Biohazard
□危険区域
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東欧イドニア。2010年以降、内戦状態が続いているこの国の反政府軍に、サイレント・キリング(無音殺人術)のエキスパートがいた。
第3部隊に属するジェイク(17)はこの部隊に転属になったことを死ぬほど後悔していた。
「次!」
この日の午後は、格闘術の演習だった。第3部隊の隊員たちにとって、最もキツいと言える訓練だ。
「遅い!次!」
円陣の中心にいる女から、再び厳しい声が上がる。すでに6人もの隊員を3秒で地に沈めている。この女こそ、サイレント・キリングのエキスパートであり、格闘術において右に出るものはいないと言われる我らが部隊長、モエミである。
「…ったくよぉ、あいつほんとに女かよ?」
ジェイクはぼやくように言うが、実のところ格闘術が得意な彼もモエミに1度も勝ったことがない。
「なんだジェイク。負け惜しみか?」
呟きを鋭く聞きつけたモエミが鼻を鳴らした。
「んだと!?今日こそは絶対勝つからな!」
青い瞳に挑戦的な光をみなぎらせてジェイクは言った。
「何度目だ、そのセリフ。一回くらい実行してみな」
モエミは不敵な笑みで応じる。
「うっせーよ!」
ジェイクの長い左脚が、唸りをあげてとんでくる。相当な速さだったが、モエミはそれをあっさりとかわし、逆に彼の左脚をすくいあげようとする。しかし、モエミの手が届く前にジェイクはすでに体勢を立て直しており、今度は顔面めがけて右ストレートがくる。
真剣な面持ちで攻撃を仕掛けてくるジェイクにモエミはかすかに顔をほころばせた。
なにしろ以前は「女相手にまじでケンカなんかやるかよ」などとほざいて一向に本気を出す気配がなかったのだ。
しかし、さすがに半月以上毎日何かしら殴られ続けるので、とうとうモエミを女だと思わないことにしたらしい。最近だんだん真面目にやるようになってきた。