ドラゴンの孵し方

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「全部、私が燃やし尽くしてあげる」





どっちも最後のポケモンだった

ダイマックスした俺のジュラルドンとアイツのリザードン

沸き立つ観客と、それ以上に湧き上がる高揚感とか興奮とか、言葉では言い表せないくらいの激情

アイツも手を掲げて、リザードンをダイマックスさせれば、アイツのリザードンの青い炎がジム全体をほとばしる

アイツと俺はそれなりに距離がある筈なのに

ダイマックスさせた瞬間のアイツの一言は、まるで耳元で言われたみたいに鮮明に聞こえたし、どこかの民族がするような仮面越しに見えたまるで情事の真っ最中みたいに熱を持った瞳は俺をたしかに貫いた

どくんと、バトルではないなにかに胸が高鳴った気がする

ほとばしる炎と共に、アイツのまるで絹糸みたいな白い髪の毛がなびく



倒れたのは、俺のジュラルドンだった





























俺はアイツに、ファイナルトーナメントの決勝で負けた

手を抜いていたわけじゃない

油断していたわけでもない

本気で、勝つつもりで、真剣だった


アイツは、倒れたジュラルドンを見て、ダイマックスとメガシンカを解いたリザードンの頭をひと撫でする

撫でられるリザードンの表情は誇らしげで、とても嬉しそうにアイツの顔にすり寄ってるのを見て、絆の深さがよく分かった

それから、負けたことへの悔しさとか色んなもので呆然としていた俺に、ぺこりと頭を下げる程度のお辞儀をして、控え室のほうに歩いていったアイツ

たしかジムに挑戦してきた時も握手せずに立ち去ろうとして、慌ててバッチを渡しに追いかけたのは記憶に新しい

それに、アイツの声を聞いたのは、あの時だけ

ポケモンたちへの指示も、アイコンタクトに手の動きとかだけ

それほどまでに、ポケモン達との絆は深いし、本当に驚きだ


負けたのは、たしかに本当に悔しい

ダンデを倒すのは俺しかいないとも思ってた

けれども、アイツとバトルをして、アイツならと思ったのも事実だ

ふわふわと俺の周りを浮かんでいるスマホロトムが、アイツとリザードンの歩いていく後ろ姿をぱしゃりと写真に撮った

さすが俺のスマホロトム、よく分かってんじゃねーか

バトル中と変わらず、アイツの背で揺れる白い髪

アイツが使うほのおタイプと正反対だ

後から調べたけれども、アイツの白は少し黄色がかっていて、白百合色というらしい

きししと笑うスマホロトム

絶対に、リベンジしてやる





過去最高といっていいほど、もしかすると俺とダンデとのバトル以上に、盛り上がったバトルだった

テレビとかネットニュースじゃ、連日俺たちのバトル動画が上位を占めたくらいだ

新チャンピオン誕生か、なんてガラル中でその話題がもちきりだった

名前は公開されていなくて、背番号の104がアイツを指すニックネームだ

ゴロにあわせて、よくニュースなんかじゃ天使ちゃんって呼ばれてる

たしかに、髪の毛の色だけ見ると的を得てるが、如何せんつけている仮面が独特すぎる

アイツはガラル出身じゃなく、カロスから来たらしいし、そちらの方じゃ有名なのかもしれない

話でしか聞いたことがなかったメガシンカできるリザードンが相棒らしく、ジムチャレンジャーの中で抜きん出て開会式から注目されていた

あのダンデの推薦だし、名前も素顔も謎というから、余計に拍車をかけたらしい

特に、俺とのバトルでも見せたメガシンカからのダイマックスは圧巻で、ジムを突破する度にその動画はすぐに拡散されるほどだった

メガシンカ自体、あまり解明されていないみたいで、このガラルにもカロス出身のトレーナーはいるけれども、ガラルでもメガシンカを使えるのはアイツのリザードンだけらしい

本当に、どちらが勝っても盛り上がるであろうバトルに、皆が期待していたんだ


























けれども、蓋を開けてみれば、アイツは棄権した

ダンデのチャンピオン戦前ライブ動画で伝えられたそれ

ガラル中が震撼した

動画の中にアイツは出てこなくて、出てきたのは苦笑いを浮かべるダンデだけ

意味がわからなかった

ファイナルトーナメントの順位から考えて、俺が急遽準備期間のために日程をずらしてから出場することになる

前代未聞だし、きっとこれからも今回を除けば未来永劫ないだろう

憤りとか、そういう感情ももちろん浮かんだけれども、それ以上に、もうあのバトルを見れないと思うとショックというか喪失感が凄かった

それはほかのトレーナーや観客達も同じらしくて、初めは誹謗中傷が多かった動画のコメント欄も、日を増すごとにその棄権の明かされない理由に対して心配するコメントやショックを隠しきれないコメントは増えていった


かくして、数ヶ月ガラル中を沸かせた名前や素顔も分からない謎に満ちた天使は忽然と消えたのだ

















ひゅん

(絶対に、探し出してやる)




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