おさるのマーチ

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はてさて、話はどこまで遡ろうか



私はしがない戦士の村で生まれた

父さんの名前はバーダック

母さんの名前はギネ

星々に働きに出る父さんは中々家に帰っては来れないけれど、母さんがその分愛情を注いでくれたし、帰ってきた父さんは近所では有名になるくらい私をたくさん可愛がってくれたから寂しいと思ったことは無かった




私が2歳の時に生まれた弟のラディッツは弱虫だ

強がるくせにすぐピーピー泣いて、男がそんなに泣くなってよく父さんに怒られてゲンコツされたりしてた

痛くてまた泣くラディッツを見て、父さんのゲンコツは本当に痛いから、女で良かったと初めて思ったのを覚えてる


そんな私とラディッツの戦闘力は生まれつき父さん譲りで高かったらしく、上級戦士として専用のカプセルで育てられたらしい

ベジータ王子とは歳も近いし、一緒に訓練したりもした

しっぽの訓練だったり、大猿になっても自我を保つ訓練だったり

私が少し年上なこともあって手合わせで敗けたことがないせいか、よくつっかかってきたりする

その度にけちょんけちょんにしてやれば、ラディッツみたいに泣いたりしないけれど、泣きそうな顔をして地団駄を踏みながら帰っていくのだ

それをナッパが私に謝りながら慌てて追いかけていく

頭の上に残った少しの毛を見ながら、王子の世話役になった今あの髪の毛はいつまで残るんだろうと思いながら手を振れば、あの髭面をくしゃくしゃにさせて笑うのだ

あと、こんなこと聞かれたらベジータ王に星送りにされそうだけど、王子っていってもただの子供だなあとそんな背中を見送りながら考えてた


そして私がたしか10歳頃に弟のカカロットが生まれた

髪型とか顔がまるっきり父さんだ

母さんいわく、下級戦士の型は少ないから仕方がないらしい

でも、母さんの要素はどこに受け継がれたんだろう

カカロットは戦闘力が低くて家にあるカプセルで育てられてる

そんなカカロットを馬鹿にするやつは、弟でも許せないと、ラディッツの髪の毛を持って振り回してやれば、また泣いて母さんに慰められてた

カカロットはいたずら大好きでなかなか凶暴だ

それでも、甘えん坊で、カプセルから出たら1番に私のところによたよたと歩いてきてくれるから愛おしい

にへらと笑うその顔は母さんにそっくりだった


上級戦士としてラディッツはもうベジータ王子と星の侵略に行ったりしてるけれど、惑星ベジータではなんだかんだ子孫を残す為にも女は大事にしろみたいな風潮があって、私の侵略はまだ先のことらしい

決して女は下に見てる考え方じゃなくて、戦闘で体を壊したらどうするんだ心配するだろう!?みたいな感じ

ただでさえ女が少ないサイヤ人だから、女はすごく大切にされると母さんが教えてくれた

周りの家の夫婦も、たしかに奥さんの方が権力を持っているところが多い気がする

宇宙最強の戦闘民族が奥さんに勝てないなんて

夕飯をつまみ食いした父さんが見つかって、母さんに平謝りしてるのを見てなんだかおかしくて声を上げて笑ってしまった






さて、いつまでも続くと、終わることなんて考えたことすらなかった日々の終止符は突然だった


急にフリーザがサイヤ人に全員集合をかけた前日、今回は遠くの銀河を攻めていた父さんが帰ってきた

ラディッツはまたベジータ王子と星の侵略だ

父さんがなんだか浮かない顔をしていたのを覚えてる

夕食後、突然私を抱き上げた父さん

いつものように優しく頭を撫でてくれた





「なまえ、」

「父さん、どうしたの?」

「・・・お前は俺たちの誇りだ、自慢の娘だ」

「急になあに?照れるよ」

「もしこれが俺の思い違いなら、すぐに迎えに行く。・・・だから、お前は少しの間、違う星に行っててくれ」

「うん。いつ行くの?」

「今夜だ」

「え、今夜?命令もないし、まず許可を貰わないとベジータ王にどやされるよ」

「いいんだ。お前は偉いから侵略でもしながら待てるだろ?」

「もちろん!」





いつもなら寝ないと怒られたような夜中に私とカカロットは連れ出された

母さんが今にも泣きそうな顔をしてる

小型宇宙船ポッドを2つ父さんが近くの発着場から盗んできたらしい

そこになって、やっと事態の異常性が分かってくる

許可のない宇宙船の発着は刑罰の対象だし、ましてや宇宙船の盗難なんてもってのほかだ

なにより、母さんと父さんの表情

カカロットと別々のポッドに入ってから気づくには遅すぎた事実だ

ポッドのガラスを通して、父さんと母さんを見上げる

伝えなきゃいけないと思った





「父さん、母さん、私は2人の子供に産まれてこれて幸せだったし、2人の子供であることはわたしの誇りだよ」

「!なまえっ、・・・大好きだからね、愛してるよ・・・!」

「・・・・・・必ず迎えに行ってやる。待ってろよ」





もう会えない気がした

だから、精一杯笑った

宇宙船が打ち上がって、すぐに真っ暗になる

途端に目頭が熱くなってきて涙が溢れて止まらない

最後に泣いたのは覚えていないほど昔だ

それでも、無理やり涙をふいて到着予定の星の情報を見る

私は誇り高きサイヤ人

絶対に生き残ってやるのだ
















旅立ち

(宇宙はまるで深海みたいだ)




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