中編

□ここから始まる日曜日
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「……ん…」


眩しいくらいの光の明るさで目が覚めた。


視線の先には真っ白な天井。


薬品の臭いが鼻をかすめた。


………医務室だろうか


「あ、れ……?」


でも私、なんでここに?


たしか、自販機に行こうとしてたはず。


途中でレオンさんに呼び止められて、それから………


それから?そのあとの記憶がない。


なのにどうして自分はこんなところに寝ているのだろう。


ふと、右手に違和感を感じて、頭だけそっちに動かした。


「……え?」


そこには金糸の頭がベッドの脇に突っ伏していた。


彼の左手は、しっかりと私の右手を握っている。


…なんでこの人がいるのだろう


私は起き上がり、空いている左手で彼の頬を触れた。その頬は、すごく冷たかった。


―――レオンさんが私を運んでくれたの…?


…嬉しい。


そう思った途端、顔が一気に熱くなった。


その思考を振り払うように首をぶんぶんとふると、目の前の金色がもぞもぞと動いた。


彼はゆっくりと体を起こすと、瞼に遮られていた青が、ゆっくりと現れた。


その青は、うつろげに私を捉えた。


「…おはようございます」


私がそういうと、あぁ、と短く返事が返ってきて、すぐに彼の目が見開かれた。


「…体調はもうなんともないのか?」


「あ、はい。おかげさまで。ご迷惑お掛けしました」


すると彼はふるふるとそれを否定した。

「いや、俺も気づいてやれなかった。すまない」


だが、と彼は続けた。


「とりあえず、元気になってよかった。急にぶっ倒れた時は驚いたがな。医者が睡眠不足に貧血だって言ってたぞ」


「あぁ、そういえば3日くらい食べてませんね」


平然と言ってのけた私の頭に突然ゲンコツがふってきた。


「何するんですか!?」


「無茶した罰だ。まさかあの大量の書類、毎日やってた訳じゃないだろうな?」


う、この人やっぱ目ざとい。


私は曖昧にはは、と笑うと、呆れたようなため息が返ってきた。


「あれは一人でやる量じゃないだろ。後で上の奴に言っとく」

「すみません。助かります。…ついでにお願いがあるんですけど…」


「なんだ?」


「手、離してもらえません?」

すると彼はにっこり笑って言った。


「それは無理なお願いだな」


「……なんでですか」


恥ずかしいから早く離せよ、と心の中で文句を言いつつ理由を聞いた。


彼は笑みをさらに深めた。


「好きな子の手をやっと掴んだんだ。そう簡単に離すはずがないだろう?」


「え、ちょっ、それ……!!!」


自分でも顔が一気に熱くなるのがわかった。


今なら顔から火が出せる気がする。


レオンさんは喉の奥を鳴らしてくつりと笑った。


「真っ赤だな」


「うるさいです」


私はぷいとそっぽを向いた。


彼はそれを気にする風もなく口を開いた。


「さて、モエミ。返事をくれないか」


「何のですか」


わかってるけど素直になれない自分が嫌になる。


「モエミ、俺を見ろ」


ちらりとみた彼の青は真剣だった。


私は目を合わせず俯いたまま、彼のほうをむいた。


レオンさんは私の両手を自分の両手で包み込むと、私の名を呼んだ。


「モエミ、俺は君が好きだ」


「…私、かわいい性格してませんよ?」


「知ってる」


「口は悪いし、女らしさのカケラもないし、それに……っ!!!」


急に息ができなくなって、目の前には端正な顔。



あ…キス、されたんだ。そう気がついたのは、彼の顔が離れてからだった。


「大丈夫だ。そんな君も全部引っくるめて、モエミが好きなんだ」


…この人は、ずるい。そんなこと言われたら、答えは一つしかないじゃないか。


「私も……レオンさんが、好きです」


私が俯いたまま、ぼそぼそと小声で言うと、彼がふわりと笑うのがわかった。



「モエミ、愛してる」


彼はもう一度、私に唇を落とした。








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