《銀×土》
□嵐の日に。
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「飛び出して行ったと思ったら何やってんだ・・・。もう警報も出てるってのに」
「トシ!市民の安全を守るのは俺達の大事な役目だぞ!」
「屯所から此処まで脇目も振らずに来たよな?明らか私情挟んでんだろ」
「良かった、土方さんも来てくれたんですね。はいどうぞ」
「あ、どうも・・・・・・ッじゃねェよ!なんで俺まで手伝う流れになってんだッ!」
「早く終わらせてちゃんとゴリラ連れて帰って下さい?」
「そうだぞトシ!皆でやればあっという間だ!お妙さん、菓子など気を遣う必要はありません。お茶だけで十分です!」
「はぁー・・・」と深い溜め息を吐いて項垂れてしまった土方。
強風の所為でいつもはストンと落ちた艶やかで真っ直ぐな黒い髪も、今日は風向きが変わる度に右へ左へ、上へ下へと靡く。
(そんなに乱れても綺麗なモンは綺麗なのねー・・・)
「ーー・・・ッ銀さん!早く釘ッ!」
俺が土方に見蕩れていると一緒に板を押さえていた新八が限界とばかりに声を挙げた。
「あぁ、悪ィ」
「なんだ、てめぇも来てたのか」
「俺は市民の安全より自分の安全のが大事なんですけどねー」
「ふん。その割には丁寧にやってんじゃねーか。どうせ報酬に釣られたんだろ万年ニート」
「残念ながら此処は特別なんだよねー。ホラ、銀さんどっかの税金泥棒と違って優しいからぁー?」
新八の・・・いや、あの凶暴な女の家じゃなかったらタダでこんな重労働、誰がすると言うのだ。
「・・・・・・気持ち悪ィから語尾を伸ばすな」
一瞬出来た間に横目で見た土方の顔は少しだけ歪んで見えたが、乱れる髪がその表情をぼかすように右へ流れて・・・またスグ左へ流れた時にはいつもの仏頂面だった。
土方は踵を返し近藤の所へ行くと釘を打つ近藤の代わりに隣で板を押さえる。
(ゴリラのヤロー・・・一人でやれんでしょうがっ)
この風では流石に一人で板を押さえながら釘を打つのは難しいが、それでも羨ましくて仕方がない。
手伝う土方も土方で、結局は近藤に甘いのだ。
少し苛ついて打った釘が曲がったのを見て、新八が「綺麗にやらないとまた姉上に怒られますよ」と溜息を零す。
どんなに急いでいようが適当にやれば問答無用でやり直し。
一つ舌打ちし、曲がった釘を抜いて打ち直した。