狩人

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はて、ここはどこだろう


冷たい床から身体を離して、まずぼんやりとする私の五感を刺激したものをとりあえず挙げたいと思う

機械音と少しの浮遊感

あとは目の前の机でジュージューと美味しそうなお肉とぐーとなるお腹

・・・とりあえずお肉を食べながら考えたいと思う

あ、柔らかくてジューシーだ



お肉を半分くらい食べて少し落ち着いてきたから、もう一度辺りを見渡す

どうやらここは密室で、機械の音と若干の浮遊感から、ここはエレベーターの中らしい

気がついたらここの床に寝ていたけれど、たしか私は・・・・・・、ここに来るまでなにをしてたんだろうか

頭を捻ってみるけれど、全くもって浮かばない

今の私の服装はスニーカーに、いつもパジャマに愛用しているTシャツと短パン

後ろに大きく亀って文字が入ってるオレンジ色のTシャツ

分かる人には分かると思うけど、あの有名作品のパフパフ大好きおじいちゃんの修行着マークだ

待って恥ずかしい

これは家限定なのに、なんでこれ着て外に出てるの

家でしか着ないって決めて通販で即ポチしたのに

だってこれ着てたら強くなりそうじゃない?

私が強くなってほしいのはコミュニケーション能力だけれども


私には恐ろしいほどコミュニケーション能力がない

というか、コミュニケーションをまずとれないから能力が伸びなかったんだ

小さい頃から、誰に話しかけても無視か逃げられる

1番古い記憶は幼稚園で、前を歩いてた友達のカバンから落としたキーホルダーを拾って渡したら、数秒顔を見つめられて一目散に逃げていかれたこと

手元には当時流行ってたおしりをかじる虫のいくつも連結させることのできるキーホルダーが残った

私を嘲笑うようなあの表情は忘れることなんてできなくて、いまでもあのキャラクターは苦手だ
(たぶんそんなことはなかったんだろうけど、その時はそう見えたんだ)

その当時は本当に落ち込んだことを覚えてる

話しかけるとみんな逃げるし


小学校、中学校、高校にあがってもそれは変わらず

もし話しかけてくれたとしても事務的なことばかり

その話しかける前だって、あっちで誰がいくかの喧嘩をしてるほどだ

せめて私の聴力の限界の範囲外でやってほしかった

話す時の相手の反応は、すごく見つめられたあとに聞き取れないほど早口で用件を告げられるか首が真横を向くほど視線を逸らされたまま話されるかのどっちかだ

よもや視界に入れたくないレベルの顔のレベルなんだろう

そんなにブサイクなら、よく少女漫画であるように虐めがありそうだけれども、そんなことは奇跡的になかった

むしろ、虐めで関わるのすら拒まれるレベルらしい


先生の反応は歳を追うごとに酷くなっていった

小学校の頃は比較的フレンドリーだった先生だけど、高校になる頃には授業でも当てられなくなるほど

古典の授業で前の席から順に当てられていっても、私が当たる直前で意味不明な急カーブを描くのだ

毎度毎度そのおかげで気楽に授業は受けれたのけれど

以前一度机に突っ伏すような状態で授業中に寝てしまったんだけど、注意なんてされるはずもなく

けどふと目覚めて辺りを見渡すと、クラス皆が私を見ていた

もしかすると寝ている最中にいびきをかいたか、恥ずかしい寝言でも言ってしまったのかもしれない

それ以来授業で寝るのはやめた


そろそろこんな悲しい身の上話はやめよう

そんなこんなで世間一般でいうコミュ障を拗らせてしまった学生時代

必然とも当然とも言えようが、そんな私がハマったのは二次元だった

特にハマったのがジャンプの漫画

私も主人公やヒロイン達みたいにみんなと仲良くなれたら、なんて夢見たのが最初だったかもしれない


・・・待って、そういえばこの状況見たことある

それもジャンプの漫画の中でだ

お肉・・・エレベーター・・・・・・

あ、これハンターハンターのハンター試験の有名なシーンにそっくり

ハンターファンなら一度は口にする「弱火でじっくり」シーンだ!!!!!

ドッキリかなにかかな


いま青い鳥のアプリで呟くとしたら

『なにこれ漫画みたい〜(笑)』

それほどまでに、この降り続けるエレベーターもリアル

え、私このままだったら、





チン





「おめでとうございます!貴方は第287回ハンター試験の最初の到着者です!1番のナンバープレートお渡ししますね、では御検討をお祈ります!」





手元には1番の丸いプレート

目の前にはなんか見たことある小さい人


さっきのつぶやきに、りぷで続けなきゃいけないらしい


『え、なにこれ漫画みたい(焦)』

































だだっ広い空間の端っこに座りながら、人が集まってくるのを観察すること1時間ほど

たぶん200人くらい集まったと思う

筋肉隆々な男の人ばっかり

ここはどこか、何度か話しかけようとしたけれども、やっぱり発動するのはわたしのコミュ障

チラチラとこちらを見る目はあるけれども、やっぱり話しかけてはくれない

本当に、どれだけ酷い顔なんだ

自分のコミュニケーション能力と顔に、思わずため息が出る

いくつか気になることがあるけれどまず気になるのが、所々に見覚えのある人がいることだ

例えば、あの有名なトンパとかポックルにすごく似てる人とか

髪の毛は地毛っぽくて違和感もないし、ちょっと聞こえてきた声もそっくり

アニメからそのまま飛び出してきたみたいだ

もしかしてここはガチ勢のコスプレ大会なのかもしれない

もしかして私が無意識に来ちゃったとか?

にしてもこの服のまま家から飛び出して記憶を飛ばすほど、イベントを見つけた瞬間嬉しかったのか私は

それか公式のイベントでハンター試験を体験してみよう!ってやつだきっと

屈強な人ばっかりだけど、ハンターハンターファンの人ってこんな人ばっかりなのかな

もっとガリガリでひ弱そうな人もいそうなのに、私みたいな


あ、あのトンパレイヤーさん、本当にジュース配ってる

凝ってるな〜って思わず凝視しちゃってたら、バチッと目が合った

その瞬間、渡そうとしてたジュースを上に投げ捨てまで叫んで逃げたトンパ(仮)

やっぱりねー!!!知ってたし!!!!!

絶対そうなると思ってたしー!!

ジュースをぶっかけられて怒る筋肉ムキムキに追いかけられてまた叫んでる

叫びたいのはこっちの方だ

なんなら心の中ではもう叫んでるけど、実際には絶対叫ばない

理由は簡単、目立ちたくないから


あともうひとつ気になることがある

視界の隅には入っている程度のヒソカレイヤーさんの熱視線だ

ていうか、私が無理やり視界の隅に追いやるようにしかしてないだけだけれども

何故そうしているかというと、その視線が思わず寒気がしそうなくらいねっとりどろどろしたものだから

視線には慣れてない私だから、そう思うだけかもしれない

本当に、漫画だとジーッとていう擬音語が付きそうなほど

ジーッとなんてかわいいものでもないか

視界の隅でも分かるほど、目をかっぴらいてるし

わざと視界の隅に置いているのに、いつのまにか中心に入るような位置にいるから怖いんだ

ヒソカに入り込みすぎじゃないだろうか

そう思ってるのは私だけじゃなかったようで、ヒソカレイヤーさんの周りには半径2mくらい人がいない

お前、こんだけ本気でこっちはコスプレしてんのに、なに適当な格好で来てんだよ的な感じ?

それは本当にすみません

違う作品のTシャツなんて着て来てすみません

だからこっち見ないでください

視線には慣れてないんです

・・・だから!視界の真ん中に入ろうとしてないで!!








あっち向いてホイ

(出口はどこだろう)


















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