中編

□虹色レインボー
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「レオン!!!」


モエミの声がして、ひんやりと少し冷たいバトンが俺の手に乗った。


澄み切った青空の中、それを握って俺は一気にトップスピードまで上げて直前コースを走り抜けた。


「50.18秒か。なかなかいいタイムね。練習の中じゃ1番いいタイムよ」


「これなら優勝も楽勝じゃね?」


トラックの向こう側でメイとリューが喜んでいる。俺は息を整えながら、ゆっくりとトラックを歩いた。


すると、リューたちといたモエミの声がすぐ後ろで聞こえた。


「レオン、さっきのバトンパスのことなんだけど…」


俺がちょうど振り向いたとき、上からぽつり、と冷たいものが頬に落ちた。


不思議に思って上を向くと、さっきまで青空だったはずが、どんよりと灰色の雲が覆っていた。


次の瞬間、ザアァッと大粒の雨がスコールのように降ってきた。


「いったん中に入ろう」


俺は昇降口を指してモエミに言った。


彼女はこくりと頷いて、俺達はそこに向かって泥を跳ね上げながら走った。







昇降口につくと、すでにリューたちのほかにも10人ほどの生徒たちが雨宿りをしていた。


「モエミ、大丈夫か?」


俺は振り向いてそういった彼女をみた途端、一瞬思考が停止した。


走ったばかりの赤みを帯びた頬。下ろした肩までの髪は雨で肌に張り付いているし、体育着もピッタリと彼女の体型に沿うようにくっついている。しかも雨のせいで若干透けていて、俺は目のやり場に困ってしまった。


運よく俺のタオルが近くに置いてあったから、それを彼女の頭に被せてがしがしと拭いた。


「ちょ、レオン!?」


突然の俺の行動に驚いたように彼女が声を上げた。


「…風邪ひくからちゃんと拭け」


手を止めてぶっきらぼうに言うと、小さくありがと、と聞こえた。


途端に、なんとも始末の悪い感情が、きりきりとした痛みとともに胸の奥から突き上げてきた。

そんな痛みにちっとも慣れていなかった俺は、何も答えず、彼女から無理矢理視線を離すと、あとはただ怒ったように雨の降るグランドを見ることしかできなくなった。







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