今日俺様は、バウタウンに月刊ポケモン通信のインタビュー記事のためにやってきた
コンセプトは、ジムリーダー達のプライベートっていう名の、一時期SNSで流行ったデートなうに使ってもいいよみたいなやつだ
おかげで、久しぶりに仕事着以外を着て写真撮影だ
服は俺様のお気に入りのブランドの新作で、出歩く時にこのブランドの服が多いからかお礼にと一足先に宣伝がてらに新作をプレゼントしてくれたらしい
シンプルだが、素材もいいし、さすがだ
まあ、それを着こなす俺様も最高だけどな!
たしか先月の特集はルリナで、キルクスタウンの夜景の見えるホテルのレストランでの食事風景の写真が使われてた筈だ
派手すぎずにドレスアップされてて、たしかにデートぽく見えた
ちなみに俺はバウタウンの海の見えるベンチに座ってインタビューを受けながら数枚写真を撮られた
うーん、俺様がなんで海を選ばれたのか分からないが、似合うんだから仕方ないな
アイスの移動販売でアイスを買ったり、それを手渡すようなポーズで写真を撮られたり
ジムリーダーになってこういう撮影も何度かさせてもらったが、やっぱり慣れない
来月はオニオンの番らしい
逆にどんな写真が使われるか今から楽しみだ
インタビューの内容はありきたりなものばっかり
チャンピオンへ挑む意気込みやポケモンを育てる上で大切にしてること
俺様のファンの奴らなんて、耳にタコができるほど聞かされてきただろうに、今更こんな質問ばっかりのインタビューを載せて売れるんだろうか
・・・いや、今回はいつもと違うインタビュー内容もあったな
たしか理想の恋人のタイプやら、恋人にしてほしいことやら逆にしてあげたいことやら
さすがコンセプトがいつもと違うだけはある
それから現地解散になって、昼前ってこともあるからスタッフ達が食事に誘ってくれるけれど、生憎食事くらい気を使わずに摂りたいから当たり障りのない言葉で断る
ルリナに教えてもらった、個室がある海鮮料理店に行くか
せっかく海沿いに来たから相棒達と歩きたいが、俺様のポケモン達はみんな育て上げてるから目立つ
後で人気のない浜辺なんかで出してやろうか
ヌメルゴンあたり喜んでくれるだろう
今日はギガイアスを留守番にしておいて良かったかもしれない
海に来てもあまり楽しめないだろうし
一般的に裏路地と呼ばれる店に行くために、店が並ぶ通りを歩いてると、また見慣れた紫がいた
いや、いつも見慣れた方とは違うか
最近見慣れかけたが正しいな
そいつは、見慣れない通信機器を使ってバウタウンであろうマップを空中に映し出して、首をひねってる
たしか違う地方だって言ってたな
少しからかってみたくなって、足音を立てずに後ろから肩を叩いてみる
「まーた迷ってんのか?」
「!!驚きました、お久しぶりですね、キバナさん」
「久しぶりだな!弟クンの観戦か?」
「はい、バトルが詰まってるみたいで、明日か明後日のバトルになりそうなんですけどね。いつものユニフォームじゃないですけど、キバナさんはお休みですか?」
「ふふ、きいて驚くな!今日は雑誌の撮影だ!」
「へえ」
「ほんっと、俺様に興味ねーなあ!?」
自分で聞いてきたくせに、あまりにも興味がなさすぎる
社交辞令感をもうちょっとでいいから隠してほしい
ソイツは、ホテルを無事にチェックインできたから探索がてらにランチできるようなところを探してたらしい
こんな表通りじゃなくて、隠れ家的なところを探すのが好きみたいで、地図を見ながらそれを探してたところを俺様が見つけたみたいだ
俺様から声をかけて、はいサヨウナラは虫が良すぎるかあ
他の地方のやつだし、ここはジムリーダーのキバナ様がいっちょ一肌脱いでやるか!
「じゃあ俺様おすすめの店に連れてってやるよ!」
「うーん、お気持ちはありがたいんですが、」
「なんだよ、俺様と相席じゃ不満か?」
「いえそうではなくて。この地方はパパラッチのようなものがジムリーダーまで追いかけ回すと聞きますし私と写真を撮られたりだとかしないかなとか、キバナさんのファンの方々に悪いかなとか思いまして」
最初はぱっと表情が明るくなったのに、すぐバツが悪そうに綺麗な色の毛先をくるくると弄びだした
ふふ、こういう賢いやつは大好きだ
なんだか気分が良くなってソイツの頭をぐしゃぐしゃと撫で回してやる
そうしてから、肩を抱くのは気が引けたから、代わりに手を差し出してやる
不思議そうに俺様の顔を見てから、ゆっくり俺様の手の上に手を置いてくれる
待ってくれ俺様がしたことなのに不覚にもキュンときた
顔がタイプってのは大きいらしい
それに少しずつ距離が近づいてることが目に見えて分かるから、余計に気分が良くなる
そんなことは顔には出さずに、にこりと笑う
まあ多少は顔が赤くなってるかもしれないが
「今から行くのは他のジムリーダーが教えてくれた個室の店だからそのへんはしっかりしてるし、他の地方のやつを楽しませてやるのもジムリーダーの務めだから気にすんな!」
「個室・・・?キバナさん、変なことしないでくださいね」
「信用なさすぎねー、俺様?」
「たしかに美味しいですね、悔しいですけど」
「ふふ、悔しいだろ、美味しいだろ」
ルリナの教えてくれた店は案外直ぐに見つかってくれた
そこまで、話を適当にしながら手を繋いだままにしてたけど、俺様ガキンチョみたいに久しぶりにドキドキした
今だって、食べ方も綺麗で、楽しそうに笑う姿に年甲斐もなくドキドキしてる
あー、俺様やばいな
ここは大きいポケモン以外は出してもいいから、ジメレオンと俺様がちょうど育ててるナックラーも床に置かれた小さな机でポケモンが食べてもいいように調理された料理を食べてる
まあ、どっちもシャイな性格だから、ジメレオンは透明のまま食べるせいで勝手に料理が浮いては消えていくみたいになってるし、ナックラーも俯いてもしゃもしゃと食べてるからまったく楽しそうじゃねーけど
俺様達トレーナーを見習ってほしい限りだ
楽しそうだろ?
・・・楽しそうだよな?
「ここのお店って、ポケモン達の料理をテイクアウトできたりするんですか?」
「おう、できるぜ!いま頼むか?」
「あー、量が多いので、後でもう1回来ますよ」
「?ジメレオン、そんなに食べるのか?」
「いえ、えっと、ホップのポケモン達にも買っていこうかなと」
「あぁ、そういうことか!この店、サービスもいいから、量が多いならホテルさえ教えれば、届けてくれるぜ。スタッフ呼んでやるよ」
「あ、ちょ、」
ボタンを押すと、すぐにスタッフが来てくれる
俺様の今手持ちにいるナックラー以外とお留守番組のポケモンたちの分を頼んで、目線をそっちに移した
すると観念したように、ソイツもスタッフに頼み始めたらしい
なんでそんなに渋ったんだ?
たしかに俺様と同じくらいの量を頼んでるけど、弟くんのポケモンのためになら納得いく量だ
いや、ちょっと多いか?
大きいポケモンが何体もいるような量だ
もしかしたら、ダンデのポケモン達にも買ってるんだろうか
最後に、泊まってるホテルの名前を聞いて首を傾げる
たしかそのホテルは、
「ほのおタイプ専用に家具とかコーティングされてるんじゃなかったか?」
「!ええ、よく覚えてますね」
ジムがある街は特にだが、ポケモンに特化したホテルの数が多い
大きいポケモンも出していいホテルや、出していいポケモンのタイプが決まってるホテル
逆にそのタイプに特化してるホテルなんかもあって、みずタイプのために防水加工してあったり、はがねタイプ用にワックスやら研磨剤が常備してあったり、飛べるポケモン用に天井がとても高くなってたりとか
ドラゴンタイプは、これといって制限はないけれど、身体が大きいポケモンが多いから、必然的に大きいポケモン用のホテルを俺様は愛用してる
その中でも今聞いたホテルは、燃えにくいように家具がコーティングされていたり、その家具自体も少なかったりとほのおタイプのポケモンに特化されてるはずだ
カブさんがあそこのホテルは良いって、前に太鼓判を押してたから覚えてる
「・・・たまにダンデが遊びに来たりしますからね、ダンデのリザードンのためにほのおタイプ用のホテルに泊まってるんです」
「タイプに特化してるホテルは結構するだろ?来るかも分からねーダンデのために太っ腹だな」
「何かあった時に損害の方がおおきいですし、ダンデは基本人の話を聞きませんからね」
「ふふ、それはたしかにな!」
「そういえば、キバナさんは今日どんな雑誌の撮影だったんですか?」
「お、まさか覚えてくれてたなんてな!」
「私が聞いたんですから、さすがに覚えてますよ」
「あれだけ社交辞令で聞きました感が出てりゃそう思うだろ!」
「そんなことなかったんですけどねえ」
メインを食べ終わって、デザートと食後のドリンクを待ちながら、撮影の話をする
コンセプトだったり、衣装のブランドの話だったり
最後はダンデでしめられる話をすれば、あのダンデじゃ無理でしょうとけらけらと笑う
なんか俺様に見せる笑顔と違うくて、
やっぱり兄弟のことが絡んだからか
あー、ダンデはいつもこんな顔見れんのずりーな
ここでふと、今日俺様が答えた女性のタイプについて思い出す
嘘つくこともないし、やばい性癖とかでもないから、ありのままに答えた
まずポケモンが大好きなのが大前提で、俺様の立場も分かってくれてて、食べ方が綺麗で、笑顔が可愛くて、一緒にいて楽しくて、これはさすがにインタビューで言わなかったけど、あと1番大切なのが、
「なあなあ、仕事と恋愛どっちの方が大事?」
「なんですかいきなり」
「インタビューで聞かれたから、ほかのやつらはどうなんだろうなって」
「そりゃあ仕事でしょう」
「じゃあ、仕事と家庭は?」
「家庭の一択でしょうに」
あ、待って、好き
ぎくっ
(やっぱりこの地方のジムリーダーは大変ですねえ)