《銀×土》
□嵐の日に。
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ザーザーと横から打ち付ける雨。
傘は持っていない。
この風では意味も無いし邪魔なだけだ。
人通りの無い泥濘るんだ道を走り抜けた。
(・・・・・・特別、か)
万事屋と交わした何気ない会話。
其れがどうにも頭から離れない。
(アイツなんだかんだあの女には甘ぇよな・・・)
近藤さんのように、ただ尻に敷かれているようにも見えるが、違う何かがある気がして・・・。
其れは従業員の身内だからとかそういう事でもなく、それこそ本当に特別な何か。
(・・・・・・・・・)
正直こんな台風の中をずぶ濡れになって走りたくはなかったが、山崎の泣きそうな声を聞いた時はホッとした。
これで帰る理由が出来たと・・・ーー。
見ていたくなかった、アイツとあの女を。
女を気遣うアイツも、アイツの言う事は素直に聞く女も、夫婦のように自然で。
それがどうした、別に関係ないと、何度自分に言い聞かせても目を背けてしまう。
理由も無いのに帰ると言えば近藤さんは俺を引き止めるだろう。
それに近藤さんまで気を遣って一緒に帰ると言い出せば、真選組の大将が台風で風邪だの怪我だの洒落にならない。
実は近藤さんの部屋も水浸しと言うのは黙っておいて正解だ。
(くそッ・・・なんだってんだ)
あの時、家を出たのがあの女だったなら、きっとアイツは止めた。
帰れて良かった、これで良かったのに・・・。
(心配でも、して欲しかったってか・・・)
フッ、と思わず笑いが零れる。
いつからかムカツクだけだった万事屋との口喧嘩が楽しくなり、そういう時は嫌な事も忘れられたし気が休まった。
気が付いた時には遅かった。
(ホント・・・・・・ありえねェ・・・・・・)
ギュッと瞼を閉じた瞬間。
「マヨラー?」
聞き覚えのある声に足を止め振り返る。
「・・・何やってたんだ、お前」
「お前じゃないアル!お前こそ何してるネ!」
「見りゃわッ・・・」
反射的に、見れば分かるだろう、と言い掛けて止める。
成人男性が土砂降りの中を全力疾走など意味が分からない。
「お前も台風で浮かれてるアルか」
「違ェよッ!・・・お前もって事は」
(さっきコイツが居なかったのは、そういう事か・・・)
子供と言うのは何故こうも嵐が好きなんだろうか。
昔、総悟も台風の日に一人で遊びに行ってしまい近藤さんと捜し回った事があった。
泥だらけの総悟を見つけた時はホッとして、やっぱり子供なんだなと微笑ましくも思ったものだ。
「マヨラーも一緒に遊ぶヨロシ」
「悪いがそんな暇は無ェ。お前も危ねぇからそろそろ帰れ」
「大丈夫ヨ。これから定春と障害物競走ネ」
倒れた自転車にバケツやら植木鉢やら、ゴミ箱まで転がった道はコースに持って来いだろう。