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□bitter&white
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「シンタローさん」
「…」
「シンタローさん」
「…」
「シンタローさんってば」
「うるせぇ!わかったからいちいち用もないのに名前を呼ぶな!」
コイツに振り回されることはや一ヶ月。
この作業着ともとれる緑のつなぎを見なかった日はあるだろうか。
ないと思われる。
キドから後になって聞いたが俺に会うためにバイトの時間を変えたり休んだりしているそうだ。
コイツは絶対、馬鹿だ。
俺がアジトに行かなくても、コイツが勝手にうちの家に会いにくる。
そういえば、一度アジトに行くと伝えておいてわざと行かなかったことがある。
すると夜になっても来ないのを心配したのか、遅くに息を切らして、家に来やがった。
その時のセトの顔が本気で冷や汗が出るほど怖かった。
「用もないのにってひどいッスねー」
「じゃあ用あるのか」
「ないッス!」
即答である。
清々しいセトの笑顔がやけにイラついた。
「はぁ…お前といると疲れがすごいんだが」
セトは溢れんばかりの笑顔をこぼした。
「つまり俺と一緒だと楽しくて充実してるってことッスよね…!」
前向きだわー超前向き。
どうしてそんなプラス思考でいられるのかがわからない。
「そうだ、シンタローさん外行かないッスか」
突然、セトが提案してきた。それも、俺にマイナスな。
「…なんで」
セトは立ち上がって、
「シンタローさん引きこもりを治すためッス!」
と高々に宣言した。
「悪いが、俺今の生活で満足な…」

するとドアの開く音が聞こえた。
誰かが帰ってきたようだ。
「ただいまー」
この声は…我が妹のモモだ。
「おかえりッス!ずいぶん早いッスね」
モモは頭を掻いた。
「いやあ…忘れ物しちゃって…あれお兄ちゃんどうしたの?なんか嫌な顔して」
…そりゃあ嫌な顔もするさ。きっとモモは俺の引きこもり脱出計画なんぞを聞いたらすぐにでも賛成し実行させようとするだろう。
これはセトに言わせてはならない。絶対。
も、と
「―こもりを治すために外に行こうと思うんスけど、どうッスか?」
時既に遅し。
モモの目は爛々と輝いていた。
…まずい。
逃げなければと玄関へ走ろうとすると誰かに肩を掴まれた。
ギシギシと俺の柔い骨を蝕むかのように指が食い込んでいる。
「何処に行くのかなー?行かせないよ?」
悪魔のような我が妹のドスの効いた声を耳にしまい叫んだ。
「いたい、痛いです、お許しくださいぃぃい」
とてつもなく痛かった。
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