《銀×土》

□クレーム対応は大変。
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エイプリルフール。
誰もが仕掛けられる『嘘』に警戒せずにはいられない日。
俺も例に漏れずその一人だ。
勿論隙あらば此方から仕掛けるつもり満々で。

とは言え警戒してるのは相手も同じ、上手く引っ掛かってくれる可能性なんてのは限りなく低い。
目の前に居る男に至ってはエイプリルフールに限らずとも警戒しっぱなし、だから俺は大して気負う事なく、つまらない冗談の一つや二つ言って笑えたら万々歳かなと、その程度にしか意識していなかった。
きっと、この男もそうだろう。

そんな風に思っていた矢先、事件は起きる。



〇クレーム対応は大変〇



日を跨いでスグの事。
正直早過ぎてまだ警戒も何もしてなければ数日前にエイプリルフールと言う事に気付いてから今の今まですっかり忘れていた。

俺の股の間から上目遣いに此方を見上げるは凶器。
その図だけで十分に俺の息の根を止めてくれそうな威力がある。
実のところ滅多にお目にかかれない景色なのだ。
しかし・・・確か、俺の記憶に間違いがなければだが、1ラウンド終え独特の倦怠感に襲われながらも愛しい人の体温を感じ幸せを噛み締めようといった時、珍しく彼の方が次を急かすようにやんわり俺を押し倒してきて・・・ーー。

「ひ、ひじかた・・・?」

「全部出たと?」

(ぬあああああ!!)

出た、出ました。
きっちり全部搾り取られました。
なのに一瞬にして息子が復活してしまう不思議。
真っ正面から不意打ちの攻撃を二度も食らっては仕方もないだろう。
それなのに、土方は勃ち上がったソレに視線を落とすと舌打ちなんぞしやがった。
この流れ、第2ラウンド開始の流れではなかったか。

「チッ、てめぇもか」

「えっ?ちょっとソレ聞き捨てならないんですけど、も、って何。も、って」

此処でやっとだ。
やっと俺は今日がエイプリルフールだと言う事を思い出す。
ああ、浮気でも匂わせて俺を不安にさせる気なんだろう。
そういう事か。

「今、俺が他の奴にもこんな真似したと想像でもしたんならぶっ殺すぞ」

「え・・・いや、うん・・・・・・え・・・?」

(アレレ・・・?)

「そうか。てめぇは俺をンな適当な事する男だと思ってた訳だ」

「ち、違う違う違う!そんな事これっぽっちも思ってないからねっ!土方がアレをアレして『全部出たと?』って?何処かの誰かさんの股の間入って?ムリムリ、想像出来ないっつーか、したくねぇっつーか」

「そうかいそうかい、そりゃ悪かったな。そんなに嫌ならもうしねぇよ、二度とな」

「っ、違っ!そうじゃなくってさー!」

土方はツンとした表情で着流しを肩に羽織ると横に移動し煙草に火を点ける。
慌てて俺が後ろから縋るように抱き着くと、ふっ、と穏やかに笑う声が漏れて。
そのままギュッと回した腕に少し力を込めた。

(分かっててもコレだもんね)

いくら警戒しても意味がない。
だけど、こうして振り回されるのも相手が土方ならば・・・。

浮気を匂わせ不安にさせる事が土方の狙いなのだと思ったから、それには些かネタばらしが早いと言うか、寧ろ騙すつもりもないような返しに一度驚いたが、そちらがメインじゃなかったのなら頷ける。
俺は完全にコレが土方の可愛い冗談、エイプリルフールに便乗したお遊びなのだと、この時はそう思っていたのだ。

そして、お遊びはこの場で完結したものだと、すっかり勘違いしてしまった・・・ーー。
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