ドラゴンの孵し方

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さて、あのジムチャレンジから1年経った


今年は、ダンデの弟とその幼なじみをダンデが推薦したらしい

去年の天使ちゃんのこともあって、余計に注目されてる

天使ちゃんのことはダンデからの推薦だったし、ダンデの動画の中で棄権を発表したってこともあって俺様も、もちろんメディアも放っておかなかった

けれど、ダンデは全くもって話さないし、俺様か問いただしても、俺にバトルで勝ったらなとか言われるし

あ"ー、なんなんだよ

でも、天使ちゃんのことばっか考えてても、しなきゃいけねーことはたくさんあるし、勝手に月日は経っていく

そんなこんなで、色々な準備がやっと終わって、今年もジムチャレンジが始まる

カロスは2年前に、アローラも最近チャンピオンが変わったこともあって、ガラルもそろそろか、なんてメディアとかの間じゃ言われてるけど、それなら勝つのはこのキバナ様だ

今年アイツは出るんだろうか

きっと口には出さないけどみんなが思ってる

登場までの時間、ジムリーダーの控え室じゃその話で持ち切り

ダンデは違うところから登場だから、違う控え室だ

今でも、根強いあの時のファンが真剣に探していると聞くけど、ニュースにならないあたり、そういうことなんだろう

まあ、たしかに、素顔も声も名前も分かんねーし、まずガラルにいるかも分かんねーしな





「今年はあの子、挑戦するのかな」

「さすがにせんじゃろ、去年は棄権までしてるんじゃから」

「でも、あそこまでワクワクさせてくれるトレーナーってなかなかいないわ」

「負けたのは悔しいけれど、本当にいい試合ばかりしてたからねえ、あの子」

「最後のトーナメントのキバナとの試合なんて、圧巻だったじゃない。・・・まあ、その分棄権した理由が気になるけれど」

「ファイナルトーナメントであたったのは、メロンとルリナとキバナだったねえ」

「僕もぜひリベンジしたかったんだけど。あの子のほのおタイプのポケモン達、本当に尊敬するくらい強かったから」


「ジムリーダーの皆さん、そろそろスタンバイお願いします!」


「もうそんな時間かね」





今年も、ジムチャレンジが始まる

毎年開会式はあるけれど、毎年緊張する

このファン達の歓声が、プレッシャー以上にワクワクを与えてくれるようになったのは何年目からだったかな

俺様のレプリカユニフォーム集団を見つけたからそっちに向かってポーズをキメると、そこらへんにいたファン達が沸いてくれた

あー、気持ちいい

やっぱり今年のチャレンジャーの中に天使ちゃんはいない

大方分かっていたことだけれど、やっぱりショックだ

何年か連続でチャレンジしてるやつもちらほらいる

あ、あいつは去年俺様のところまできたけど、攻めも守りも今ひとつだった

たしかあのチャレンジャーは、中々だったってカブさんが褒めてた気がする

あー、今年も俺様を楽しませてくれるやつはいるのかな

ていうか俺様のところまで来れるのは一体何人なんだろう


それから、例年通りに開会式は無事に終わった

このチャレンジャー達が俺様のところまで来るのは数ヶ月後くらいかな

久しぶりにエンジンシティに来たし、ブティックにでも寄ってみるか



ブティックの通りを歩いてると、見慣れた後ろ姿

声をかけてくれるファン達を適当に返事しながら、そいつのところまで向かう

どうやら1人じゃないらしい





「もう、ダンデの言うことなんか信じなきゃ良かった!私達はホテルに行こうとしてたんだけど!ここはさっきまでいたブティックじゃない!!」

「いやあ、絶対こっちだと思ったんだ!」

「どこから湧いてくるのその自信は!ダンデが方向音痴なのは嫌っていうほど分かってたのになんで任せちゃったの・・・!」

「ははっ!ならなまえも同罪だぜ!」

「よっし、目的地をワイルドエリアに変更、はっ倒してあげる」


「ダンデ・・・、また迷ったのかよ」


「!おっおお、きっキバナじゃないか!こんなところでなにしてるんだ?」





まあ、間違えるはずねーか

我らがチャンピオンであり、俺様の永遠のライバル

ダンデと言い争っていたのは、女だ

ダンデによく似た、紫の中でも本紫色の髪に、澄んだ瞳

見た目はダンデよりも歳下で、話に聞くダンデの弟よりは歳上だろう

俺様が声をかけると、あからさまに狼狽えたダンデ

なんだかその反応にムッとする

このキバナ様が来ちゃ悪いのかよ

そんなダンデを制して、俺様と目を合わせた女

やっぱり、見た目のわりにしっかりしてる

綺麗な顔立ちで、最近人気の女優に似てると思った

なんなら、その女優の顔よりもややクールさが欠けたこの女の方が俺様の好みだなんて、関係ないことを考える





「初めまして、ダンデの遠い親戚です。ドラゴンストームことキバナさんですよね」

「おっ、俺様のこと知ってくれてんのか、ありがとな!写真でも撮っとくか?」

「あ、それは大丈夫です。この様子だとダンデがいつもお世話になってるみたいですね」

「これまでにないくらいあっさり振られたんだけど俺様・・・。ダンデはゆく先々で迷うくせして、自信満々に突き進んでいくからな。よく迷子になったって連絡が来るんだ」

「今回はそれを失念してまして、私も1回来たきりで分からないこともあって着いていってみればこのざまです」

「酷いぞ!!」

「つーかホテルまで行くなら送ってってやろうか?まあ目的地がワイルドエリアに変わったならいいけどよ」

「・・・申し訳ないんですが、お願いしてもいいですか」

「まあダンデに任せてたら何時間たってもつかないだろうよ!」





不満げに腕を組むダンデに、さっきのやり返しはできたみたいだ

とりあえずホテルに向かって肩を並べて歩き出す

チャンピオンと俺様の間で、俺様達のファンからの視線を物怖じをせずに至って普通に歩く女は、なかなか肝が据わってると思う

人からの視線を気にしないタイプなのか、それとも親戚だから慣れているのか

まあ、変に萎縮されるよりも、楽だからいいけれど


どうやら2人は、スボミーインに泊まるダンデの弟の激励に行くらしい

女もついでにこのガラルを回ろうかなんて言ってる

その女の腰にはボールがひとつぶら下げられているのと、レザーの黒いリュクサックだけが手荷物だ

トレーナーなんだろうか





「そういや、親戚だから同じ髪の色なんだな」

「いえ、これは私が綺麗な髪の色だと思ってたんで染めたんです」

「俺達のことが大好きだからな!」

「髪の色とホップだけね」

「まったく、照れ屋だな!」

「本当に、その自信はどこから湧いてくるの」

「つーか、アンタポケモントレーナーなのか?その腰のダイブボールは飾りじゃないだろ?」

「トレーナーではありませんよ、バトルは基本しませんし、自衛のためにだったりの相棒です」





ほら、と女がボールを投げれば、ぽんと小気味いい音と一緒にポケモンが飛び出てくる

ダイブボールは出てくる時の演出が綺麗だと思う

出てきたのは、ジメレオンだった

女の姿を見ながら大きな欠伸をするジメレオンは、図鑑の説明通り面倒くさがりで怠慢っぽい

けれど、俺様の姿に気づくとすぐにもう1度女の方に振り返って、こくんと頷いてから消えた

え?消えた?

どこいった?あれ?






「ふふ、すみません、驚かせましたね。ジメレオンは体の中の水分で体を透明にさせることができるんです。あの子すごく警戒心が強い子なので、自分の好きじゃない人が周りにいるとすぐに隠れちゃうんです」

「へえ、図鑑に載ってないし、初めて知った!」

「図鑑が全てじゃありませんからね。私たちのまだ知らないポケモンのことを知るのは楽しいです」





ふふと小さく笑いながら隠れたジメレオンがいるであろう方向を見る女は、やっぱり話題の女優よりも可愛い

一瞬しか見えなかったけれど、女のジメレオンの体はとても鮮やかな水色で、ツヤツヤとしていて、大切に育てられているらしい

それを伝えれば、驚いたように目を丸くさせてから、はにかんだようにお礼を言われた

俺様たちと同じように、ポケモンのことが大好きらしい

さすがダンデの親戚だ

最初よりもやや近くなった歩く距離に、なんだか嬉しくなる

顔がタイプの女に好かれるのは嫌じゃない

まあ、俺様のファンだったらもっと嬉しかったんだろうけど


当たり障りのない話をしながら歩けば、思っていた以上に早くスボミーインに到着する

それから、ぺこりとお辞儀をしながら、お礼を言う女

そういえば、ガラルにお辞儀をするって文化はあまり見かけない

天使ちゃんのお辞儀とダブって見えて、なんだか悪い気持ちになる

豪快に笑いながら手を振るダンデも、もう少し女を見習えばいいと思うし、そろそろ道を覚えてくれ


当初の予定通り、このキバナ様行きつけのブティックを覗いていこうと少し歩いてから何の気なしに振り向いてみた

ホテルの玄関で合流したであろうダンデと同じ色の髪をした弟らしき少年と女とダンデが談笑してる

女の足元には擦り寄るようにさっきのジメレオン

そりゃ親戚だから、警戒しねーんだろうけど、なんかむかつく


さっとまた振り返って、ブティックへの道を早足で歩く

今日は天使ちゃんの髪みたいな色の服が買いたい
























ぴくり

(そういや名前聞いてなかったな)











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