中編
□1.スキンシップじゃなくてセクハラです
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突然、ナイフや銃剣を持ち、武装した男たちがこちらに向かってきた。モエミたちは、反射的に銃を構えた。
おおかた大統領を襲いにでもきたのだろう。
しかし相手の武器は刃物だけだ。ここで一斉に発砲するほどのことではない。
そう思い、外の警護についていた誰もが引き金を引くのを躊躇した。
そのとき、モエミたちの近くに立っていたチーフエージェントの声が、凍えた空に響いた。
「撃て!!!」
銃声が、途切れることなく続く。
モエミの指も、引き金を引いた。
半年に渡ってたたき込まれた、徹底した服従。半ば本能と化したそれは、命令の声を聞くと反射的に反応する。
そして、その結果モエミの視界がとらえる。
灰色の中、飛び散る深紅。白いはずの地面にできた、紅い、紅い水溜まり。
そのあまりにも鮮やかな赤に、モエミの弱った感覚は耐えられなかった。
ああ血だ、と思った途端、彼女は崩れ落ちた。
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