ドラゴンの孵し方
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「また、なまえのスキャンダルですか」
「・・・おっちゃん、俺様にビールもう1杯」
キッチンで忙しいおっちゃん代わりに、おっちゃんの相棒のヤミラミが元気よく返事してくれる
半分くらいまだ残ったビールを一気に煽れば、目の前に座るネズは今日何度目かのため息を吐いた
ネズは、唯一俺となまえが付き合っているのを知ってるやつだ
元々ネズと俺様が仲が良かったのもあるし、なまえが出演したドラマの主題歌を歌ったのがネズで、そこから仲良くなったのもあって、3人で仲がよかったから、隠すのも嫌だという俺の我儘で、ネズにだけは打ち明けた
俺の周りをふよふよと浮かぶスマホロトムが、悪いわけでもないのに、申し訳なさそうに擦り寄ってくる
悪いのは、そのニュースに書かれてるやつだから、と口には出さずにスマホロトム撫でる
ここはスパイクタウンの俺たちの行きつけの居酒屋
一見さんお断りで、俺はネズに紹介してもらった
料理はうまいし、酒もうまいし、中は個室になっていて、目立つ俺たちにはちょうどいいし、おっちゃんは優しいし、本当に気に入ってる居酒屋だ
ナックルにもあっていいだろうに、こんな隠れ家みたいな居酒屋
前に来た時、おっちゃんの話を聞いてみると、よくルリナとモデル仲間たちも来るらしい
それくらい、俺たちの間じゃ有名な居酒屋だ
ヤミラミじゃなくて、ギモーがちょこちょこと生ビールとさっき頼んだおばんざいの盛り合わせを持ってきてくれる
頭を撫でれば、ぎーっと嬉しそうに鳴いて、キッチンに戻っていった
ここのポケモンは皆頭がいい
今日のおばんざいもうまそうだ
「次の相手は誰なんですか?」
「ジムチャレンジまでもうちょいあるから、今撮ってる映画の共演してる俳優。たぶん話題作りなんだろうけどよ」
「あの子も忙しいし、目立ちますからね。でも、まさかあのキバナがこうなるとは思わなかったですけど」
「うっせー、俺様が1番びっくりしてんだよ」
ここで、またビールを煽る
ヤミラミが慰めるように俺の膝をぽんぽんと叩いて、テーブルの上の空いた皿を持っていった
なまえはマイナーリーグのはがねジムリーダーだ
ジムはエンジンシティにある
ジムリーダー兼女優やモデル
はがねタイプにふさわしい、メロンさんとは違うきらきらした銀髪に、ダイヤモンドみたいに輝く瞳
少しつり目なそれも、透き通る肌も、強気な性格も、ポケモンが大好きすぎるところも、全部が最高なやつだ
相棒はジュラルドンとルカリオ
きっと、兼業なんてせずジムリーダーに専念すりゃすぐ上がってこれるだろうし、実際少し前マイナーリーグに下がったカブさんに勝ったのは、不利なタイプなのになまえだった
たしかその頃はモデルだけで女優業はしていなかった気がする
まあ、女優デビューしたのとカブさんが頑張ったこともあってすぐにまたマイナーリーグに降格したけど
俺の相棒と同じだってこともあったし、どっちもSNSを頻繁に使っているのもあって、仲良くなるのはすぐだった
アイツの投稿は、自撮りだったり、モデルや女優仲間との写真だったり、現場の写真だったり、美味しそうなご飯やポケモンだったり
どの写真にも、一瞬でハートがついて、何万なんてざらだ
まあ、俺様も見つけた瞬間ハートを連打する勢いで送るし、なんならなまえが映る写真は保存までさせてもらう
やってるのは俺様だけじゃないはずだ。・・・うん
ちなみに、この間ニュースでやってたフォロワーの多さランキングで、なまえは4位だっていってた
(俺は7位だった)
正直、見た目はどのつくタイプだ
性格も、さばさばしてるのに、ふとしたところが女らしかったり、懐いてるやつにはすごく甘えてくるところとか、ポケモンたちの前では顔がずっと緩んでいるところとかを知って、余計に好きになる
今まで、そりゃ好きになった女もいれば、遊びだった女もいた
けど、今だけじゃなくて、先まで一緒にいたいほど好きになったのはなまえが初めてだ
飯にもたくさん誘って、SNS見てワイルドエリアとか違う街に行く時は偶然を装って会いに行ってみたり、ポケモンバトルを頻繁に挑戦してみたり、うまくできたカレーを差し入れてみたり、俺にしては珍しいくらいにアタックしまくった
そんなこと、俺がされることはあっても、俺がしたのは初めて
それくらいに、好きになって、告白して、あの白い肌を真っ赤にさせて、OKしてくれた
雪の降るワイルドエリアで、ルカリオと雪だるまを一生懸命作るなまえを見て、思わずするつもりはなかったのに、可愛すぎて勝手に口から出てた告白
「なあ、なまえ、」
「ルカリオ、ちょっと頭の方が大きすぎるよ。・・・なに、キバナ?」
「好きだ」
「え、・・・い"っ!」
「なーにしてんだよ、なまえ!」
驚いて滑って、せっかく作った雪だるまの体の方を湖に転げ落としてしまったなまえを見て、本当に好きだと思った
落とした雪だるまを見て、責めるように一声鳴いたルカリオ
ちなみに、揶揄うように軽口を叩いた俺の顔はたぶんなまえと同じように真っ赤だったと思う
なんとか2人とも落ち着いたあと、俺たちは道を歩けばSNSですぐに話題になるくらいには有名人だし、お互いのイメージのためにも、世間には公表しないことをその場で2人で決める
匂わせなんてしないし、お互いのSNSとかのプライベートは今まで通り今までと変わらず更新していくことも決めた
互いに干渉されることが好きでもないタイプだったから当然の結論だ
異論なんてもちろんなかったし、それが俺たちの立場じゃ当たり前だと思った