愛をおくれよ

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「沙奈!!!」

「兄さんか。おはよう」





ある朝、沙奈は河川敷にいた

肩にかけているエナメルカバンにはサッカーボールがネットによってぶら下げられている

頭に乗せられているタオルで少しかいた汗を拭いているところを見ると、どうやら自主練習をしていたようだ

運動後のためにほんのりと赤く染まった頬とベンチに置いていたペットボトルのスポーツドリンクを飲み干す姿は謎の色気がある

偶然ちょうどランニングしていた立向居がそれを見かけてしまいぶっ倒れた

円堂さん、俺今ここで死んでも本望です

まず言う相手からおかしいことに気づいて欲しい


誰かが倒れる音がしてそちらのほうに目線を向けるが、ちょうど草薮によって倒れている立向居の姿は見えない

首をかしげながら目線を戻し、学校へ向かうために階段を登っていく

いつもの鋭さをぜひともここで発揮してほしかった限りである


そして沙奈が学校への道のりを歩いていると後ろから名前を呼ばれたため振り向いた

そこにいたのは兄である源田幸次郎で、片手に持っていたペットボトルを軽く持ち上げながら挨拶をする

幸次郎が駆け寄れば、嫌がることなく隣に並んだ

若干幸次郎の表情が嬉しそうに和らいだのは気のせいではないだろう


沙奈の朝は気まぐれである

ある時は朝早くに登校し教室や図書室で勉強してみたり

ある時は今日のように河川敷や学校のグラウンド、鉄塔広場で練習してみたり

ある時は近道を通ってみたりあえて遠回りしてみたり

またある時はゆっくりと起きて学校にぎりぎりの時間に登校してみたり


登校初日、元エイリア学園生全員が沙奈と登校しようとし、見慣れない沙奈の制服姿を騒ぎ立てた

それにぶち切れたのが沙奈だ

愛する家族同然の幼なじみだが、自分の静かな朝を邪魔をされるのは別であったらしい

そしてそれに加えてどうやら前日の春奈からの鳴り止まない電話にフラストレーションが溜まりに溜まっていたようだ

証言者は爆裂タイフーンさん

真正性は120%だ

その噂は勝手にひとり歩きをしたようで、沙奈と故意に登校しようとするとどこからかなにかを纏ったサッカーボールが飛んでくるという噂が学校内で流れるように

ボールを纏っているなにかとは、炎だったりブリザードだったり虎であったりペンギンであったり

ここまで聞くと根も葉もない噂がではないような気がするが、それは1度置いておこう

そういうわけで、本当の偶然が重ならない限り沙奈と登校することは叶わないのである


今日は幸次郎が偶然に出会うことができたようだ

兄弟で仲良く登校する姿は仲むずましい

学校に近づくにつれ、ちらほらと同じ制服の学生が増えてきた

その中には2人の顔見知りの姿もある

もちろん声をかけようとする人もちらほらといたようだが、2人の幸せそうな雰囲気にやめたようだ

いろいろなことがあったものの沙奈が兄である幸次郎のことを大好きなことを知っている元エイリア学園生は羨ましいやら嬉しいやらで複雑な面持ちである

そんな中、その空気をいとも簡単に壊すやつもいる





「沙奈、はよ!今日も朝から可愛すぎだろ。あ、源田もいたのかよ」





このハゲ!!
バナナ!!!
引っ込め!!!!


いろいろなところからこんな声が飛んできたが、本人、もとい不動は素知らぬ顔で2人の間に割り込む

どうやらその耳は役目を果たしていないらしい

誰かが食べていたバナナの皮を不動に投げつけた

なぜ食べていたのかがまず疑問だが、そこには触れないでおく


お前には皮だけで十分だ!

誰だバナナを粗末にするやつは!!?


なんて都合のいい耳をしているんだろうか





「邪魔するなよ、不動!」

「そろそろ妹離れでもしたらいいじゃねェか。その分俺が沙奈といてやるから安心しろよ」

「妹離れする気もないし、不動なんかに沙奈をやるか」

「私はまず不動となんかいたくない。兄さんの前半コメントはスルーするな」

「ほら聞いたかよ今の!沙奈も嫌がってんじゃねェか!!」

「その耳は聞きたいこと以外はシャットダウンするのか?」





不動が空気をぶち壊したせいで周りももう気にすることなく話しかけるようになった


よくやった不動!
グッジョブ
お前ならやれると思ってた!!


周りの手のひら返しもいいとこである





「沙奈、学校でいじめられりしてないか?なにかあったらすぐ俺や鬼道にでも言うんだぞ」

「大丈夫だよ、兄さん」

「その前に、沙奈がいじめられるわけねェだろ。逆にいじめたやつがいじめられる」

「どういう意味だ」

「いや、沙奈がやり返すって意味じゃなくて周りが黙ってねェだろ。まァ、沙奈が本気出してやり返しなんてしたらソイツ社会的に抹殺されそうだな」

「あー……、たしかにそうだな」

「兄さんも納得しないでくれ」

「でも心配は本当なんだぞ!エイリア学園時代の名残で沙奈を恨んでるやつもいるって聞く」

「どんな理由であれ私がしたことなんだ、それは仕方ない。まぁ、不動が言った通りやり返しはさせてもらうけどな」

「さすが俺の沙奈だな」

「そんなうっとりされながら言われた私の心情を考えてくれ」

「え?歓喜?」

「お前に聞いた私が馬鹿だった」





そんなやりとりをしながら、学校の門をくぐる

その時ちょうど校門前に黒塗りの高級車が止まり、中からドレッドヘアーの見知った顔が出てきた

車が止まった時点で中から出てくる人物の正体が分かっていたようで、3人とも立ち止まって待っていたようだ

鬼道もどうやら3人の存在に気づいたらしく3人に歩み寄る

互いに挨拶を交わし、思い出したかのように鬼道は手に持っていた紙袋を沙奈に渡せば、誰から見ても分かるほど沙奈の目が輝いた

それを見て幸次郎は呆れたようにため息をつく





「鬼道、沙奈をそんなに甘やかさないでくれ。2、3日おきにもらってるじゃないか」

「昔このクッキーが好きだっただろう?父さんがたくさんくれるんだが、俺1人では食べきれない。どうせ捨てるのなら沙奈に貰ってもらった方がいい、こんなに喜んでもくれるんだからな」

「私がこのクッキー好きだなんてよく覚えていたな…」

「最初にあげた時の反応がすごかったからだな、きっと」

「あれ、俺知ってるんだぜ?鬼道チャン。そのクッキー、わざわざ沙奈にあげるために執事に買いに行かせてるの」

「!なにをそんな根拠もないことを……」

「これ百貨店でクッキー買ってる執事のしゃ「よし不動、ちょっと2人で教室まで行こう」鬼道チャンのお小遣いってどれくらいかなー」

「……見なかったことにしよう」

「それが正しい判断だ」





現れて一瞬にして消えていった鬼道

悪どい顔をした不動と肩を組んで校舎の方に歩いていく

沙奈と幸次郎はそんな2人を生暖かい目で眺めていた

そのまた後ろからハンカチを振りながら鬼道の背中を見送るのは鬼道の執事

坊っちゃま、強くなってくださいませー!!

鬼道家の教育方針こわい


幸次郎としては久しぶりに沙奈と2人で話せる機会なのでぜひとも放っておいてほしいというのが本音である

だがしかし、世の中はそんなに甘くない





「おはようございます、沙奈さん!!」

「…虎丸、毎朝言うが、お前の学校反対だろう」

「沙奈さんに挨拶しないと俺の1日は始まりません!」

「ここは合宿所じゃない、わざわざ来なくていい」

「沙奈さんに会わないと警察の方に声かけられるくらい顔が死んでるみたいなんです」

「それ顔が死んでるだけなのか?どんな顔して生活してんだ」

「まず、なんで俺1年早く生まれなかったんですかね?」

「私が知るか」

「最近ランドセル背負ってても校門で止められなくなりました!」

「この学校のセキュリティどうなってんだ。…いや、その前にこの目の前の小学生の頭がどうやってんだ」

「沙奈、一体虎丸になにしたんだ?」

「私なにもしてない、普通に練習して喋ったり。……え、そっちの方が怖い」

「ん?虎丸じゃないか。なぜこんな時間にここにいるんだ?」

「あ、豪炎寺さん!!おはようございます!」

「豪炎寺、おはよう!」

「豪炎寺さん、おはようございます」

「源田と沙奈、それに虎丸もおおはよう」

「豪炎寺さんにも会えたので、俺の今日の幸福度は100から120になりました!!」

「え?虎丸って豪炎寺さん大好きだよな?なんで20しか上がってないの?」

「では沙奈さん、豪炎寺さん!…あ、源田さんも!俺、学校なので失礼しますね!」

「俺のおまけ感が凄まじいんだが」

「あんな性格してて、サッカー以前に友達できるのか?将来が恐ろしい」





嵐が過ぎ去った後のようだ

あそこまで沙奈に言わせるなんて、本当に恐ろしい限りでる

沙奈は今日の疲れを吐き出すように大きなため息を漏らす

そんな時どこからかヒロトの声が聞こえた

ため息で逃げた幸せ分僕が幸せにするから!!!

沙奈は無言でどこかに向かってまだ手に持っていたペットボトルを振りかぶって投げる

ペットボトルはなかなかのスピードをつけて校舎の影に飛んでいき、そこから悲鳴があがった

幸次郎と豪炎寺は感嘆の声を漏らしながら拍手を送る

俺達どこから聞こえたか分からなかったのに、この子の耳はどんなつくりをしてるんだろう

それと同時にお約束である疑問も頭に浮かぶが、それは今更聞くのもナンセンスだと消し去った

沙奈だからっていう魔法の言葉があるじゃないか


それから、学年によって棟が違うため沙奈だけ別れる

自分の教室の前に立って、既に慣れかけている扉を開けた





「おはよう」

























あんよが上手

(おはよ!立向居のやつ救急車で運ばれたらしいぜ)
(へー、大変だな、アイツも)








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