《銀×土》

□嵐の日に。
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「ッあぁ!もうやだ。無駄に広過ぎだろッ!この際向こうは良くねェッ!?寧ろ風通し良くなっていいんじゃねェッ!?」

ーー・・・バキッ

(・・・あれ、これアレだよ?結構頑丈な板だからね?頭で突き破っていい厚さじゃないからね?)

「銀さん?ゴチャゴチャ言ってないで手を動かして下さい」

(・・・・・・・・・)



〇嵐の日に〇



まだ六月だって言うのに江戸には大型の台風が接近中。
そして、これは夏の恒例行事。

恒道館の台風対策、板張り。

台風に備えて縁側の戸に板を打ち付けて回るだけだが、腐っても道場・・・広い、とにかく広い。
毎年覚悟してる事とは言え今年は予想以上に早かった。

「金にもならねぇ依頼受けてやってるだけ銀さん少しは感謝されてもいいと思うんですけどー!」

「新ちゃんのお給料から引いて貰って構いませんよ?今月・・・あらやだ、確か先月分も貰ってな、」

「はい!やりまーす!喜んでやらせていただきまーすっ!」

「・・・銀さん、早くやっちゃいましょう」

「新八、お前暫く昼飯抜きな」

「えェェェッ!?アンタ給料も払わない癖にしっかり僕から搾り取る気ですかッ!」

「うるせェ!早く板持って来いやァッ!」

因みに神楽は意気揚々と定春を連れ遊びに行った。
これもまた夏の、台風が来る日の恒例行事となっている。

住居の方は残り数枚で終わるが、道場の方が丸々残っている状態。

(こりゃ間に合わねぇな)

灰色に濁った雨雲を背に、諦め半分でそんな事を思っていた。

「お妙さァァァァん!」

捩り鉢巻きにトンカチを持ったゴリラが今は天使に見える、翼が生えたゴリラだ。

「あら近藤さん、どうしたんですか?」

「いやぁ台風が来るってんで、お妙さんの家は広いから新八君だけじゃ男手が足りんでしょ!」

「えぇ、足りないのは男手でゴリラの手じゃないですけどね。真選組の方はいいんですか?」

「心配無用です!屯所は男手しかありませんからっ!」

「それならゴリラ以外に来て欲しかったわ」

「まぁ、姉上・・・僕と銀さんだけじゃ間に合いそうもないんで手伝って貰いましょうよ?」

「しっかりやらなかったらそのトンカチで頭ぶち抜くぞ」と言うお妙を無視して、近藤はイイ所を見せようと鼻息も荒い。

とりあえず人手ならぬゴリラ手が増えるのは有り難いと、俺は板を片手で押さえながら釘に手を伸ばした。

「近藤さん」

今度こそ人で間違いない。

俺が密かに想いを寄せる人の声。
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