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□bitter&white
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「…雪」
「降ってるッスね」

モモの後押し(ていうか無理矢理)によって適当におつかいする事になった。
つまりパシリ。
セトは「シンタローさんと一緒なら何処だっていくッス」とか言ってたから、まあ…いいんだろう。

一歩外に出るとそこは極寒の街だった。
「寒いぃ…セト…行きたくない」
「きいてあげたいのは山々ッスけど今回はキサラギちゃんも関わってるッスから仕方ないッス」
くそ…なんでこんな真冬日におつかいなんてしなきゃなんねぇの…寒い。
「うぅぅぅ…上着とか持ってきてねぇよ…」
するとセトはアジトに一旦戻り色々防寒具を持ってきた。
「これ使うッス」
差し出されたのは、大きめのコートと渋い色合いの手袋とマフラーだった。
「は…いやお前のは」
「ないッスよ」
うわぁ…冬でも爽やか笑顔。
「いや、これお前のだろ。良いって」
「大丈夫ッスから。」
セトは遠慮する俺に構わず、グイグイと押し付けてくる。
受け取らないと、ずっとこうして玄関から動けないだろう…選択の余地はない。
「…ほんとにいいのか?お前が風邪引くって…」
「シンタローさんよりは、身体つくってるッスから!心配ないッスよ」
それはそのとおりだが、なんか真正面から言われると、傷つくな…。
「じゃ、じゃあ遠慮なく…」
コートを着ると、やっぱり少しだけ大きい。袖口から指が覗いている。
セトの身体の大きさを改めて痛感した。
自分の貧弱さも。
セトをふと見ると、寒そうに手に息をかけていた。
「…セト、寒いんだろ」
「だ大丈夫ッスよ」
声も寒そうに少し震えていた。
「お前風邪ひいたらバイト大変だろ、手袋だけでもしとけって」
ポイッとセトに向かって手袋を投げると、セトは慌てて手袋を受け止めた。
「でも、シンタローさんが…」
「大丈夫って言ってるだろ、コートの袖でどうせ隠れるんだし」
少し赤くなった指先が覗いている袖を見せた。
すると一瞬セトの動きが止まった。
「おい、セト。どうした」
俺の声で我に帰ったのかぶんぶんと頭を横に振りながら「なんでもないッス!」を連呼した。
まあ何かあるんだろうけど特に変わったこともしてないし聞かないでおこう。
セトの耳がほんのり赤く染まっているのが目の端の方で見えたきがした。



「うわぁ…よりによってリア充の巣窟かよ…」
「仕方ないッスよ今日はバレンタインッスからね」
アジトのある所から一歩はずれて 大きな通りに出た。
そこには、バレンタインムード真っ盛りの街の姿があった。
肥大化し続ける街は出歩いていた2、3年前の街に比べより一層活気にみちあふれている。
しかしこのリア充の数は…
「リア充爆発しろ」
なんてネットで飛び交ってる台詞を吐いてみたくもなる。
「そういえばおつかいってなに頼まれてるんだ?」
「そうッスね…」
と言いながらセトは紙きれを取り出した。
「チョコ」
「は?」
…は?
「じゃあ全文読むッスね『お兄ちゃん達への依頼はチョコを全員分買ってきてね!今日は一年に一回のバレンタインデー!この日は女子も男子もドキドキな一日!あと私の誕生日!ベニ鮭ちゃんのバレンタイン限定ストラップもお願いしますてへぺろ!』だそうッス」セトから紙きれを奪って読み返してみると丸っこい小さな字で同じことが書いてあった。
なんだこの宣伝みたいな説明は…てゆうか、
「普通男から女に渡さないだろ…」
「まあ逆チョコって言うものもあるッスから」
セトは楽しそうに笑った。
「モモの誕生日プレゼント…めんどくさい…ちゃんとおめでとうって言ったのに」
強欲な妹は辛い。
「まあまあ…あ、裏にもなんか書いてあるッス 『お金よろしくね!』」
どうしよう…今すぐこのメモ引き裂きたい。
俺の体力が持たない。
「シンタローさん!とりあえず早めにチョコ買わないと売り切れるッス!」
「うぇ…何処で買うんだよ…」
残念ながらその辺の知識は持ち合わせていない。
「きっと百貨店なら紅鮭ちゃんストラップも売ってるはずッス、だから」
「…あ、あの」
セトの背後から、声がした。
そちらを見ると美人の女の人が立っていた。その人はセトを見上げていた。誰だろう。
「ああ、いつも店にきてくださってありがとうございます。」
セトが爽やかな笑顔を広げた。女の人の頬が赤く染まった。
…ああ、きっとセト目当てでセトのバイト先に通っているんだろうなとなんとなく悟った。
「…これ、よかったら」
その人はセトに何かを差し出した。それは綺麗に包装された高そうなチョコだった。
「俺にスか、ありがとうございます」
セトは無邪気な笑顔をみせた
目の前の女は顔を真っ赤に染めて口元をマフラーで隠した。
ああ…確かに美人だ。
その人は俺を一瞥したあと用事があると言ってどこかに行った。
セトは最後まで笑顔だった。
そういえばセトの好みのタイプとか聞いたことないな…
…マリー?いやあれは違うような やっぱりさっきの人みたいな美人が好みなのか…
「シンタローさん?」
いつの間にか目の前にセトの顔があった。
「うわああ!な、なんでもないから!」
思わず後ずさってしまった。
「そうッスか?じゃあ行くッスよ」
「はいはい」と簡単に相槌をうってセトの後についた。
しかしなんとなく苛つくようなむしゃくしゃするような後味のわるい苦い何かが渦巻いていた。
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