薔薇のマリアで17のお題
□03.超最低!
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――超最低だ
愛しのマリアに出会うならいざ知らず、なぜ野菜野郎なんかと鉢合わせしなければいけないのだろう。しかもお互い目が合ってしまった。
いや、それは正直どうでもいい。アジアンからすれば無視をすればいいだけなのだから。問題は野菜野郎が声をかけてきたこと、これにある。
「お前は確か……アジアンか」
最初は無視しようかと思ったし、実際アジアンはそうした。だが、どうやら周りがそれを許してはくれないらしい。
「おいっ、今アジアンって言わなかったか。ほらあの昼飯時の頭領の……」
「知り合いなのかあの二人?」
「クラン同士で揉めてるって話しは聞いたことないけど。でも――」
野菜野郎とアジアンの周りがあっという間に空く。こうなるとアジアンも無視するワケにはいかないので、ワザとらしくため息をついて答えてやった。
「ボクはキミに名乗った覚えはないんだけどネ」
「あぁ、そういえばそうだな。俺はトマトクンだ。――どうだ、少し話さないか?」
「フンッ、キミと話すコトなんて何もないヨ……と言いたいケドネ、ボクも言っておきたいコトがある」
いい機会だ。この男にはいくつか言っておきたいコトがあるのも事実。ならばこの機会に言ってしまうのもいいだろう。
「とは言っても、ここはチョット場所が悪いネ」
周りには野次馬だらけ。こんなところでクランのマスター同士が話すのは得策ではないだろう。そもそも、こんな奴と噂になるなんてまっぴらごめんだ。
そう思ってアジアンはさっと自分達を取り囲んでいた野次馬たちの輪を抜けだして駆け出した。わざわざ後ろを振り返ったりはしない。ついてこないならばついてこないでいいのだ。
だがトマトクンはついてきていたらしく、アジアンが適当なビルの屋上にたどり着くとすぐに声がかけられた。
「走るなら走りだす前にそう言ってくれると有り難いんだが」
全く、どこまでも嫌な男だ。
「別にボクはキミがついてこなくても構わなかったからネ。それよりもう少し注意してくれないかい?キミみたいな目立つ有名人に声をかけられるのは金輪際ゴメンだネ。そうじゃなくてもキミに声をかけられただけで虫唾が走るのにサ」
「それは済まなかった。目があったからつい、な」
「二度と話しかけないで欲しいヨ。……まァ今回はせっかくだからキミに色々言っておくコトもあるから多めに見るけどネ」
「ん、なんだ?」
「キミにとって、マリアはなんだい?」
単刀直入に聞いた。これは非常に大切なコトだからだ。アジアンにとってのマリアは、愛すべき者であり、守る者であり、自分の命――すべてである。そんな人を自分以外が守るなんて言語道断、普通なら絶対許さない。が、しかしこれはマリア自身が決めたことなのでアジアンも口出しすることは出来ない。なので仕方なく許しているのだが、それならそれで確認しておかなければならないこともあるのだ。
「マリアは俺の大切な仲間だ」
野菜野郎の答えはすぐに、なんの迷いもなく返された。だがそれだけでは足りない。それだけでは……。
「キミはマリアを命に変えても守れるかい?例え自分が死んでも」
「もちろんだろ。俺は仲間を絶対見捨てたりしない。死んでも守りとおしてみせる。
――お前は違うのか?」
逆に聞き返された問いに、アジアンは驚いてすぐに返すことは出来なかった。
「……やっぱりボクはキミが嫌いだヨ」
本当に超最低だ。この男の考え方は認めたくないけれど、よく似ている。仲間を守ろうとする、クランのマスターとしての自分の考えと――こんな奴と同じ考えだなんてネ。
野菜野郎はマリアを命にかえても守るだろう。仲間のためなら、例え自分がどうなろうともそんなことは厭わない。そしてそれは、自分も同じ。
「俺は別にお前が嫌いではないんだが。なんだかお前とは気が合いそうだしな」
「100%キミの気のせいだヨ。ホント、今すぐ死んでくれないかい?」
「それは出来ないな」
思わず全力で否定してしまった。もちろん相手も気づいたハズだ。なのに、返ってきたのは大真面目な答え。冗談も通じないなんて。
「冗談も通じないなんて、面白くない男だヨ。……まァいいサ。もうキミに用はないからネ、ボクはこれで失礼するヨ。あァ、それと」
せめてこれだけは言っておかないといけない。
「それと?」
「マリアに変な虫がついたら絶対許さないからネ。しょうがないからキミたちは見逃してあげるケド、なにかあったら殺しにいくからそのつもりで」
それだけ言うとアジアンはさっさとその場を立ち去った。こんな奴と一秒でも長く一緒に居たくないからだ。
――超最低だヨ
あの野菜野郎とは二度と会いたくない。アジアンは本気でそう思ったのだった。
一方、とり残されたトマトクンはしばらく何かを考え込んでいた。
「……虫、というのはどういうことだ?」
→あとがき