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□ただいま
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あの音は、俺が生み出した幻聴なんじゃないんだろうか。
もしくは、誰かが帰ってきたのか。
…にしては、ドアの音から数秒…何も聞こえない。
「…なんだ…?」
俺は、やつれた顔で、足をひきずりながら、ドアの音がしたほうへ向かった。
そこには…。
「…か…カノっ…さん…?」
俺のやつれた顔なんて、比じゃないくらい、ボロボロな姿の
会いたくて、会いたくて、たまらなかった、
━カノさんがいた。
「…あ、シンタロー、く…ん。…だい…じょうぶ…だった?」
「…な、なに、言って…」
腕から流れる紅い血。
身体中にある痛々しい打撲痕。
虚ろな目。
…他人の心配をしているような状態じゃないはずなのに。
「ご主人っ!!とりあえず、手当てです!!意識のあるうちにっ…早く!!!」
エネの声で、目が覚めた。
「…ちょっと、じっとしていてください…カノさん…」
エネの的確な指示で、ボロボロなカノさんの手当てをした。
カノさんは、虚ろになりながらも、欺こうと、必死になっているようだった。
…なんで、こんな時にも、欺こうとするんだよ…。
その表情は、鈍感な俺でも、無理してることがわかる顔だった。
それから、落ち着いて…
「…シンタロー君、エネちゃん。ごめんね。手を煩わせちゃって…」
カノさんは、笑いながら、そんなことを発した。
「…っそんなこと…」
「いえいえ。お仲間の命の危機でしたから…当然です。…ちょっと、私、妹さんに用事がありますので。」
俺のスマートフォンの液晶から、エネは、モモの元へ飛んでいった。
二人きりになって、気まずくなった。と、感じているのは、俺だけなのかもしれない。
「シンタロー君。元気だった?…ちょっとやつれてるね…、睡眠不足?」
…なんで、俺のことばっか聞くんだよ…っ。
そんなことを聞くカノさんの顔は、欺いてる顔だった。
…なんで、そんな顔しかしないんだよ…。
「…カノさん。…今まで、どこに行ってたんですか…」
カノさんの表情が曇る。
「…依頼で、ね…」
目を伏せて、そういった。
「…危険な依頼だったことは、キドさんから聞きました…。でも、カノさんなら、無傷で帰ってこれる依頼って…キドさん、言ってました…、どうして…」
ああ、もう。そんなこと、どうだっていい…のに。
ただ、もう一度、カノさんに会えただけで、いいのに。
湧き上がっていた、この想いを伝えることが、できない。
もどかしい。
そんなことを思っているうちに、カノさんが、口を開いた。
「…一度は、無傷で、帰れたんだけどね…。…脅されて、まんまと引っかかっちゃった。」
あはは、と乾いた笑いで、俺を見上げる。
「おどされっ…?え…」
つい、でてしまった。
脅しに引っかかった…?自分の口車にのせて、相手の調子を乱させる…あの、カノさんが…。
「…おかしいって思うでしょ…あーあ、あんなの、無視するのが普通なのにな…」
笑いながら、俯くカノさんは、寂しそうだった。
「『如月シンタローを、拉致監禁するぞ』ってね。しかもシンタロー君の盗撮画像持ってたし…。…むさい男だったし…」
…は?ちょっと待て。なんで今、俺の話が出てくる?
「ちょちょっと…待ってくださいっ…なんで、男≠フ俺なんですかっ!?」
声が裏返った。
それを聞いて、カノさんが笑みをこぼす。
「あはは、シンタロー君いつも通りだね〜。…はあ、だからかわいいんだよ。」
「かわっ…」
思わず赤面してしまう。やばい。気づかれるっ…。
「?どしたの…、シンタローく「俺のことは、いいんで、質問にこたえてくだしゃい!!!」
あ、思いっきりかんだ。ああ…もう、体が熱くて仕方がない。
カノさんを不意にみると、いつもよりもニヤニヤした顔で、こっちを見てた。
…欺ききれてないな…これは…。…本人は、気づいてないみたいだが。
「…僕といつも一緒にいたからじゃないかな…。相手もこっちのことは、調査済みだったんでしょ。きっと。」
…いや、まて。なんで、拉致監禁なんだ。おい。
「…そんなの、シンタローくんを襲いたかっただけでしょ。」
…はい?
「はあ…シンタロー君、無防備すぎるんだよ…。盗撮画像のキミの表情…っ…なんであんなにっかわいいの…」
なんかぶつぶつ言い出した。
「…男なのに?」 「男なのに。」
「…で、ちょっと、頭にきちゃって、僕が殴っちゃった。そのむさい男。」
…なんで、殴る…。そんなの無視してさっさと、帰って来い…ばか。
それから、ずっと、殴り合い、追い掛け回され、必死の思いで、ここにたどりついたという。
その間、色々なところに泊まっていたらしい。
ちょっと、嬉しかった。俺のために、こんなひどい怪我まで負って。
なんて、思う俺は、おかしいのだろうか。
「あ、シンタロー君。いい忘れてた。」
カノさんは、俺を見つめて、こういった。
ただいま
「っ…ぅあ…」
この、数週間。カノさんがいない日々のことをおもいだして、
涙が、頬を伝った。
「し、シンタローくん!?どしたの!?」
カノさんは、傷を負った、体を引きずりながら、俺の元へ駆け寄る。
ああ、カノさんは、ここに、いる。
ちゃんと、俺の隣にいる。
それだけで、十分だ。
「カノさん。
大好き≠ナす。」
止めどなく、心の中で溢れ返っているこの想いを、やっと、伝えられた。
俺は、明日も、この人についていく。
そして、呟く。
おかえり=@
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『─カノさん、大好き。』の続編。
ピクシブの産物。
続編希望の声を受けて作成したもの。
色々混じってますが、
ハッピーエンドにしておいてください。