short story
□promettere
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「……ただいま」
「先輩っ!!……お帰りなさい、美風先輩!!」
駆け寄ってきた春歌をしっかりと抱きしめる。
ようやく、春歌のもとへ帰ってこれた…。
そう、僕は奇跡的に記憶を持ったまま、再起動する事ができた。
消えてしまっていた記憶は無いけれど、春歌との記憶だけは、全て守ることができたようだ。
だから、こうして、もう一度春歌の前に姿を現すことができた。
「あの…美風先輩」
「何?春歌」
「これからは、ずっと一緒にいられるんですよね!」
「うん、当たり前でしょ」
「ふふ…約束ですよ?」
「じゃあ指切りしよっか」
お互いの小指をしっかりと絡める。
「「ゆーびきーりげんまん 嘘つーいたーら針千本のーます 指切った!」」
もう、いなくならない。
ずっと一緒にいられる。
ずっと、ずーっと。
◆
あれから三年ほどたった。
春歌が成長する度に、僕もメンテナンスを繰り返し、成長していく。
そして今日、3月1日。
世間的に見て、僕は結婚できる年齢になった。
「やっと春歌と本当に一緒になれるんだね」
「はい!…ずっと一緒です!!」
「待たせてごめんね、春歌」
「そんなこと、ないですよ……」
そう言って、お互いにキスを交わす。
…………でも、僕はロボットだから、春歌を幸せにできないかもしれない。
そればかり考えてしまって。
「藍くん…?どうしたんですか?ぼーっとして…」
ふいに、視界一杯に春歌の顔が見える。
春歌が覗き込んできたのだ。
「え?…あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた……」
「珍しいですね、藍くんがそんなに悩むなんて…。何かあったんですか?」
せっかくの春歌とのデートなのに、心配かけてしまう。
やっぱり、僕は………………。
そして僕は春歌に告げることにした。
……あの時、春歌にロボだと知られた、観覧車の中で。
「ねぇ、春歌。覚えてる?ここに初めて乗ったときのこと」
「覚えてますよ…。藍くんが…、ロボットだった事を、話してくださったんですよね。……懐かしいです」
あの時はびっくりしました。と言ってふわりと微笑む春歌。
「緊急事態だったけどねあれは。……それで、さ」
「はい?」
僕は改めて春歌の方へ向き直す。
そしてゆっくりと口を開いた。
「やっぱりボクは、ロボットで…人じゃない……」
「そんな事ないですよ!藍くんは沢山の感情を知って、人になれたじゃないですか!!」
「でも、完全な人にはなれないんだ…。いくら感情があっても、身体は機械なんだ………」
「藍…くん……?」
「だから……、君を本当に幸せにはできないんだ…」
「え……?それ…は………」
「……ごめんね…春歌」
「そんな…嫌です……藍く………」
そっと、春歌に近づいて、
「どうか、ボクを忘れて、幸せになって… 」
(忘れないで、ずっと覚えていて……)
最後のキスをする。
ちょうど、観覧車も一周して、僕は無言で降りる。
頬を何かが伝うけど、気のせいだと思って、ひたすらに、振り返らずに歩く。
「 !」
後ろから何かが聞こえるけど、振り返っちゃダメだ。
「 !」
振り返れば、戻りたくなるから。
「………!!」
春歌に、幸せになってもらうために、振り返っちゃダメだ。
春歌のために、
「藍くん!!」
ピタリ。
思わず、足を止めてしまった。
「待って…ください、藍くん!!…私は、そんなの、嫌です!!」
肩で息をしながら、春歌が言う。
「でも、僕は機械だから…「それが何だって言うんですか!!」…え……?」
遮るように、叫ぶ春歌。
「機械だからなんて関係ないです!!藍くんは藍くんじゃないんですか!?それに…、私は藍くんを忘れて幸せになんてできません!!ずっと、一緒にいるって約束したじゃないですか!!」
ポロポロと、涙をこぼし始める春歌。
「藍くんの……っ、嘘つき……」
「春歌……」
僕は何をやっているんだ。
春歌を幸せにするどころか、泣かせで苦しめてるじゃないか…。
「ごめん…春歌……本当、ごめん……」
泣き崩れて、しゃがみ込んでしまった春歌を、そっと抱きしめて。
「約束、破ってごめん……、春歌を悲しませて、ごめん………。もう、ずっと離れないよ………春歌………」
「藍くん……今度こそ、本当に約束ですよ……!」
「うん、うん……絶対破らないよ春歌……」
「っ……藍くん…、藍くんっ!!」
その場で一緒に泣くだけ泣いた。
思う存分、涙を流した。
そして……
「春歌…、僕と、結婚してください」
「……はい!!」
僕らは、ようやく一緒になれた。