捧げもの
□眠れない夜
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何気なくテレビを見ていると、ふいにドアがひとりでに開いた……ように見えた。
何かと思ってじっとそちらを見ていると扉の影からマリアローズが現れたので、思わず頬を緩める。
「どうした、マリア?」
声をかけてやると、怖ず怖ずと部屋の中に入ってきていたマリアローズはトマトクンの顔を見て……泣く寸前の顔をしながら近づいてきた。
「ご、めんなさい。眠れなくて。怖くて……寝なきゃだめなのに、寝れなくて……だんだん怖くなってきちゃって。こ、わかったの」
そしてトマトクンのところまでたどり着くと、ついに我慢出来なくなったのか顔を押し付けて泣き始める。それでもくぐもった声で「ごめんなさい」と「怖かった」を繰り返し続けている。
一度目覚めたせいで眠れなくなり、段々怖くなってきたらしい。けれど普段はこの時間まで起きていると怒られるからしばらくは一人で我慢していたのだろう。それでもとうとう我慢できなくなった……といったところか。
トマトクンは泣き続けるマリアローズの頭を優しく撫でてやった。
「分かった。怖かったんだな、分かったからもう泣くな。誰もお前を怒ったりしないから、な?よく頑張ったな、偉いぞ」
そのまましばらく頭を撫で続けていると、ようやくマリアローズは落ち着いてきた。泣いて疲れたのだろう、少し瞼が下がり気味である。
「ほ、本当に怒らない?でも僕、頑張ってないよ」
「?何言ってるんだ。怖いのを我慢してここまで来たんだろ?」
聞くと、素直にこくんと頷いた。すぐに答えたところをみると、よっぽど怖かったのか。
「だったら頑張ったんだろう。我慢したんだしな。偉かったな……さ、眠いんだろ。一緒にいてやるから寝るぞ」
怒られなかったうえに『偉い』と褒められて安心したようだった。
――トマトクンが立ち上がると後ろにとことこと真紅の髪が従った。
この小さな薔薇を可愛いと思う。
ともかく今は、愛しくて仕方がない――。
→あとがき