Biohazard
□322号室
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何をやってもうまくいかない、とか。
一生懸命やってるのに認めてもらえない、とか。
――そんなしみったれたことをいう人間にだけはなるまいと思っていた。
だけど、私にだって弱気になるときくらいある。特に、今日みたいな、雨の日には。
久しぶりの休暇で、私は学生時代の友人が自宅に来ていた。
家にやって来たときから、やけに嬉しそうにしていた彼女に紅茶を差し出し、理由を聞けば、来月結婚するらしい。
「そっかぁ、おめでとう!久しぶりに会ってみたら、結婚するだなんて、びっくりだわ」
「ほんとはもっと早く言おうと思ってたんだけどね。」
幸せそうに笑う彼女につられて私も笑う。
「ほんとよ。メールくらいよこしなさいよね。お詫びに今日は結婚に至るまでの話を聞かせてもらうことにするわ。」
「まかせて〜!」
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………話が盛り上がってるうちに随分と時間が経ってしまったようだ。日が高いうちから話し始めたというのに、外を見れば、もう真っ暗だった。
雨はまだ、止んでいない。
「…そういえば、モエミは彼氏いないの?」
ふと、彼女が思い出したように聞いた。
「…そうね。最近は仕事のほうも忙しかったから、考えてもいなかったわ」
「そっかぁ。…あっ、もう帰らなきゃ」
…もうそんな時間だっただろうか。時計を見ると、針はちょうど、7をさすところだった。
「旦那がいなきゃもっとモエミと話せたのに…」
「こら。新婚がそういうことを言っちゃダメでしょ」
うぅ〜、と唸る彼女に帰り支度をさせ、玄関で見送る。
「じゃあ、旦那さんと仲良くね。結婚式には行くから」
「了解っ!まかせて、ブーケはモエミに投げるから!!」
「ん。ありがと」
「それからそれから!!彼氏できたら連絡してよね!」
「はいはい。外で大声で言わないの、恥ずかしいから」
「もぅ、絶対だよ!?約束だからね!!」
彼女は頬をぷくっと膨らませてみせる。
「ん。わかったよ。ほら、早く帰らないと、旦那さん心配するよ?」
「うん。じゃあ、またね!」
彼女を見送ると、ちょうど目の前の扉が開いた。
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