ドラゴンの孵し方

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今までの彼女たちは、俺にSNSでよくコメントをくれたり、バトル毎に来てくれたりするファンたちに嫉妬したり、どうしても多くなるインタビューとか広告に関わってくれたスタッフとでっち上げられたスキャンダルに、怒鳴ってきたり拗ねたり、正直長続きしなかった


それ以外にも、ジムリーダーとしてのバトルに、それに付随してくるインタビューとか、スポンサー会社の広告の仕事だったり、時にはトレーナースクールの講師だってするし、もちろん俺自身の修行もジムトレーナーとの特訓だってある

ジムリーダーとしての仕事とは一言では言えないほどに多いのだ

ファンサービスだって、俺が好きでやってるってのもあるけれど、ジムバトルとかを盛り上げていくためには必要だと思ってる

それに俺にだって、趣味に使える時間だって欲しい

総じて言えば、彼女たちに提供できる時間がどうしても限られてくるのだ

もちろん邪険にしているわけでもないし、一緒に過ごす時間を作ろうともする

最初はそんな俺が好きだからと理解してくれていても、それが何ヶ月も続けば変わってくるんだろう

こまめに返していた連絡も、こちらを責める内容や仕事終わりに見るにはうんざりする内容が続けば、それに返事するのも億劫になる

そうなれば、関係が終わるのもすぐだ



そんなことを繰り返していたこともあって、そんなことは無いと思いつつも、なまえも今までの彼女みたいなタイプだったらどうしようという心配もあった

今まで俺と同じようにでっちあげられたようなスキャンダルはあれど、大きなスキャンダルもなかったなまえの、今までの恋愛歴は聞けないでいたからこそ不安があったのは本音だ




さて、蓋を開けてみれば、杞憂で、おこがましい考えだったことはすぐに分かった

付き合ってからも、俺もなまえも、本当にSNSとか表面上はなにも変わらなかった

けれど、お互いの空いた時間には可能な限り会うし、なんなら俺が空いた時間はほとんどなまえの家に会いに行ったりなまえがいなくても泊まりに行ったりしてる

いっそこのまま同棲しようかとも思ったけど、ジムリーダーとして街を離れるのは通勤とか色々面倒だし、一旦お互い保留

おかげで、なまえの家には俺の生活用品が増えていって、俺のポケモンたちがなまえの家でボールから出た時も驚かなくなったのを見た時は優越感しか感じなかった


俺は、なまえが少しでも妬いてくれたら嬉しいな、なんて考えてたのもあって、逆にファンサービスとかSNSの写真に映るファンやコメントの気まぐれな返信も増えた気がする

別にやましいことなんてしてるはずないけれど、ファンサービスが増えたこともあってスキャンダルの数も少し増えた

けど、それとなくなまえに連絡してみても、その後に会ってみても、本当に変わらない

え?もしかして俺様のニュース見てねー?ってくらいに変わらない

この前は俺のそんなニュースがテレビでやってるのをBGMに、ドリュウズにきのみをあげながら普通に次の休みの日のご飯何がいい?って聞かれた

嬉しいけど

なまえの手料理うまいし、食べれるだけで嬉しいけど

・・・嬉しいけどな!!!ハンバーグって答えたけどな!!!

いや、わざと撮られてるわけでもないし、仕方ないとこもあるんだけどさ、そこまで無関心ってのも俺様悲しいって思いながらフライゴン撫でてたら、フライゴンにまで呆れたような顔をされた


ていうか俺様がむしろ、なまえのスキャンダルに敏感になった

なまえのスキャンダルは付き合う前と変わらない数な筈だし、付き合う前からそれらはでっちあげだって分かってたし、今もそれは分かってるつもりだ

それでも、男と映る写真をニュースで見るたびに、嫉妬でおかしくなりそうだし、なにかを殴りたくなる衝動に駆られる

今までの彼女の気持ちが分かった気がした

でっちあげだからそんな気にすんなよとか言った、シュートシティの元カノ、ごめん。そりゃ怒るわ


けれども、俺のスキャンダルになまえも言わないし、そんなちっさい男って思われるのも癪だし、言った通り、どちらも干渉されるのが嫌いなタイプだから、嫌われたくないっていうのもあって、俺も何も言えない


そんな悩みを、付き合っているのを唯一知るネズに打ち明けるのは最早恒例となっていたし、今だってそれだ

うーん、あれ、もうこんな時間だっけ





「ほら、飲みすぎですよ」

「んあ?・・・うーん、おれさま、あれ?」

「ヤミラミが水持ってきてくれたんで、飲みやがれです」

「あー、ありがとな、ヤミラミー!かわいいなー!」

「それ、ズルッグですけど」





どうやら、俺は酔っているらしい

たしかに、あてをつまみながら、俺の悩みはもちろん、ネズの妹の話や今年のジムチャレンジはどうだったかとか話しながらいつもより酒は進んだ気がする

視界がぼやぼやする

次の日には残らないタイプだけど、久しぶりにやばいかもしれない

今年のジムチャレンジはまだ先だから、明日は夜に宝物庫の見回りに行くだけ

空いた時間に久しぶりにワイルドエリアにポケモン達と羽を伸ばしにいこうと思っていた

こんな感じなら、明日は昼から動こう

ネズが、呆れながら、オレンジジュースを飲んでいた

オレンジジュースかよ





「はあ、感謝してくださいよ、本当に」

「は?」


「ネズ、連絡してくれてありがとう。たしかに、ズルッグをヤミラミに間違えるくらい酔ってるなら、帰ってる途中にフライゴンから落ちちゃうだろうね」


「なまえ・・・?待って、おれさま、あれ、ぐらぐらする」

「まだ立たないでいいよ、キバナ。ネズ、会計は一旦任せてもいい?次にご飯に行く時に今回の迷惑代も返す」

「はい、きっちり貰うので大丈夫です」

「迷惑かけてごめんなさいね、ネズ。ちょうどキルクスでの撮影終わりだったのと、このお店だったからすぐ来れたけど、珍しい、キバナがこんなに酔うなんて。・・・ごめんね、ルカリオとジュラルドン、私だけじゃキバナを運ぶの無理だからちょっと助けてね」

「!なまえのジュラルドン!!!!!あいかわらず、おれさまのジュラルドンにまけないくらいきらきらしてかっこいいなー!」

「私のジュラルドンの方がかっこいいに決まってるでしょ。ほら、ジュラルドンに捕まって。じゃあね、ネズ。親父さんも迷惑かけてごめんなさい、また打ち上げでお店使わせてもらうから。ヤミラミたちも、ありがとうね」





なまえのジュラルドンに支えられて、なんとか立ち上がる

右肩はなまえ、左肩にはジュラルドン、そんで倒れないように後ろからルカリオが俺様を支えてくれるようにして店から出た

頭の中は意外とクリアなのに、口から出てくる言葉はなんだか呂律が回っていない


最近はなまえの撮影で忙しかったからメッセージのやりとりしかしていなかったし、会うのは1週間と少しぶりだ

なまえの匂いがする

思わず抱きつくように右腕に力を入れれば、重いなんて文句がとんできた

それすらも幸せで、もっと力を入れる

そうすれば、後ろのルカリオがちゃんと歩けと言わんばかりにぐいと力を入れて俺を押した

元々ルカリオ自体が賢いのは有名だけれど、なまえのルカリオは特に賢いと思う

まるで、なまえの兄ちゃんみたいに世話を焼いてるし


店を出てすぐの路地に、なまえのアーマーガアがいた

ほかの個体よりも大きくてすぐ分かる

こいつは、なまえが他のアーマーガアのタクシーなんかに乗った日にゃ、1週間は空の旅に出かけて帰ってこないくらいにはなまえのことが大好きなやつ

おかげでなまえは、手持ちポケモンなのに、このアーマーガアを移動にも使ってる

前にどうしてもほかのアーマーガアを使わなきゃ行けない時があって家出された時は、たしかジムチャレンジ中で、めちゃくちゃなまえが困ってた

ちなみに、SNSで冗談半分で捜索願のようにアーマーガアの写真と一連の流れを投稿したところ、ニュースのトレンドにもなってすぐに情報が集まったし、アローラの方まで飛んで行ってたって聞くから驚きだ

帰ってきたアーマーガアが掴んでいた籠の中にはなまえやポケモン達への差し入れや手紙がぎっしりと入ってた

それ以来、味をしめたのか、時折ふらりとどこかへ飛んでいってはきのみとかをたくさんもらってきて帰ってくる

なまえが困ったように笑いながら羽を整えてたのが可愛かった




そんなアーマーガアががあと鳴きながら、俺様の肩を啄んだ

ごめんな、お前のご主人様に迷惑かけて

アーマーガアがとまってる移動用のポッドみたいなものに乗り込む

ジュラルドンとルカリオは一旦ボールの中に入ってもらった

なまえも俺様の横に乗り込んで、扉を閉めれば、ふわりと浮かびあがるそれ

ほかのタクシーよりも、乗り心地は抜群だし、なにより早い

俺様も移動の時は頼りたいくらいには快適だ

けど、俺様が乗せてもらえるのはなまえと一緒の時だけ

前に、なまえが寝ている間に1人で乗ろうとしたら、全力でドリルくちばししてこようとしてきたことがある

素直に怖かった


ワイルドエリアが見えてきたからきっとなまえの家があるエンジンシティに向かってる

このポッドはいつでもアーマーガアを見れるようにと天井部分が透明のガラス板になっている特注品だ

夜空と同化してしまいそうなアーマーガア

けれど、星みたいにつやつやきらきらしているのは、なまえのアーマーガアだからなのか、それとも、アーマーガアだからからなのか

あまり羽音がしないそれは、きっといつも疲れて寝てるなまえに配慮して覚えたんだろう

スマホロトムがふわふわとポケットの中から出てきて、アーマーガアを撮って、こっちにカメラを向けてきたからなまえの肩を抱けば、こちらに寄りかかってきたなまえ

かしゃりと音が鳴って、画面をこちらに向けてくれれば、酒で顔が緩む俺様と幸せそうに微笑むなまえが写ってた

正直すぐにでもSNSにあげてなまえは俺様のもんだと見せびらかしたい俺様もいる

ここまで独占欲があるなんて俺様も知らなかった

付き合い始める前の俺様からは信じられない


あー、久しぶりに抱きたい

やっぱりいい匂いがする、好きだなあ





「あ、明日は私朝からジムに行かなきゃ行けないから、今日はいっぱい休んでね、ダーリン」





ああ、もうかわねーなあ、ハニー































ならせめてキスさせて

(ふふ、酔ってるキバナは甘え上手ね)





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