捧げもの
□女じゃ、ないのに
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お願い、それ以上近づかないで。僕の心に入ってこないで。
僕は、女じゃない。そう心に決めてきた。これから変えるつもりもない。
だから……やめて。
本当に好きになってしまうから。
僕を女にしないで――
「マリア」
駄目だ。最近コイツのことを直視できない。
だって……
「マリア?どうしたんだい」
だって、コイツと目が合うと胸が苦しくなる。身体中が熱くなって、頭がぼーっとして。そう、こんな風に……って、こんな風に?
マリアローズが我にかえると、アジアンが下から顔を覗き込むようにしていて、目があった。
途端にマリアローズの心臓が跳ね上がる。が、それは決して純粋な驚きではない。
「うわっ、アアアアジアン!急に僕の前に出ないで、ていうか出るな」
慌てて距離をあけるが、マリアローズの心臓はまだ早鐘を打っている……しばらく収まりそうにない。
「急にって、ボクはずっとキミを呼んでいたんだけどネ。もしかして聞こえてなかったのかい?」
アジアンが不思議そうに尋ねる。それほど自分はぼーっとしていたということか。
「あっ、そ、そうなんだ。ごめん、ちょっと考え事してて」
適当に答えたのだが、やはりアジアンというべきか。あっさりとマリアローズの異変に気付く。
「マリア、やっぱり変だヨ?そういえばこの頃ずっとそんな感じだネ。何かあったのかい?
それとも遂にボクへの愛に目覚めたのかな?」
「!」
……この時、いつも通りの反応をすればよかったのだ。
お決まりの言葉だった。マリアローズも「はぁ?馬鹿じゃないの」と返せばよかった。そう、返せばよかったのだ。
けれど今日だけはそれが出来なかった。どころかアジアンの言葉に赤面してしまった。
「……マリア」
アジアンが驚きから徐々に喜びへと表情をかえる。
が、対するマリアローズは自分の反応に驚愕していた。
なんで!僕は女じゃないのに!
……気がつくと、マリアローズは駆け出していた。アジアンから逃げるように。