捧げもの

□秘密
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数分後、ようやくマリアローズが着替えを済ませて部屋から出ると、みんなは静かに机の回りに座っていた。トマトクン以外は全員困惑の表情を浮かべている。

「さて、どういうことか説明してもらおうか」

トマトクンが有無を言わさない、けれど決して厳しくはない口調で言う。
……マリアローズは覚悟を決めた。

「――みんなに今まで隠してきたことは謝るよ。でも、僕は自分で本当に女だとは……思ってないんだ」

その時のマリアローズの声はとても震えていて。きっと今にも泣きそうなように聞こえていただろう。

「小さい頃に男の子なんだって言われてたから。実際自分でもそう信じてきてて……。
ここに来てさすがに実際の自分の性別は知ったけど。む……胸もあんまり大きくなかったから僕は男なんだって、自分も偽り続けてきて」

――本当だった。父にはずっと『マリアは男の子なんだよ』と言われ続けてきていた。それでマリアローズは自分が男の子だと思い込んだのだ。実際明るくて活発だったため、そう信じて疑わなかった。が、今思えば母はやはり女としてマリアローズを育てたかったのだろう。それでスカートをはかせたりしていたのだ。
子爵のもといた時も女として育てられていたが、父の言葉を信じ、子爵への強い恨みからも女への嫌悪感がつのった。まぁヴィンセントの所にいた時もしょうがない。彼は目が見えなくて、マリアローズが女だと思い込んでしまったのだから。
……そしてここ、エルデンに戻ってきて。現実は思い知らされたが、ここで女一人で生きていくのはとても無理な話しで。第一まだ信じきれていなかったとこもあったので、そのまま自分も他人も偽り、女として生きるのをやめたのだ。だからマリアローズが自分のことを『男』と言うことは、決してない。
男でも女でもない、中途半端な存在。それが今のマリアローズなのだ。

「みんなを騙してるつもりはなかったんだ。でも……ごめん。」

……別れを言わなければと思った。いくら秘密にしていたとは言っても、この秘密はあまりにも重すぎた。マリアローズが仲間でいる資格などない。ここにはいられない。
そう頭では理解しているものの、なかなか言うことが出来なくて。かといってみんなの顔を見ることもできず、マリアローズはひたすら下を見続けていた。
だから、いつの間にか目の前に来ていたトマトクンに気付かなくて

「――なるほど。悪かったな、無理矢理話させて。つらかっただろう。その……スマン。
しかし、もう少し俺らを信頼してくれてもよかったんじゃないのか?大丈夫だ、そんなことでお前に対して態度を変える奴なんてここにはいないさ。な?」

「ええ」

「はい」

「当たり前やろ」

「もちロン、でス」

そうしてトマトクンが優しく抱きしめてくれた。おかげでマリアローズは、ひどい泣き顔をみんなに見られなくてすんだ。

「信頼……してる、よ」

だからこそ言えなかった。今まで誰にも言ったことがなかったから。余計にみんなの反応が怖くてたまらなくて。
けれど今、みんなは受け入れてくれた。それがとても嬉しくてたまらない。

……のにどうしてこの半魚人はぶち壊してくれるのだろうか。

「ハッ、まてや。ってことは初対面の時のわしの膝スリスリは無駄やなかったんやな」

「……。そんなのどうでもいいだろ半魚人。さっすが、空気全くよめないんだね。ま、しょうがないか。魚だし。てことは空気で呼吸しないし、てか出来ないし。だからきみは今すぐ死ぬべきだと思うんだけど、誰か反対意見ある人いる?……はい、いないね。満場一致!てことでさっさと死んでくれない?半魚人」

「なんかいつもより酷くないか。……けど変わらへん、いつものお前や」

「うっうるさいな。急に変わるワケないだろ!」

慌てるマリアローズをみんなが優しい笑顔で見ている。
半魚人にはめられたのは許せないけど、これはこれでいいか。
そこにあるのはいつものZOOの光景。


――ここが僕の居場所。僕の1番大切な場所。



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