こばなし
□バレンタイン
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朝、学校に行こうと玄関を開けると、普段の三割増しに周りをキラキラさせている生徒会長が目に入った。
ドアを閉めて何も見なかったことにするか一瞬迷ったが、それでは今日一日外に出れなくなると思い、閉めたい衝動を何とか抑えて外から部屋に鍵をかける。
そのまま無視して学校に行こうとしたのだが、まさかこの変態ストーカーが見逃してくれるハズもなかった。まぁ、マリアローズを待っておそらく30分以上待っていただろうから当たり前と言えば当たり前なのだが。
周りがキラキラするような生徒会長。字面だけ見るとまるで漫画のようなかっこよさっぷりだが、実際そんな出来た人などこの世にはいないとマリアローズは思う。
――とにかく、少なくともこいつは違う。
この男、アジアンを一言で表すならまさに『変態ストーカー』。この言葉に優るものはないだろう。
(僕限定の表現だけどね、ものすっごーく嫌だけど)
「おはよう、ボクの愛しいマリアローズ。キミは今日も美しくボクを魅了するんだネ」
「おはよう少しは黙れないのこの変態?僕の前から一生消えてくれないかな?」
「フフッ、今朝もご機嫌ななめなのかいマイスウィーテストは。そんなとこも可愛いんだけどサ。
けど今日ぐらいは優しくてもバチは当たらない、そう思わないかい?」
「思わないね全く、これっぽっちも。むしろ甘やかしたら付け上がるでしょきみ?ってことで甘やかしたら負けだって思ってるから」
すでに哀しくも習慣となりつつある朝の言い合いを交わしつつ、マリアローズとアジアンは学校へと向かう。
ちなみに経験上、一人での登校は無理だと分かっている。もう二度とお姫様抱っこで登校などと死んだほうがマシな目には会いたくない。
「アァ、もうキミとの別れの時が来てしまったなんて」
――などと考えている間に、何だかんだで学校についてしまった。
といのもマリアローズのアパートは学校からかなり近いからだ。
「どうせ昼休みも来るくせに何言ってるの。じゃあね」
アジアンに全く付き合うつもりもないマリアローズは、深々とため息をつきながらその場を後にしようとした。
しかし、いつもならこれで終わりなのだが、残念ながら今日はいつもとは違かった。
「……マリア、何か忘れてないかい?」
にこやかに聞いてきたアジアンにマリアローズもにこやかに返す。
「えっ、何を?」
笑顔のまま見つめ合うこと数秒。
「フッ、分かっているんだヨ、キミがただ単に照れているだけだってことはね!」
――アジアンの行動は一瞬だった。
気がついた時には鞄の中に入っていたチョコの一つはアジアンの手の中に渡っていた。
「っ!あ、そ、それは……!」
驚きで何も言えなくなっているマリアローズにアジアンは微笑むと、一言
「キミが昨日友達と一緒にチョコを作っていたのは知ってたのサ。ありがとう、キミの気持ち、確かに貰って行くヨ」
そう言うと嬉しそうにその場を去って行った。
普段とは反対に、見送るマリアローズを残して……。