純白の蝶の歌物語-SoNG CHRoNiCLE-

□Prologue
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白く、白く、真っ白な世界。

私は、その白い、白い世界に、真っ白な姿で閉じ込められていた。

私は、真っ白な真っ白な、純白の、


悪魔だった。



この学園で、純白の悪魔はアイドルと作曲家を目指す。

兄との約束を果たすために。

両親のように、なるため。

夢を、自分の願いを、叶えるために。


笑顔の仮面を、張り付けて。
白い悪魔は、歌い出すーーー。







《凛々、聴こえる……?》

声が聞こえた。
よく聞いたことのあるような、馴染みのある声が。


目を開くと、真っ赤になった国、城の中に、私はいた。
目の前には、血に濡れた母親の姿。

私の足元に現れる光。
魔法陣のようなそれは、私を包み込む。
もがく私を、引き摺り込んでいく。

最後に見た、目の前にいる母親の表情は、


「絶対だいじょうぶよ」


美しく微笑んでいた。






「……ん、夢……か。」

何だが、よくわからない夢だった。
あれは何処だ?城?夢にしては妙にリアルで、まるで自分の記憶のようだった。

「……そんな訳、ないわよね。」

あれが自分の記憶ならおかしすぎる。私は何処かの姫でもなんでも無い。…いや、似たような境遇ではあったが、城に住んでいた覚えもない上に、母親はあんな死に方していない。それにあの声は、誰のものだったのか…。
考えてもわからないが、ふと思い出したことがあった。

「笑って、た……。」

夢の中の母親は、笑っていた。
…あの日と同じように。

「絶対、だいじょうぶよ……か。」

もしかしたら、母親は私にそれを言いに夢に現れたのかもしれないと思うことにした。
…恐らく城だの殺されているだのというのは、私の中でまだあの頃を引きずっているからだろう。

絶対だいじょうぶ

それは母親がよく口にしていた無敵の呪文。
今では私の座右の銘でもある。

「…母様。ありがとう。」

私はベッドから立ち上がり、支度をし始めた。
今日は、待ちに待った、早乙女学園の入学式だ。

早乙女学園の制服にゆっくりと袖を通す。自分でカスタマイズできるこの制服は、それぞれの着る人の個性が現れる。
私の制服は、ジャケットの袖にフリルが付いていて、胸のリボンは赤色で形が蝶のようにひらひらとしているもの。スカートは袖と同様に裾にフリルが付いており、左太ももに大きなスリットが入っているミニスカートに、黒のニーハイソックスを履いている。

「えーっと、あとはー…」

鏡の前に座り、左目にコンタクトレンズをはめる。
数回瞬きをすると、視界がクリアになった。
髪を整え、軽くメイクを施す。
母の形見である、アメジストのピアスを左耳につけ、兄、凛玖からもらった、彼岸桜の花の形をしたブレスレットを腕につける。

等身大鏡の前で立ち、くるりと一周。
おかしなところはない。

「…よしっ!」

『ピンポーン』

タイミング良く、インターホンが鳴る。
今日この時間、来るのは彼しかいない。
私は素早くドアを開けて、彼を迎えた。

「りりたん、迎えに来たよん!」
「ふふ…ありがとう嶺二。グットタイミングよ。今鞄持ってくるから待っててくれるかしら?」
「もちのろんだよ!」

寿嶺二。私と兄の親友で、今私の住んでいるマンションの隣の部屋に住んでいる。
今日は彼が早乙女学園まで送っていってくれる。なんともありがたい話だ。

私は急いで服などの入ったキャリーバッグを持ってくると、玄関に置いてある真新しい靴を履く。
膝下あたりまでリボンを結ぶ、バレエシューズにも似た淡いピンク色の靴。

「…お手をどうぞ、マイガール。」

私が靴を履き終えたのを見届けると、すっ…と手を差し伸べてくれる。

「お言葉に甘えて。」

嶺二の手を握り、立ち上がる。
手を引かれるままに、自室から出る。

「…行ってきます。凛玖兄様。」

私は己の願いのため、夢のため、兄と過ごしたその部屋を後にした。







嶺二の車に乗り、昨日の夜から一回も開いていない携帯電話を開く。

『新着メール 2件』

ディスプレイに表示された文字を確認し、メールを開く。

『差出人:黒崎蘭丸
宛先:壱原凛々

今日入学式だったな。おめでとう。
お前がちゃんと俺らと同じステージにくることを待ってる。

…体調管理に気をつけて、頑張れよ。』

『差出人:美風藍
宛先:壱原凛々

入学おめでとう。
自分の体調はしっかりと管理して保つこと。無理はしないで。

ボクももうすぐ本格的にネットでデビューするんだ。
作曲家としてもアイドルとしても、一緒に仕事できる日を、待ってるよ。

じゃ、頑張ってね。

追伸
次にラボに来る日にちを博士が教えてくれってさ。
決まったら連絡して。』


2人からのメールを読み終わると、すぐにお礼の返事をした。(藍には次に行く日も伝えた)

「…お返事、終わったみたいだね。」

私が携帯電話を閉じると、それを見計らって嶺二が声をかけてきた。

「ええ。蘭丸ともう一人、友人からのメールだったわ。」
「へぇ!ランランから!?めっずらしい〜ランランがメールするなんて。僕になんかメールの返信すらしてくれないのにぃ!」
「それは嶺二が絵文字大量の読みにくいメール送るからじゃないかしら?」
「りりたんひっどぉ〜い!僕ちんのメールそんなに読みにくくないよ!」

そんなたわいもない会話で盛り上がる。
窓の外をチラリと見れば、もう早乙女学園の校舎が見えてきた。

「もうすぐ着くよ。って、見えてるからわかるかな。」
「そうね。あれが、兄様と、嶺二たちが通っていた学校…。」
「今日からは、りりたんも通う学校だよ。」
「…ええ。」

私は、もう一度自分に問う。

私の夢は、願いは、何?


「…アイドルと作曲家を、両方になること…!」


静かに、強くそう呟くと、不意に頭にぽんっと嶺二の手が置かれた。

「頑張れ、りりたん。無理せず、焦らず、楽しくやっておいで。ね?」

ぽんぽんっと2度頭を撫でられ、そのまま離れていく手。

「…ありがとう、嶺二。」
「うん!どういたしまして!…さぁ、着いたよ。早乙女学園だ。」

嶺二の車から降り、桜色の日傘をさす。
鞄を持ち、目の前に立つ校舎を見上げる。


早乙女学園。
私はここで、アイドルと作曲家の両方を目指す。
今一度決意した私は、ゆっくりと門をくぐった。


ザァァァ…

風に揺られ、桜の花びらが舞う。
ふと振り返れば、嶺二が手を振って見送ってくれた。

……その横に、一瞬だけ、同じように笑顔で手を振る兄の姿が見えたような気がした。



to be continued...

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