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□ユウスケ君
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これはもう何度目の春だったろう。惚れっぽい俺はいつも沢山の人に愛情を振りまいてその度に振られている。好意をもってくれている人が大好きで、沢山の人に夢中になった。その度毎回振られて、捨てられるのは俺だった。俺の一番になりたかった。そんな台詞を言われたのは一度や二度では済まされなかった。振ったのは相手のほうなのに、なぜか俺がいつも悪いと言わんばかりな言い草だった。そしていつも俺は中学から連れ添うように仲の良いユウスケ君に愚痴るのだ。

「一番になりたいって何?俺はみんなのことが好きだし、みんなの事が一番だって愛し合った。それなのに尚一番を求めるのは意味がわからないよ。」

ユウスケ君は大人だからいつも俺の愚痴を困ったように聞いていた。思えば俺は今までのいい加減な人生の中でこうして沢山のことを話し、本心を告げた上で付き合いを続けてくれているのはユウスケ君くらいなものではないか?

「一番にこだわりを持つからみんな大変なんだ。一番でなくともそばに居れているだけで十分幸せだってわからない位にみんなは君のことが好きで、今まで誰かに一番愛してもらったことがあるから、自分が一番じゃないことに悲しくなるんだよ。」

ユウスケ君は少し悲しそうに目線を伏せつつ柔和に微笑んだ。綺麗な笑顔だった。思えばユウスケ君は誰とも浮いた話のない不思議な子だった。佇まいはとても清楚で、女の子達からは密かに噂にされていた。けれども誰とも付き合ったという話は聞かない。いつも俺の愚痴を聞いて笑っていた。

「でも、君だって大して変わらないよ、誰かの一番になりたいじゃなく、みんなの一番で居たいんだから。それはとても欲張りなことなんだ。でも君はそんな欲張りに気づかないくらい沢山の人に愛情を掛けてもらったんだろうね。」

「まるで自分が不幸だって言ってるみたいな口ぶりだね。」

寂しそうな横顔。ユウスケ君は愛された事が無いみたいな口ぶり。いつもは流してしまうような小言に、なんだかいらいらしてしまって勢いに任せて言ってしまった。俺は少しだけ後悔した。ユウスケ君は少しだけ驚いたような顔をして笑っていた。

「まさか。俺は自分のささやかな幸せに満足してるよ。俺には好きな子が居て、その好きな子は俺のこと其れなりに大事にしてくれてて。それだけでいいんだ。」

「そんなに好きなら告白してみればいいのに。」

「……好きだよ。すき。」

なんて。今の俺、女の子なら惚れてたでしょ?なんて柔らかい微笑みでユウスケ君から告げられた人生初の冗談は、どうしようも無く綺麗だった。

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