《銀×土》
□サヨナラ。
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「案外早かったな」
「仕事休みなんじゃないの?」って聞きたくなるような、上着とベストは脱いでいても制服姿の土方。
ワイシャツの袖を捲りながら歩き出した。
「寝坊しなかったとは偉ェじゃねーか」
まだ陽も低く人の少ない白浜を、なんだか海には似合わない格好の二人。
「まーね・・・土方からのお誘いだし楽しみだったんだよ。つーか、わざわざこっちで待ち合わせしなくても屯所まで迎え行ったのに。来年は、」
「来年は水着持って来ようぜ」って言い掛けた俺を、振り向いた君は優しく笑って。
「なぁ、今日は想い出話がしてぇんだ」
そう言って白浜に寝転んだ。
まだそれほど暑くはないけれど、焼けちゃうよ。
砂はキラキラ綺麗だけど、汚れちゃうよ。
今まであった沢山の出来事を土方は笑って話すんだ。
俺を置いてきぼりにしたまま。
「楽しかったな・・・でもよー土方、やっぱ違う話しねぇ?」
寄せては返す波。
「銀時」滅多に呼んでくれない名を君が呼んで。
「この海には・・・次の誰かは連れて来ないで欲しい」
そんなの卑怯で、卑怯なのに・・・一番卑怯なのは誰だ。
見逃してくれるならと、隠し続けよう、無かった事にしようとした卑怯者。
立ち上がった土方はサッと俺に手を伸ばし、其れを握って立ち上がった俺の手にもう其れは無い。
サヨナラだけを確かに受け取った。
寄せては返す筈の波が返って来ない。
また砂浜を歩き出した土方に何も言えないまま、スクーターを止めた場所まで戻った。
「乗る・・・?」って聞いた俺に、土方は「迎え呼んであるから」って言って。
少し汚れた制服に「じゃあ銀さんのコレ持ってきなよ、車汚れるから」って自分の着流しを示しても、ただ緩く頭を振った。
俺はなんでもいいから『いつか』が欲しいのに、土方は何もくれない。
土方だけなのに。
其れは本当に嘘じゃないのに、嘘になってしまった。
こんな事になるならもっと早くに・・・いや、あの日呑みにさえ行かなければ、そんな後悔は今更なんだ。
「・・・土方」
「もう行けよ?・・・な?」
もうこれで、スグ怒るし意外に泣き虫な土方の笑顔に振り回される事も無い。
こういう時は強いのな。
泣いて俺を困らせてよ。
視界にチラついた黒い車。
もうこれで土方を抱きしめる資格も無い。
嫌がりながらも手を伸ばせば届く距離に居た筈なのに。
「じゃあな」と先に背中を見せた土方の・・・幸せを願う事もきっと無い。
出来ない、俺はそんな出来た人間じゃないんだよ。