何十年、いや、百年ほど昔だったかもしれない
とりあえずいつかなんて忘れるほど昔の話
毎日の日課を1時間ほどで終えることができるようになった頃
その頃わしはある道場で知り合ったライバルであるヘテロという奴と山に篭もっていた
親しくなった訳は名前も似ていたし、単純に見惚れるほど強かったから
そやつの念はやっかいで、強くてニューゲーム〈エンドレスリピート〉
聞いた時は思わずぞっとしたのを覚えている
それは死んでも生き返られる
そして生き返られる時、再び同じ目に遭わずに済むように死因に対して耐性ができるわけだ
例えば毒で死ねばその毒に耐性がつくし、切られて死ねば皮膚が丈夫になる
そして死んだ時、どれだけそれまで生きていようと姿は念を取得したあの日に戻るのだ
おかけで、年齢は儂とほとんど一緒だというのに、まったく見た目が違う
本当にチートのような能力で、その対価にどんな制約と誓約があるかなんて考えたくもなかった
けれども、きちんと死ぬ方法もあるらしいが
そこまでは教えてはもらえかったし、知りたくもないというのが本音だ
来る日も来る日も、修行をしていたあの頃
そんな変わり映えしない一日だったのだ
その日、その時までは
「ネテロ、あれは人じゃねェか?」
「こんなところに?」
いつものように日課を終えて、捕まえた魚を焚き火で焼いている時だった
草むらに倒れるような音と急に現れた気配
こんな山奥に人なんて滅多に来ないし、急に現れたそれに、思わず意識をそちらに向ける
女の子のようだ
意識はなさそうで、うつ伏せに倒れていた
ヘテロと目を合わせて、近寄ってみる
そんな簡単に近づいてみたのはオーラの流れが一般人だったことと、たとえ奇襲だろうと、儂とヘテロなら簡単にやられることはないと自負していたこともある
近づいて、ヘテロが俯いていた身体を仰向けに転がす
息が一瞬止まった
美しい
柄にもなくそう思った
見惚れてしまって、動きが止まる
起き上がらせようと伸びかけた手が空をさまよう
止まっていた息をゆっくりと吐き出した
そこで、女の子が身じろいでゆっくりと瞼を開け始める
そこでやっと、手をおろして、隣のヘテロに目を向ける
やつも儂と同じような、そんな感じのようだった
女の子がしっかりと目を開けて、儂らを瞳に映す
少し寝ぼけているようだ
それから、少し間があって、少し掠れた声でこう言った
「おなか、減ったなあ」
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