った奴が約束破るとかあり得ねーし』
「なんか、ありがとう、すごく嬉しい」
『あぁ、そうかよ』
なんだか急に恥ずかしくなってきて黙り込んでしまう
そしたら何故かクロまで黙ってしまって沈黙
あぁ、ここで黙らないでほしい、余計に恥ずかしくなってきたじゃん
「由飴ー、ちょっと明日用に煮物作ってるんだけど、味見してくれないかしらー?」
「あ、うん!」
『呼ばれた?』
「うん、ごめん。またメールか電話する!あと写メ忘れないでね?」
『……由飴、』
「ん?」
『…絶対近いうちに遊びに来いよ。そんで次は、ちゃっちゃんとしたやつ買って祝ってやるから』
「!う、うん!」
『じゃあ…、おやすみ』
「おやすみなさい」
ここで受話器を直す
ホントに小さい頃から一緒にいたクロ
そんなクロに、
「すごくドキドキしてる、なんて」
もらったペンダントを思いっきり握り締めた
ドキドキ太陽
(いつ嫁に来るの、なんて、聞こえてたらどうすんだよ、あのクソババァ………)