中編

□1.スキンシップじゃなくてセクハラです
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モエミは震え、くしゅん、とくしゃみをした。


「風邪でもひいたか?」


すかさず傍らから声がかかった。


モエミは何も答えない。


「顔色が悪い。寒かったらちゃんと言え。暖めてやるからな」

真剣な口調で言われたが、その台詞の中に妙なものが混じっていたのをモエミは見逃さなかった。


あえてモエミは答えない。先輩のエージェントであったが、相手にする必要はなかったし、何より、寒さで唇が動かなかった。


「まただんまりか?…そうか、モエミはツンデレなんだな」


フムフムと勝手に解釈をはじめた声がふいに近くなったかと思うと、いきなり右手を取られ、冷えきった指に生暖かい息を吹き掛けられた。


「っ、何するんですか!!?」


びっくりしたが、周囲を気遣い、必死に堪えた。モエミは急いで右手をひっこめ、横目で相手を睨みつけた。


「やっとこっちをみたな」


視線の先で、嬉しそうに男が笑っている。


透き通った青。綺麗な色だ。


肌はモエミより白く、冷気のために頬や鼻頭が薄く赤みを帯びている。


金糸が揺れて、薄く積もった雪が黒のスーツに落ちた。


「唇の色、すごいことになってるぞ。風邪ひいたか?」


彼はますますモエミに顔を近づけてくる。


黙っていれば、見てくれだけはいい男なのにね、


この男はモエミにとってただうっとうしいだけでしかない。


モエミは邪険に顔を背けた。


「照れるなよ、モエミ。寒いんだから暖め合おうじゃないか」


にこやかに言う男に、思わずため息がでた。


そう、この男―――レオン・ケネディはこういう男なのだ。
黙っていれば魅力的、口を開けばただの変態というなんとも残念な上司。


にも関わらず、女性陣からの人気は絶大らしい(これは自慢された)



「…セクハラで訴えますよ」


「これはセクハラじゃない。立派なスキンシップだ」




堂々と言った彼から、本気で逃げようと思った。






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