Short

□主夫
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彼奴はまた今日も帰って来ないんだろう。
夜を回って映り出す少し下世話なTVを消して俺は無機質に光るパソコンの画面に向かう。

同棲を始めて半年。今までわざわざ忙しい日に会う時間を作って、ドキドキと年甲斐もなく胸を高鳴らせていた過去。

今ではそんな必要もなく、帰れば当たり前に居るだけの存在になっていた。半年前までは積極的に求めていた身体の関係でさえ、希薄にお互いを重ねるだけの行為に変わっていた。

不思議と寂しくはない。しかし虚しい。それでもままごとのように帰宅を待って挨拶を交わすだけの生活を辞められはし無かった。

きしきしと音を立てるのは腰掛ける椅子だけで、交わす言葉もないがらりとした空間に持て余した時間は只々無駄に流れていく。

冷蔵庫に無造作に詰め込まれたおかずもそれを消費するのは自分の見ていない時ばかり。間近で口に運ばれる事の無い其れを毎日考え変わらず作り続ける俺は未だに昔の関係に縋っているのだろうか。

談笑を交わしながら、任せきりでなく一緒に台所に立ったあの日々。昔は俺の方が確実に下手くそで、今よりずっと不味かった料理を笑顔で食べ合った。懐かしさに少しだけ痛む胸はまあまあ未だに彼奴が好きな証拠で。

深夜1時を過ぎた頃、漸く帰って来た姿に気のない振りをした声を掛ければ、僅かに孕んだ酒気の中彼奴は笑う。

「昔はもっと愛想があったね。」

変わったのは俺の方なのだろうか。



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